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俺と貴方のうた

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俺と貴方のうた

6 - 桃色に染まって

♥

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2025年06月08日

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「……っすき、、……………。」




小さく小さく微かに聞こえた声と、目の前に捧げられた薔薇の花束。


鈍い俺でもこれが告白だってことはわかる。

でも、どうして今告白されているのか、そこについては全く思考が追いついていなかった。

目の前にいるのは、好きで好きで、ずっと好きで仕方なかった人。


佐久間が俺を好き?

これは夢?本当のこと?

現実味が湧かなくて、言葉がうまく出てこない。

沈黙に耐えかねたように、佐久間はまた言葉を紡いだ。



「あのね、俺、涼太のことずっとずっと、多分、子供の時から好きだった。

涼太はかっこよくて、ダンスも歌もすごく上手くて、憧れてた。

でも、大人になって行くたびに、憧れとか大切とかに綺麗じゃない気持ちも混ざってって、こんな感情伝えちゃいけないって思うようになってからは、怖くて言えなかった。

でも、何も伝えないで諦めるのは駄目だって、そう思ったから、ここにきた…。

えっと、何が言いたいのかよく分かんなくなっちゃったけど、

俺、涼太のこと、ほんとにだいすきだよ。

涼太が、こないだ俺のこと好きって言ってくれたの、すごくうれしかった。

友達としての「好き」だったのかもしれないけど、それでもほんとにうれしかった。ありがとう。」


佐久間は、座敷の端に正座をして小さく丸まった体で、何度も何度も俺を好きだと言ってくれた。




うれしかった。とても幸せだった。

でも、この幸せに飛び付いていいの?

どうしよう。


俺も同じだった。

気付いた時には佐久間が好きだった。

でも時間が経てば経つほど、自分の気持ちが浅ましく思えて、そんな不純物の混ざったもの、佐久間にぶつけちゃいけないって、言えなくて苦しかった。

それでも未練がましい俺の心は、ずっと佐久間だけを想っていた。

応えていいのかな、応えたい。でも勇気が出ない。

佐久間を見ているだけで、好きでいられるだけで、それだけで十分だった。幸せだった。

俺は、これ以上幸せになっていいの?


