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第九話 「始まりの朝」
眩しい朝の光が、カーテンのすき間から差し込む。
目を開けると、私は自分の教室にいた。
机の上には——白いリボンと、ノート。
あの夜のことが、まるで夢みたいに遠く感じた。
でも、胸の奥には確かな温もりが残っている。
「……紬!」
教室のドアが開いて、美園が飛び込んできた。
涙をこぼしながら、私に抱きつく。
「本当に……よかった……!」
「ごめん、美園。全部、思い出した。」
怜も、少し照れたように笑っていた。
「怖かったけど……ちゃんと戻ってこれたんだな。」
私は頷いて、ノートをそっと開く。
最後のページに、
夜にはなかった新しい文字が浮かんでいた。
『ありがとう。
放課後は終わったけど、明日は続いていく。
——美咲』
外から吹き込む風が、リボンを揺らす。
その音が“チリン”と鳴って、
あの夜の鈴の音と重なった。
私は静かにリボンを胸元に結び、
笑ってつぶやいた。
「——行こう。今日も、いつもの放課後へ。」
放課後の太陽は、もう赤くはなかった。
ただ優しく、
すべてを包み込むように校舎を照らしていた。
もう“呼ぶ声”はない。
でも、“想い”はちゃんと残っている。
そして私は初めて、
心の底からこう思えた。
——あの日の放課後も、悪くなかったな。
【完】