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俺と貴方のうた

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俺と貴方のうた

5 - 大切にし過ぎた

♥

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2025年06月08日

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メンバー全員でのYoutube撮影が終わり、今日のスケジュールは全てこなした。

今日は感情が怒涛のように湧き起こった日だったなぁ、とくたくたの体を奮い立たせて帰り支度を始めた。


俺は、いつもの癖で涼太の様子をちらっと横目で伺う。片想いをしてから涼太を無意識に見てしまうようになって、首の骨が変形したのではないかと思うくらい、自然と涼太の方を向いてしまう。



涼太は昼間と同じようにスマホに齧り付いていた。

何をそんなに夢中になって見ているのだろう。

ラビットの収録が終わった後から、ずっと様子が変だ。

何か文字を打っているわけでもなく、ただ、ずっと画面をスクロールをしている。



見てきたからわかる。いつもの涼太は、何か暇を潰すような時でしかスマホを握り締めたりしない。誰かに連絡を返すときでも、少し操作をしてはすぐに画面をオフにするのだ。こんな涼太を見るのは初めてだった。



あまりに熱中して見ているので、声をかけることも躊躇われてまごついていると、翔太が涼太に声をかけていた。


二人が話している内容は聞き取れなかったが、どうやら一緒に帰るのか、はたまたどこかへ食事に行くのか、二人揃ってどこかに行くような動きをしていた。




二人ともに準備を終えると、翔太はみんなに「おつかれ〜」と気だるく声を掛け、涼太は「またね」と言って部屋を出て行った。



正直、羨ましくて仕方がない。

あの二人には独特の空気感がある。

幼馴染にしか出せないような、そんな、特別な関係から滲み出る雰囲気が翔太と涼太の中にはあって、俺はそれが欲しくて欲しくてたまらない。

翔太も涼太も、俺も、生きてきた時間は変えられない。どんなに涼太のことを見つめていたって、大切に想っていたって、二人が過ごしてきた時を超えることはできないんだと、思い知らされるようで得体の知れない何かに押し潰されるようだった。




俺じゃ翔太には勝てないのかもしれない。

だって、俺の色じゃ淡いから。

ピンクじゃ赤は染められない。

鮮やかな紅と濁った桃なら、なおさら綺麗な色には混ざり合えない。

苦しいなぁ。




行き場を失った感情が、鈍く深く心を濁らせていく。




どこにも行けず、ぼんやりと虚空を見つめていると、突然背中に痛みが走った。


「ッたァァ!?!? え!?なに!?!?」

後ろを振り返るとその衝撃の犯人は深澤だった。


「自信持てって言っただろ。腐るな。」

深澤が俺に言う。


どういうこと?昨日から深澤が言ってる自信ってなに?なんのこと?腐るなって?


「ぁにゃ?」

理解できずに、疑問符ばかりが浮かぶ。

そんな俺に向かって、メンバー全員が立ち上がって俺を囲む。こわいこわいこわい。


「好きなら離れるな、縛りつけてでも一緒にいろ。」

照からの助言?…いや、命令?


「大好きなら、‘だーいすき❤︎’って言えば良くない?‘好きじゃないなら好きになって’