助けが欲しくて翔太の方を見ると、スマホを握り締め、こちらのことなど一切見ていなかった。

くそ、役に立たねぇ。





「…ねぇ、涼太?」


佐久間に呼ばれ、はっと振り返る。


「こっち見て?」

「ご、ごめん…。」

告白してくれているのに、よそ見をしてしまったことを謝罪すると、佐久間は白い顔を更に青白くさせ、絶望したような表情になった。…しまった。



「…ちがくて、そういう意味のごめんじゃなくて、、よそ見してごめんねって…。」

「!! ううん、だいじょぶ。」

わかりやすくほっとしたような顔をして、ふるふると首を振る佐久間が可愛くて、愛おしくて、どうにかなってしまいそうだった。



「ねぇ、涼太?」もう一度、佐久間が俺に問いかける。

「ん?」

「涼太の返事、聞きたい。」

「っ、」

息が詰まった。

佐久間の目があまりにもまっすぐで、瞳の奥にぎらぎらと光る何かがあって、射抜かれた俺は動けなくなってしまった。

こちらを伺うようでもあり、逃さないと言っているようにも感じられた。






これまでずっと秘密にしてきた気持ちを、ありったけの言葉に乗せて涼太に伝えた。

返事が欲しいのに、涼太は翔太の方を見るので、苦しくなった。


よそ見しないで、今だけでもいいから俺だけを見ててよ…。

蓋をしていた感情は封印が解かれた瞬間に自我を持ち、抑えていた欲望はとめどなく溢れ出して、背筋を伝う。

愛情も嫉妬も劣情も、全てが一つに混ざり合って涼太を侵食しようとしていた。



名前を呼んで、こっちを向かせる。

返事をねだる。


どうか、手を取って…………。


涼太は、震える唇を開いた。






「お、れも……すき、、」


息を呑む。





「………ほんとに?」


「うん、俺も佐久間のことずっとずっとすきだった。

ずっと一緒にいられたらそれでよかったの、近くで見ていられたらそれでよかったの。

でも、俺、、佐久間のもっと近いとこに行ってもいいの?」

「っ、ぅん、うん、、、涼太にそばにいてほしい…、涼太は俺でいいの?だって、俺…」

「佐久間がいい。佐久間じゃなきゃやだ。」

一切の迷い無く、俺の不安を消し去るように、涼太は「俺がいい」と言ってくれた。


もう、止まらなかった。止められなかった。



「俺の彼女になって?俺と付き合って…?」

「はい、俺でよければ、喜んで…っ」

涼太は、そう答えた瞬間泣き出した。


「な、ぇ!? り、りょうた!!!? どうしたの!? なんか俺嫌なこと言っちゃった!?どっか痛い!?」


「…ううん、、うれしいの………っ、、、さくま、すき…すき……だいすき………」




そう言って、俺を透き通った瞳で見つめる涼太に、くらっとした。

頭の先からつま先まで、俺に染まり始めている涼太に、これまでに無いほど欲情した。

もっと染めたい。涼太の中を俺でいっぱいにしたい。もっと色んな顔が見たい。





かわいい。たべたい。


そう思った瞬間、俺は握り締めていた花束を放って、涼太に口付けた。



「んんぅ!? ちょ、、っさく、ま…ッ、、ふ…ぁ、」

驚いて、俺の名前を呼ぶために開けた涼太の口の中に、舌を捩じ込む。

涼太の甘い舌を何度もなぞって味わう。溢れる唾液は媚薬のように広がって俺の体中を駆け巡る。

沸騰しそうなほど熱い。涼太の熱が伝わってきて溶けてしまいそう。


逃げないように涼太の頭を右腕で抱き抱え、その指で耳を何度も往復してなぞり、撫でる。


「、っぁ、、ん、ふぅッ、ぁ…ッ」

びくびくと跳ねる涼太の身体、唇の隙間から漏れる吐息、その全てが愛おしくてたまらない。



すき、だいすき、全部欲しい。

ずっとこうしていたい。

もっと欲しい。


涼太の体を倒して、晒された白い首筋に舌を這わせて口付ける。

舐めて、噛んで、吸い付いて、もう一度涼太の唇に噛み付こうとしたところで、後頭部を誰かに引っ叩かれた。


「ッでぇ!!!??」

振り返るとそこには心底ドン引きした顔の翔太がいて、


「ここで盛るな。どっちかの家帰れ。」

と迷惑そうに言った。




頭を引っ叩かれて我に帰ったところで、涼太のことが心配になって、かわいい彼女の方を向く。

そこには、頬を紅潮させ、目を潤ませ、息を切らせた涼太がくったりと寝転がっていた。

おいしそうだった。

いけない、いけない、と頭を振って煩悩を捨て、涼太の手を取って起き上がらせた。



冷静さが戻ってきた頭で、ここが外であり、居酒屋であることを思い出した。


「ご、ごめん…」

俺は自分の痴態に恥ずかしくなって、素直に謝った。


「まぁいいよ。俺しか見てなかったし。とりあえず俺は帰るわ。」

「うん、ありがと」


翔太は立ち上がって、伝票を回収して出て行こうとするので、思わず引き留めた。

「え、俺も出すよ」

「いいよ、お前まず何も食ってないだろ」

「いやそうだけど」

「いいの、ここは貸しな、それに払っとかないと後々罪悪感残りそう」

「?? よく分かんないけどありがとう」


翔太の言い回しが少し気になったが、素直にお礼を言った。


「翔太、ありがと」

と涼太も感謝を伝えると、


翔太は、照れくさそうに「おう」と言って帰っていった。

と思ったら、戻ってきて、ひょこっと顔を覗かせ、

「涼太泣かせたら殺す」

と捨て台詞を吐いていった。







「帰ろうか」

ぽそ、と涼太が呟く。


俺も、小さく

「うん」と応えた。


どこか寂しそうな涼太を放っておけなくて、 思わず「俺の家泊まってく?」と聞いてしまった。


すると、涼太は嬉しそうに、恥ずかしそうに、驚いたように、

「いいの?」と聞くので、胸がきゅーっと苦しくなって、

「まだ一緒にいたい」と抱き締めると、照れたように「うん、俺も」と答えてくれた。



視界の端で見えたその頬は、桃の色に染まっていた。

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