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−自分にとって辛い一日は誰かにとって幸せな一日である−
××高校一年長谷川麻耶ずっと片想いをしている相手がいる。
「麻耶!次移動教室!」
ぼーっとしていた私に声をかけてきたのは松本香里奈。中学一年の頃からずっと同じクラスだ。
「ほんとだごめん!ちょい待って!」
いつも通りの適当な返事をしながら机の上にあった教科書と筆箱を引っ掴んで廊下に出る。
「今日も寒いねぇ」
そう言って香里奈は手に持ったカイロを振り振りしている。今日も相変わらず可愛いな、と心の中で思う。本人にはこんなこと絶対言えない。
実は香里奈は高校に入ってから密かに男子からの視線を集めている、当の本人は全く気づいていないが。
部活で焼けていた肌はすっかり白くなり、スクールメイクも習得したおかげで中学の頃より随分と垢抜けた印象になった。中学まではベリーショートだった髪も今では胸下ロングで綺麗に巻かれている。
明るくてよく笑うところや誰に対しても優しいところは中学から変わっていない。
「松本さん、カイロ落としたよ。」
そう言って後ろから声をかけてきたのは高橋俊介。私の隣の家に住んでいるいわゆる幼馴染の関係だ。
「あっ、俊介くんありがとっ!」
香里奈が満面の笑みで俊介にお礼を言う。その時私は気づいた。いや気づかないはずがない。
俊介のぎこちない会釈、泳いだ視線、そして赤らめた顔。
これが恋じゃないならなんと説明するのだろうか。
そそくさと離れていった俊介は友達の男子に茶化されながら照れくさそうに笑っている。確定だ。
“俊介は香里奈のことが好き”
たった今判明したこの事実を私は素直に受け止めることが出来なかった。
一旦冷静になって考えよう。香里奈も俊介のことが好きなのだろうか。まさか知らないうちに二人は付き合っていたのだろうか。
私の心はもやもやに支配される。
「麻耶ちゃん!顔死んでるよ!」
香里奈に声をかけられて我に帰った。
「ごめん!世界平和祈ってたわ!」
咄嗟に出た意味のわからない冗談に香里奈は天使のような笑顔でにこにこと笑っている。この子は全人類の中で一番可愛いに違いない、と心の中で断言した。
チャイムが鳴り私たちは理科室で生物の授業を受ける。いつもは憂鬱な授業だが今日の私は香里奈のことで頭がいっぱいである。
手っ取り早いのは香里奈に「好きな人いるの?」と聞くことだが意気地なしの私にそんなことはできない。
中学の頃、香里奈から好きなタイプを聞かれたことがあったが適当に優しい人かな〜とか身長高い人が良いよね〜とかそれっぽいことを言って誤魔化した。
それ以来香里奈と恋バナをすることは無かった。きっと私は恋バナが苦手なんだと思っているに違いない。
そういうわけではないのだが。
俊介に香里奈とどういう関係なのか聞いてみようか。それはそれで何となく卑怯な気もして複雑な気持ちになる。
授業終わりのチャイムが鳴る。これ以上考えてもしょうがない、切り替えよう。
特に何もないまま7限が終わってあっという間に放課後になる。
いつもと同じ香里奈と二人の帰り道。私は決心した。
「そういえばさ、香里奈って好きな人とかいるの?」
いつも通りのテンションを意識したが声は浮ついて震えている。香里奈に気づかれただろうか。
「もしかして気づいてた…?」
心臓が高鳴る、好きな人なんて聞かなければ良かったと後悔したがもう遅い。
「ごめん!実は私も俊介くんのことを好きになっちゃったんだ!」
予想外の台詞に頭が追いつかない。私“も”俊介くんが好き………?
そうか、香里奈は私が俊介のことを好きだと勘違いしているのか。
「ううん、私は俊介のこと友達としてしかみてないよ」
これは嘘じゃない。
「え、ほんとに?!勝手に勘違いしちゃってた!」
ホッとする香里奈を前に私はどう反応すれば良いのかわからなくなる。
「二人が上手くいくように応援するよ」
嘘をついた。だがこれ以上に良い返事は思いつかなかった。
「さすが麻耶!最高の親友っ!」
そう言って香里奈は笑った。
この日香里奈の“親友”である私は失恋した。
そして私の“好きな人”である香里奈の両想いが確定した。