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_取り調べだ__🥀𓈒 𓏸
チリン……__
BARの扉が開く
カウンターの奥ではニコニコ笑みを浮かべながらいつも通りの挨拶をする
「いらっしゃいませ.お客様」
ダレイは何も言わずに、そのままズカズカBARの中へ入ると、バーテンダーの前に警察手帳を差し出す
ポカーンとしたバーテンダーの男の態度とは裏腹にダレイの目は完全に男を捕らえる
「刑事のダレイだ,これから取り調べを行う」
「取り調べですか?」
「ここでいい、すぐに済む」
あの事件のこともあるが、ここは未知のまま、刑事として、ここは知っておくべきだろう。
この男について、そしてこの場所がなんなのか、
今までここに来た人間は皆、生死構わず成仏して行ったのか……聞くことは山ほどだ
ダレイの要望に暫く男は考え込んだが,良いでしょうと再び笑みを浮かべ協力をしてくれることになった
「……おい」
「なんでしょう…?貴方はジン・トニックでしょう?」
当然毎度の如く,バーテンダーはカクテルを作っている
今から取り調べされる人には想定思えない
「カクテルはいい.取り調べだ」
「お客様、私のカクテルを飲まなければ要望にお答え出来ませんよ」
その言葉にダレイは従うしか無かった。
この男はどれだけ押しても、前のように俺に飲ませて来るだろうからだ
「お待たせしました」
いつものカクテルがカウンターから出てくると、男は何も言わずニコニコこちらを見てくるばかりで何もしない
(飲めってことか……)
ダレイはそのまま,カクテルを1口呑み込んだ
するとバーテンダーの男は話を始める
「ここはBAR。ただ、そこらのBARとは少々違うのです」
ダレイがグラスを机に置く
氷がカランと音を立て、時計の針の音が響く
「どういう事だ?」
ダレイが間も与えず質問すると、男は水色の目をダレイに向ける。
男の目が,ダレイを完全に捕らえた
「昨日のように、既に亡くなった方も…時々いらっしゃるのです」
「な……」
バーテンダーの男はカウンターの下から何やら大きめのファイルを取り出すと、一枚の写真をカウンターに乗せる
その写真はこの前BARに来た女性だった
そしてその隣には亡くなった際に新聞に取り上げられた資料が挟まっている
「……これは…」
「あの女性が来る事は知っていました。貴方は私を疑ってるようだったので、口より実物を見せようと思いましてね」
(何故そこまで先が読めるんだ…)
本当に不思議な男だ
改めて見ると,可笑しなバーテンダーだ。
髪は少し長めで後ろにまとめ縛られており髪色はボルドー。
水色の目が特徴で口元は常ににっこり笑っていて気味が悪い
何考えてるのか考えにくいやつほど、事件の犯人になると困難になる
ダレイの顔を見ながら男は困り眉毛で会釈をする
「失礼、怖がらせるつもりは無かったのです」
「怖がってなどない!」
「では……?」
「あんたの行動に困ってるだけだ…」
頭を抱える
確かに男からは話を聞いているはずなのに何も分からない.はぁ……と一つため息を出す
目の前では氷をザクザクと解体していた
「……冷たい」
「当たり前だ.凍ってるからな」
「その通りです」
アイスピックを片手に持ち上げながら男は淡々と話しを続ける
カウンターの上には飛び散った氷の欠片がキラキラ輝いている
「氷が冷たいのは冷えているからです。常識ですね?」
「……それがなんだってんだ…?」
「一般人が解決できないような物事…厄介事は刑事さんの仕事です」
何を当たり前なことを、そんなの子供にだってわかる事だ
「はぁ…つまりあんたはその厄介な物事を片付けてる亭で,バーテンダーから刑事にでもなってるって言いたいのか?」
ダレイは呆れ混じりにカクテルの氷をグラスごと回しながらゆっくり口に運ぶ
持ち上げたグラスの底でBARの男と目が合う
あれはたまたま合った訳じゃない.合わせに来たんだ
「……おい、どういう事だ?」
それじゃまるで…
「……今度は私の番です」
BARの男が懐から見たことも無い革製の手帳を差し出してきた
しかしそこにはしっかり刑事と刻印が張っていたのだ……
「どうも、バーテンダーであり…刑事です」
「はぁ!?」
ガタッと席から立ち上がり、男の手帳を見つめる
男は手帳をそのままカウンターに置く
「刑事だと…?」
「はい。しっかり資格もありますよ」
「待て…バーテンダーじゃないのか?」
そもそも刑事は副業が禁止されている
こんなことが知られれば警察免許剥奪だろう。
「バーテンダーが本業です,私の務めている所は少々,普通の刑事さんの仕事とは違う特殊な形なんです」
「特殊…?」
「私の担当の対象とする仕事は皆さん既に亡くなった方々です」
また訳が分からないことを…
だが前のあの現場を見たからには信用性がある
(確かに…こんなの見た事ない部署だ)
手帳の部署を見てもパッとするどころか、見たことも無い
偽造なんてのも考えたが、そんな手の込むこと何故する…?
何のために……
「私は,このお店とお客様のお話を聞くのが好きなのです」
カウンターの机を大切になぞりながら、何かを思い出すかのように語り始めた
「楽しそうにお話をするお客様は、カクテルを飲みながら素敵なひと時を過ごします。BARは大人の時間なんです」
ダレイが飲んでいたグラスを持ち上げる
グラスの水滴がツー…っと流れ男の指をつたい床へと垂れる
男は再び、ダレイに向き合うと手帳をゆっくり懐にしまう
「私の、理想なんですが…ね」
「本日もお越しいただきありがとうございました」
ダレイは無言で帽子をかぶるとそのまま返事もせず扉に手をかけた
外へ出ようとする足を止め、振り向きもせずにバーテンダーに話しかける
「アンタ…名前は?」
雪がポツポツと降り始める真夜中の事
まだまだ真っ暗な夜の空は白い結晶に満ち溢れていた。
入口から出る光にキラキラ光らせながらダレイの頬や腕に溶け消える
バーテンダーの男はいつもの通りニッコリ微笑む
サラサラの前髪がゆらっと揺れ、カウンターを拭いていた布から手を離し……男に告げた
「お客様…またのお越しをお待ちしております」
「うっわ……さむっ」
夜中になっても、イルミネーションの光で町中が明るい通りを歩いてるのはポケットに手を入れた一人の男,ノア
ノアはコンビニで買った袋を持ちながら
突然降り始めた雪を眺める
(こんだけ寒けりゃ雪も降るよなぁ〜)
上から降ってくる雪に身震いをする
ふと、男が地面に目を向けると、道路の隙間から1輪の花が咲いてるのを見つけた
その花を見ると……不意に前の2人の会話を思い出した
__……元々,出世の話も出ていたがこの件でどうするか聞かれた。…これは俺が解決したわけじゃない……丁重に断ったさ…__
「ハハッ……あははっ…ッ」
口元に手を押える.が、彼の笑みは止まらない
涸れたような…笑みだ
「ムカつくなぁ…そういうとこ」