テラーノベル
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■読まれる前の注意書き
・本作は「カントリーヒューマンズ(CountryHumans)」の二次創作(ファンフィクション)です。
・実際の歴史、国家、政治団体、宗教、および実在の人物とは一切関係ありません。
・かつて対立していた国々が、現代風の平和な世界線でひとつ屋根の下、あるいはご近所さんとして仲良く「ほのぼのとした日常」を送っているパラレルワールドを舞台にしています。
・キャラクターの口調や性格に独自の解釈(マイルド化)が含まれます。
・以上の点をご理解いただける方のみ、お進みください。
■第9話
題名:真夏の夜の狂騒曲、あるいは完璧なる屋台巡り
ジャンル:日常・お祭りほのぼの
じっとりとした湿気と、昼間の熱気がまだ色濃く残る、日本の本格的な夏の夜。日帝の住む町の神社では、年に一度の盛大な夏祭りが開催されていた。
境内に一歩足を踏み入れると、色とりどりの提灯が夜闇を鮮やかに照らし、浴衣姿の参拝客の熱気と、どこか懐かしいお囃子の音が鼓膜を心地よく震わせる。そんな賑やかな人混みの中で、ひときわ周囲の目を引く奇妙な四人組がいた。浴衣をそれぞれのスタイルで着こなした、ソ連、ナチ、日帝、イタ王の面々である。
「うわあぁ! すごいよ日帝! 右を見ても左を見ても美味しそうなものばかりじゃないか! あの、丸くてソースがたっぷりかかった食べ物はなぁに!?」
イタ王は、着崩れかけた緑の浴衣の袖をぶんぶんと振りながら、目をきらきらと輝かせて叫んだ。彼の視線の先では、屋台の店主が大きな鉄板の上で、手際よくたこ焼きをひっくり返している。ソースと青のりの香ばしい香りが、周囲の空気をこれでもかと支配していた 。
「あれは『たこ焼き』と言います、イタリア殿。中にタコが入っていて、出来立ては非常に熱いですが絶品ですよ。買いに行きましょうか」
藍色の浴衣を凛々しく着こなした日帝が、懐から巾着袋を取り出しながら優しく微笑む。
「たこ焼きか……。見たところ、球体の中に具材を閉じ込めるという、非常にシンプルかつ合理的な構造だな。だが、あの店主の回転速度には一考の余地がある。もっと効率的な手首のスナップを使えば、生産性を一・五倍には引き上げられるはずだ」
黒を基調としたシックな浴衣の襟元を正しながら、ナチが腕を組んで大真面目な顔で屋台を観察し始めた。相変わらずお祭りという娯楽の空間にまで、無駄な精密さを持ち込もうとする男である。
「お前は堅物だな、ナチ。祭りというものは、その非効率的な『遊び』を楽しむものだ。それよりも見ろ、あっちの屋台には我が国の誇る最高のエンターテインメントに酷似したゲームがあるぞ」
規格外の特大サイズの浴衣を豪快に羽織ったソ連が、ずんずんと進んでいったのは「射的」の屋台の前だった。コルク銃を手に持った子供たちが、棚に並んだおもちゃや景品を狙って目を輝かせている。
「ほう。仕掛けられた標的を、銃器(おもちゃだが)を用いて撃ち落とすシステムか。ソ連、貴様まさか、子供たちの前で本気になるつもりではなかろうな」
「まさか。これは大人の余裕というものを見せる場だ。……おい店主、弾をくれ」
ソ連は店主に硬貨を支払うと、その巨体にはあまりにも小さすぎるプラスチック製のコルク銃を両手で構えた。その構えは無駄に洗練されており、冗談抜きで狙撃兵さながらの鋭い眼光を放っている。周囲の子供たちが、その迫力に思わず一歩後ずさった。
