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「…あの、着替え終わりました…」
数分後、元貴の遠慮がちな声に、滉斗はくるりと振り返った。
そこに立っていた元貴は、滉斗のTシャツを纏っていた。
彼の体にはぶかぶかで、肩のラインは落ち、袖は肘まで隠れそうになっている。シャツの裾は、スラックスの上でだぶついていた。
まるで子供が大人服を着ているような、その可愛らしい姿に、滉斗は思わずふっ、と吹き出してしまった。
「…っ、何笑ってるんですか…!」
元貴は、恥ずかしさで真っ赤になった頬をぷうっと膨らませて、滉斗を睨んだ。その仕草が、あまりにも可愛くて、滉斗の笑いは止まらない。
「ごめんごめん! いや、あんまりにも可愛くて…」
「か、かわい、……ぇ」
元貴が顔を真っ赤に染めて俯く。その姿さえも可愛らしくて、滉斗はまた笑みが零れた。
滉斗は笑いを収め、アイロンをかけ終えた元貴のシャツを畳みながら口を開いた。
「改めて、おはようございます。俺、若井滉斗っていいます!営業一部にいます」
滉斗の自己紹介に、元貴はハッとした。そして、まだ少し不機嫌そうにしながらも、ぺこりと頭を下げた。
「お、おはようございます…僕は大森元貴です。あ、あの…営業二部です…」
元貴の言葉に、滉斗は目を見開いた。
「ねぇ…!やっぱりさ、同じ会社だよね?」
「え?そ、そうなんですか?…」
元貴が訝しげに問いかけると、滉斗は驚きと喜びがない交ぜになった表情で続けた。
「昨夜、電車で社員証見ちゃって…。その時ももしかして…?って思ったんだけど!」
滉斗が申し訳なさそうにそう付け加えると、元貴は「あっ…」と納得したように頷いた。
まさか、こんな偶然があるとは。
「もう……すごい偶然じゃないですか!?」
滉斗が目を輝かせて言うと、元貴もじわじわと状況を理解し、驚きに固まっていた表情が、少しずつ緩んでいく。
「…ホントだ…。すごい偶然ですね…」
「でしょ? 俺たち、すごい出会いですねっ」
滉斗の言葉に、元貴は目を丸くした。まさか、見ず知らずの他人が、同じ会社で、同じ部署だったなんて。
昨夜の失態は恥ずかしいけれど、この偶然は、何だかとても不思議で、少しだけ嬉しかった。
二先ほどの気まずさや緊張が嘘のように消え去り、まるで長年の友人のような温かい空気が流れ始めた。
「腹減りません? パパッと何か作りますけど」
滉斗がそう声をかけると、元貴の胃袋がぐぅ、と可愛らしい音を立てた。
元貴は恥ずかしそうに頬を赤らめ、慌ててお腹を押さえる。
「あ、すみません…」
「ははっ、全然大丈夫ですよ。食べたいものとかあります?」
「いえ…何でも…」
元貴の返事に、滉斗は楽しそうに笑い、キッチンへと向かった。
冷蔵庫を開けて手際よく食材を取り出すと、あっという間にトーストとスクランブルエッグ、ベーコンが並んだシンプルな朝食が完成した。
淹れたてのコーヒーの香りが部屋中に広がる。
「どうぞ」
滉斗に促され、二人はダイニングテーブルに向かい合った。
見ず知らずの相手と、まさか朝食を囲むことになるなんて、誰が想像つくんだよ。元貴はまだ少し戸惑いつつも、温かい食事にホッとした。
「…美味しいです…」
元貴が小さく呟くと、滉斗は嬉しそうに微笑んだ。
「良かった。元貴さん、食べ終わったら洗面所使ってください。歯ブラシとか、新しいのありますから」
その滉斗の気遣いに、元貴の胸はまた温かくなった。
コメント
4件
大森さんかわよぉ このお話もめっちゃ好きです!
大森さんも若井さんもかわうぃぃ〜😘😘