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「運命」と思える君

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「運命」と思える君

2 - Tシャツ

♥

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2025年07月25日

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電車を降り、終電後の静まり返った駅のホームに降り立つ。

腕の中に眠る元貴の重みが、滉斗の腕にじんわりと伝わってきた。


見知らぬ男を自宅に連れ込むという行為に、滉斗は戸惑いを隠せないでいたが、他に選択肢はなかった。



タクシーに乗り込み、数分で自宅マンションに到着する。エレベーターを降り、自分の部屋のドアを開ける。

明かりをつけ、元貴を抱きかかえたまま、リビングを通り過ぎ、寝室へと向かった。



ベッドにそっと元貴を下ろす。ぐっすりと眠り続ける元貴の姿を見て、滉斗はため息をついた。



「とりあえず、これで少しは楽になるだろ…」



そう呟きながら、元貴のスーツのジャケットを優しく脱がせる。ネクタイも緩めてやった。



最後に元貴の顔にかかる前髪をそっと払いのけ、元貴はシャツとスラックス姿でそのまま深く眠りこけている。



この後どうするべきか。


見ず知らずの男を、自分のベッドに寝かせたままにしておくことへの葛藤が胸に押し寄せる。

しかし、疲れて眠りこけている元貴の姿を見ると、どうにも起こす気になれなかった。



とりあえず、自分はリビングのソファで眠ることにしよう。そう結論を出すと、滉斗は寝室のドアをそっと閉めた。



シャワーを浴びて着替え、リビングのソファに体を沈める。

普段は使わない、薄手のブランケットを引っ張り出し、体を覆った。


慣れない場所での睡眠に、なかなか寝付けないかと思ったが、疲労は滉斗の想像以上だったようだ。


微かに聞こえる寝室からの寝息に、不思議な安堵感を覚えながら、滉斗もすぐに眠りに落ちた。









翌朝。



眩しい朝日がリビングの窓から差し込み、滉斗の顔を優しく照らした。

ゆっくりと目を開けると、天井と固いソファの感触に、昨夜の出来事が一気に蘇る。


寝室のドアに目をやると、まだ静かだ。元貴はまだ眠っているのだろうか。その時、



「……んん……」



と、寝室から微かな声が聞こえた。滉斗は跳ね起き、そっとドアに耳を傾ける。


ガタン、と何かを落としたような音がしたかと思うと、ガチャリとドアが開く音がした。



「……ここ……どこ…?」



寝ぼけ眼で顔を出す元貴の姿に、滉斗は固まってしまう。



シャツとスラックス姿のまま眠ったのだろう、シャツはあちこちシワになり、少し着崩れている。



その姿は、昨日のスーツ姿からは想像もできないほど幼く見えた。



元貴は、滉斗がリビングのソファで寝ているのを見つけると、ハッと目を見開いた。

その顔はみるみるうちに真っ赤になっていく。



「えっ!? で、電車の!? なん、で…!?」



元貴は混乱したように部屋を見回し、自分がここにいることを悟ったようだ。



「俺、なんで…、どうしてここに…?」



昨日まであんなに疲れていたはずなのに、状況を理解しようと必死に混乱している元貴の姿は、まるで頭にクエスチョンマークが何個も浮かんでいるようだった。


その混乱ぶりは、昨夜の彼の眠りがどれほど深かったかを物語っていた。



「あ…あの、俺…! 何がありましたっけ…」



ようやく言葉を見つけた元貴は、一瞬で顔を真っ青にする。

見知らぬ男性の家で目覚めたことへの驚きで、元貴の頭の中はパニック状態だった。



滉斗は、慌てふためく元貴の様子に、ふっと笑みをこぼした。



「まあ、とりあえず落ち着いてください。電車の中で、俺の肩で寝ちゃったんですよ。何度か起こそうとしたんですけど、全然起きなくて…どうしようもなくて連れてきちゃいました…驚かせてごめんなさい…。」



滉斗は、できるだけ冷静なトーンで昨夜の状況を説明する。

元貴の顔は、その説明を聞くにつれて、赤くなったり青くなったりと忙しい。


「…え”っ、……嘘…」


元貴は、自身の情けない姿が信じられないといった様子で、ぽかんと口を開けた。


終電の記憶は、あまりに深い睡魔に霞んで、ほとんど残っていないらしい。


自分の記憶の曖昧さと、見知らぬ相手に迷惑をかけた現実に、元貴の顔はみるみるうちに情けなさと申し訳なさでいっぱいになっていった。



「本当に…その、すみません…! 迷惑かけてしまって…」



元貴は、今にも消え入りそうな声で謝罪を繰り返す。シワだらけになったシャツの裾を、ぎゅっと握りしめていた。



「いやいや全然大丈夫です!ああ、それとそのシャツ…着たまま寝たからシワになってますよ。もしよかったら、俺のTシャツ、貸しましょうか? その間に、アイロンかけときますから」



滉斗はそう言って、元貴の視線が自分のシャツのシワに釘付けになっていることに気づいた。



そして、クローゼットから適当なTシャツを引っ張り出し、元貴に差し出した。



元貴は、差し出されたTシャツと、アイロンをかけようとする滉斗の姿を交互に見た。



「いえ、あの…そんな、悪いですよ…!自分でやりますから…」



初対面の相手に、これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。そう思って遠慮しようとするが、滉斗はにこりと微笑んだだけで、元貴の手にTシャツを無理矢理握らせて、そのままアイロン台へと向かっていく。



「いやいや、いいから!会社行くんだから綺麗なシャツで出かけた方がいいでしょ。」



そう言って、滉斗はちらりと元貴に視線を向けた。その言葉には、少しだけいたずらな響きが込められている。

滉斗の勢いに、元貴は完全に押し負かされた。



「あ、でも…ここで、ですか…?」



初対面の人間の前で服を脱ぐなんて、考えただけで顔が熱くなる。元貴はシャツの裾を握りしめたまま、気まずそうに視線を彷徨わせた。



そんな元貴の様子に気づいた滉斗は、ふっと優しく笑った。



「そうですよね。じゃあ…俺、あっち向いてるんで。終わったら声かけてください」



そう言うと、滉斗はくるりと背を向け、元貴に背中を向けた。

アイロン台に向かいながらも、ちらりと元貴を気遣う視線は、彼の優しさを物語っている。



元貴は、滉斗の背中を見ながら、ホッと胸をなで下ろした。そして、躊躇いがちにボタンを外し、シャツを脱ぎ始める。

滉斗のぶかぶかなTシャツを纏う自分の姿を想像し、更に顔を赤くしたのだった。











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