って言ったらいいじゃん」

ラウの少し強引な愛情表現方法。


「直球が一番やで!!! すき!あいしてる!そんで小粋なギャグかましたら完璧や!元気な時のさっくんが一番いい男やで!」

康二の励まし。


「花プレゼントするのどうっすか?シチュエーション大事ですから。」

蓮からの謎の提案。


「お前のせいで最近ゆり組と同じくらい、さくだて尊くて推し始めちゃってんだから早くくっつけよ。需要過多だよ。供給足りてねぇんだよ。」

阿部ちゃんからの理不尽なクレーム。キレ阿部だ。あざとくない…。こわい…。



全員が一言ずつ俺に言葉をくれた。

そして、もう一度深澤が仕切る。


「まぁ、俺らから言いたいことは、まだうまくいくかも決まってねぇのに、やる前からいじけて諦めるようなことすんな?ってことだね」




あぁ、そっか。

なぁんだ、みんなにバレてたのか。

うまく隠せてると思ってたんだけどな。

なんだか、それだけで濁り始めていた心が晴れていくような、そんな感じがした。

俺の味方でいてくれる人ってこんなにいたんだね。

俺にこんなに言葉をかけてくれるみんなに、これ以上ないくらい感謝の念を抱いた。


「みんな、ありがとっ!!!!!!」

大きな声で叫んだら、みんなは「せーの!」の合図で一斉に俺の背中を引っ叩いた。


「だから、痛いって!!」


部屋には俺の笑い声が響いていた。



「行ってくる!」

そうみんなに伝えて、「おう」と答えてくれるみんなの声を背に部屋を飛び出した。




うまく行っても行かなくても、やる前から諦めちゃだめだ。

俺のありったけを伝えるんだ。


涼太に今から会えないかと連絡しようとスマホを取り出すと、翔太からメッセージが来ていた。



「ここ来て」

とだけ書かれたメッセージの下には、どこかの住所と一枚の写真が続いていた。

写真をタップすると、そこにはグラスを片手に、遠くを見つめている涼太が写っていた。


「え?どういう状況?」と返信すると、


「こいつ迎えに来て」とだけ返ってきた。


状況が分からなさすぎたが、涼太に会いたかった。

翔太に感謝しながら「すぐ行く」と返信し、蓮の助言通りに薔薇の花を買った。

大通り沿いでタクシーを拾って指定の場所へ向かった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




Youtube撮影を終え、俺はメンバーと同じ空間でスマホを見ていた。普段こんなに携帯を見ていることはあまり無い。

見ているのは、今日のラビットで紹介されたあの詩を書いている方の投稿。

どうしてか、一度読んでからずっとこの人の詩が頭から離れなかった。


顔も本名も知らない人だけど、誰かを想って書いたこの詩は、全てがとても切なそうで、悲しそうで、でもどこか幸せそうで、胸が締め付けられた。

自然とこの人の詩に、自分と佐久間のことを重ねてしまう。

余計に恋しさが募った。

スマホに夢中になっていると、不意に翔太から声をかけられた。




「涼太。」

「…ん?」

「今日飯行かね?」

「いいけど、急にどうしたの?」

「気分。」

「ふふ、なにそれ。いいよ、どこ行く?」

「あそこ。」

「はいはい。」

「支度終わった?」

「うん、大体は。翔太は?」

「終わってる。」

「じゃあ行こっか。」

「ん。おつかれ〜」

「またね」

みんなに声をかけて部屋を出た。




翔太のお気に入りのお店に着き、最初の飲み物とおつまみを注文した。

すぐに運ばれてきたお酒を掲げ、小さな声で乾杯した。

幼稚園の頃から一緒にいる翔太と、こうしてお酒を飲む日が来るなんて、と未だに思う。

翔太は誰かに連絡を取っているのか、たぷたぷと液晶を指でなぞっていた。


用が済んだのか、翔太はスマホを閉じて、枝豆に手を伸ばしながら俺に問いかけた。


「お前、佐久間となんかあっただろ」

飲んでいたビールが綺麗に弧を描き、机に雨を降らせた。なかなか土砂降りだった。



「うわ、きたな」と言いながらも翔太はおしぼりを渡してくれる。冷たいんだか優しいんだか。


げほげほと咳き込みながら、翔太の質問をもう一度聞く。

「なんだって?」


「だから、佐久間となんかあっただろって」





「………無い。」


「間なが。言ってみろって。誰にも言わねぇから。」




「………す、ぇた……………」

「え?なに?」

「〜ッ!!!!だから!!!!!いきなりキスされたの!!!!!!」


「へぇ、よかったじゃん。」

「どこが!!!!」

「好きなんだろ?佐久間のこと」

「…な、んな、、、な、な、」

「な、しか言ってねぇじゃん、ウケる」

「なんで知ってんの!!!!」

「え?見てればわかるくね?普通に。涼太わかりやすいもん。」

「うそ……じ、じゃあ、佐久間も知って……」

「いや、あいつは気付いてないと思うよ。アホだし。てか、あいつだけが気付いてねぇ。」

「よかった……」

「もう言っちゃえばいいじゃん。」

「無理だよ…」



言えない。今更言えない。何度も何度も、気持ちが溢れそうになっては、抑えるのを繰り返してしまっているうちに、大きくなり過ぎてしまった。

こんな状態で振られてしまったら、もう立ち直れない気がして、傷付きたくなくて、だから諦めがつくまで待とうって、やり過ごしていた。


誰に打ち明けることもなく、ただ、ただ、無になっていく日をずっと待っている。

佐久間を好きだと思えるだけで、それだけで俺は幸せなんだ。

伝える日が来ることがなくたって、それでいいんだ。

困らせたくない、迷惑かけたくない、嫌われたくない、拒絶されたくない。

自分一人だけで抱え込むことは、そんなにいけないことなの?




“ただ好きでいるだけじゃ 駄目なのかな

ただ会いたいだけじゃ 駄目なのかな

あなたは やっぱり 大事すぎて

もう少し このままの二人がいい“




フレーズが頭に浮かぶ。佐久間を好きになってから、何度も何度も聴いた歌。


大事すぎた。

大切にし過ぎた。佐久間のことも、自分の気持ちも。

もう、どこにも行けない。



なにも言えなくなってしまった俺に、翔太が続けた。


「なにをそんなに考え込んでんのか知らないけどさ、佐久間が誰かに好きって言われて迷惑がるような奴に見えるか? それに、多分、涼太が考えてるようなことにはなんないと思うよ。 ほら、 もうすぐ迎え来るぞ。」


「誰が?」


「お前のナイト」



翔太が言った言葉が理解できず、「は?」と吐き出したのと同じタイミングで、個室のドアが勢いよく開け放たれる。




「涼太ッ!!!!」と俺の名前を叫ぶピンク色の頭。




それはゆっくりと近付いてきて、握り締め過ぎて萎れ始めている薔薇の花束を俺の目の前に差し出して、じっと俺の目を見つめ、口を開いた。












「……っすき、、…………。」




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お借りした楽曲 秘密の宝物/奥華子様

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