ポン、と気の抜けた音が響き、ソ連の放ったコルク弾は見事に最上段にある特賞のラジコンカーの箱に命中した。しかし、箱は一ミリほどピクリと動いただけで、びくともせずにその場に留まった。
「……何? 命中したはずだぞ。なぜ落ちん」
「くくく、甘いなソ連。あの箱の底面と棚の摩擦係数、およびコルク弾の質量から計算される運動エネルギーを考慮していないからだ。貸してみろ、私が物理学の正しさを証明してやる」
今度はナチが銃をひったくるようにして構えた。彼は片目を細め、箱の重心の位置を正確に見定めると、流れるような動作で引き金を引いた。
ポン。弾は箱の最上部の角、最もバランスを崩しやすい絶妙な位置を正確に捉えた。グラリと箱が揺れ、そのままゆっくりと床へ真っ逆さまに落ちていく。
「やった! すごいよナチ!」
イタ王が自分のことのように飛び跳ねて拍手喝采を送る。ナチはフンと鼻を鳴らし、手に入れたラジコンの箱を「イタリア、貴様が進呈してやる」と無造作にイタ王に押し付けた。ソ連は「ふん、今回は銃の個体差による不具合だ」と負け惜しみを言いながらも、どこか楽しそうに口元を緩めている。
「お二人とも、あまり屋台の店主を困らせないでくださいね」
日帝が苦笑しながら、両手に持った紙パックを差し出した。中には、先ほど購入した出来立てのたこ焼きが入っている。
「さあ、冷めないうちに(と言っても熱いですが)、あそこの境内のベンチで食べましょう」
四人は並んで木製のベンチに腰掛け、たこ焼きを口に運んだ。
「あふっ、あつっ……! でも、すっごく美味しいや!」
ハフハフと口を動かしながら、イタ王が幸せそうに目を細める。ソ連も大口でそれを放り込み、「うむ、外はカリ中がトロリ、だな。これに冷えたウォッカがあれば……」と言いかけて、日帝の「お祭りですから、ラムネにしましょう」という言葉に遮られ、大人しくガラス瓶のラムネを受け取った。
「ナチ殿も、どうぞ」
「……いただく」
ナチは箸で上品にたこ焼きを摘まみ、ふうふうと息を吹きかけてから口に含む。だしの効いた日本の味に、彼の険しかった眉間の皺が、ゆっくりと、しかし確実に解けていくのを日帝は見逃さなかった。
ふと見上げると、神社の夜空に大きな大輪の花火が、ドン、と腹に響く音と共に打ち上がった。赤、緑、青、金色の光が、縁側に座る四人の浴衣の背中を、そして穏やかに微笑む彼らの横顔を優しく照らし出す。
かつて同じ空の下、違う光(それはい凄惨な砲火だったが)を見ていた彼らが、今はただ、一枚の美しい夜空の花を見上げて「綺麗だな」と言い合っている。
「来年も、またこの四人で来たいね」
ラムネのビー玉をチリンと鳴らしながら、イタ王が呟いた。
「そうだな。その時は、射的のすべての景品を私が理論的に落としてみせよう」
「寝言を言うなナチ、次こそは我が連邦の精度を見せてやる」
「ふふ、楽しみにしていますよ」
お囃子の音が遠ざかる夜路を、四人はお土産の袋を揺らしながら、どこまでもゆっくりと歩いて帰るのだった。
コメント
3件
おお夏祭りかな? イタ王がはしゃいでて楽しそう! 射的たしかに落ちるには〜とかあるけど当てれるのすごいな?!
「真夏の夜の狂騒曲」ってタイトルからしてワクワクするんだけど、中身はほのぼの屋台巡りでめちゃくちゃ良かった!笑 ソ連の本気の射的→ナチに物理で越される流れ、イタ王が純粋に楽しんでるのが可愛くて、日帝のツッコミも絶妙。花火のシーンで「かつて違う光を見ていた彼ら」って一文、じんわり沁みた……。浴衣もキャラに合ってて、来年の約束がまた尊い。和んだ〜🍡