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「近いのにわざわざ車に乗らなくてもいいと、思われているのですか?」
私の呟きが聞こえたらしく、車を停めた政宗医師から、そう問いかけられた。
答えずにもいると、彼は薄ら笑いを浮かべて、
「……それが何のためか、知りたいと……。……ふっ、そんなのは、あなたを逃がさないために、決まっているじゃないですか」
低く冷えた声で言い放つと、いつまでも乗っているわけにも行かず車を降りるしかなかった私の肩に手を回し、逃れられないような力で鷲掴んだ。
「やめっ……」
今さらながらに、付いてきてしまったことへの急な後悔が襲う。
「……もう遅いことぐらいは、わかっていますよね?」
抱いた肩を押し出すようにして、彼は足を進めながら、
「ここまで来て帰ることなど、不可能だと思いなさい」
階上の部屋に向かうエレベーターの中へ誘《いざな》った。
エレベーターが着き、肩を抱かれ逃げられないまま、開けられたドアの奥へ踏み入ると、後ろ手に鍵がカチッと音を立てて締められた。
「そこのソファーに掛けるといい」
広く空間を取ったリビングに置かれている、コーナーソファーを指差して、
「そこで、待っていなさい」
一言を言いおくと、彼は何かを取りに行ったようだった。
ソファーセットの他に、置かれている物もあまりないような、シンプルで広すぎる部屋を見回し、もうそこに座るより他にしようがないような気持ちで、腰を落とした。
やがてリビングへと戻って来た政宗医師が、
「……ワインでも、どうですか?」
手にしていたボトルを開けると、ふたつのグラスに中身を注ぎ入れ、その内のひとつを私の前につと差し出した。