テラーノベル
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神殿の最奥。
誰にも知られぬ禁忌の儀式を終えたテラモンは、自分の胸を何度も叩いていた。
「……軽い。」
さっきまで胸の奥をぐちゃぐちゃに掻き回していた恐怖も、嫉妬も、執着も、嘘みたいに消えている。
「すごい……!」
両手を広げてくるりと一回転。
「空気がおいしい!」
ぴょん。
「世界が輝いて見える!」
ぴょんぴょん。
「最高!!」
その勢いで部屋を走り回り、柱に激突した。
「いったぁ!!」
ゴンッ!
「……。」
部屋の隅に転がっていた黒い卵が、小さく震えた。
ドクン。
「ん?」
ドクン。
「……。」
ドクン。
卵の鼓動が、さっきよりずっと大きい。
「……いやいや。」
テラモンは乾いた笑みを浮かべる。
「気のせい気のせい。」
ドクン!!
今度は床まで揺れた。
「気のせいじゃない!!」
卵の表面に、一本の亀裂が走る。
ピシッ。
もう一本。
ピシピシッ。
黒い殻の隙間から、不気味な緑色の光が漏れ始めた。
「……。」
テラモンは一歩後ろへ下がる。
「……これ。」
さらに一歩。
「もしかして。」
また一歩。
「ヤバいやつ?」
パキィィン!!
卵全体が一気に砕け散った。
轟っ!!
神殿中を黒と濃緑の炎が飲み込む。
炎なのに熱くない。
けれど空間そのものが歪み、コードがノイズを走らせ、石床が黒く染まっていく。
「ごほっ、ごほっ!!」
テラモンは煙を払いながら叫んだ。
「なんだこれ!?
爆発!?
俺いつ爆薬混ぜた!?」
煙の向こうから、不機嫌そうな声が返ってくる。
「……うるせぇな。」
少し幼い。
けれど妙に棘のある低い声。
「騒ぐなよ、バカテラモン。」
「誰がバカテラモンだ!」
炎がゆっくり晴れていく。
そこに立っていたのは、小柄な少年だった。
半透明の身体は鮮やかな緑色。
#見捨てられた
リコりす@アナログタノピイ
7,973
#shedletsky
ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
474
654
胸の奥には黒い肋骨がぼんやり透けて見える。
そして何より目を引くのは、燃えるような真紅の瞳。
睨まれただけで普通の人間なら腰を抜かしそうなほど鋭い。
「……。」
「……。」
二人は見つめ合う。
最初に口を開いたのはテラモンだった。
「え。」
少年は腕を組む。
「……。」
「えぇ?」
少年は眉をひそめる。
「……。」
「俺の不法投棄物が歩いてる。」
「不法投棄物って言うなぁ!!」
神殿が揺れた。
少年は顔どころか全身の炎まで真っ赤にしながら怒鳴る。
「誰がゴミだ!!」
「だって捨てたし。」
「捨てたって言うな!!」
「じゃあ粗大ごみ。」
「悪化してる!!」
テラモンは思わず吹き出した。
「ぷっ。」
「笑うな!」
「いや、ごめん。」
「謝るな!」
「どっちなの!?」
少年はふんっと顔を背ける。
「勘違いするなよ。」
腕を組んだまま鼻を鳴らす。
「俺は別に、お前に捨てられて悲しかったから出てきたわけじゃない。」
「へぇ。」
「お前が一人じゃ何もできない間抜けだから。」
「うん。」
「仕方なく。」
「うん。」
「本当に仕方なく!」
「うん。」
「面倒見に来てやっただけだ!」
「ツンデレだ。」
「違う!!」
また神殿が震えた。
テラモンは腹を抱えて笑う。
「面白いなお前!」
「面白くない!」
「名前は?」
少年はじっとテラモンを見る。
「俺は…お前の、欠片だ。」
「恐怖。 嫉妬。 憎悪。 欲望。」
「だから、俺は。」
「1x1x1x1。」
どこか誇らしげに言い切る。
「覚えておけ。」
一拍置いて、
「……いや、覚えるな。」
「え?」
「覚えられても嬉しくない。」
「どっちだよ!」
「嫌いだからな!」
「じゃあ忘れる。」
「忘れるな!!」
「どっち!!」
「うるさい!」
「理不尽!」
テラモンが笑っていると、1x1x1x1はぷいっと背中を向けた。
「もういい。」
「帰る。」
「どこに?」
「知らん。」
そう言って歩き出そうとして、
ぴたっ。
止まる。
テラモンが首を傾げる。
「?」
視線を落とす。
そこには。
1x1x1x1の小さな手が、テラモンの服の裾をぎゅっと握っていた。
かなり強く。
全然離れそうにないくらい。
「……。」
「……。」
「帰るんじゃないの?」
「帰る。」
「離して?」
「嫌だ。」
「え?」
「……。」
「え?」
「これは拘束だ!」
顔を真っ赤にして怒鳴る。
「お前が逃げないように見張ってるだけだからな!」
「でも帰るんじゃ。」
「帰る!」
「でも離さない。」
「離さない!」
「矛盾してる。」
「してない!!」
「してる。」
「してない!!」
「じゃあなんで掴んでるの?」
「……。」
一瞬だけ黙る。
赤い瞳が泳ぐ。
耳まで真っ赤になる。
「…………。」
「…………。」
「…………お前が。」
小さな声。
「勝手にどっか行きそうだから。」
「ん?」
「だから拘束だって言ってるだろ!」
「なるほど。」
テラモンは少しだけ目を細めた。
この子は。
自分が切り捨てた感情、そのもの。
嫉妬。
執着。
愛情。
寂しさ。
全部まとめて形になった存在。
だからこんなにも不器用なのだ。
「ふーん。」
テラモンはしゃがみ込むと、
ぽん。
1x1x1x1の頭に手を乗せた。
「なっ。」
わしゃわしゃ。
「やめろ!」
さらにわしゃわしゃ。
「触るな!」
ぐしゃぐしゃ。
「燃やすぞ!」
「はいはい。」
「やめろぉ!」
「よろしくな。」
テラモンは笑う。
「ワンバイ。」
「略すなぁ!!」
「かわいいじゃん。」
「かわいくない!!」
「ワンバイ。」
「だからその呼び方やめろ!」
「ワン。」
「やめろ!」
「バイ。」
「最後まで言え!」
怒鳴っているくせに。
頭を撫でる手が止まると、
「……。」
ちらっ。
「……。」
ちらちらっ。
「……。」
「もっと撫でろ。」
「え?」
「ち、違う!」
慌てて腕を組み直す。
「止めるなって意味じゃない!」
「つまり。」
「勘違いするな!」
「撫で続けろ。」
「命令だ!」
「はいはい。」
再び頭を撫でると、1x1x1x1は必死に不機嫌そうな顔を作りながらも、小さく目を細めた。
その胸の奥。
黒い肋骨の中心で脈打つ鼓動だけが、嬉しそうに高鳴っていた。
この日から始まった。
陽気で自由すぎる神と、素直になれない半身の奇妙な共同生活。
その頃の二人は、まだ知らない。
この小さな存在が、やがて世界のコードを腐敗させる災厄となることを。
そして、その「離れたくない」という歪んだ想いが、いつしか神すら飲み込むほど深い執着へ変わっていくことを。