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アリスは鏡を見た、寝不足で顔は青白いが唇は違った。まるでジェルを塗ったように真っ赤で、少し腫れぼったかった
何時間にもわたって、激しいキスを繰り返したせいだ
そう思っただけで五感の記憶が呼び覚まされ、体が震えた、両脚にぎゅっと力が入って、息が止まりそうになる
アリスは一人でにやけた、昨夜の二人の初夜は最初から最後まで楽しかった
女学校時代に学友と男性の性についてあれこれ、話していたことを思い出した
大学や社会人になってからは、みんな経験して常識になっているので、SEXの話などしなかった
彼がしてくれたことが世間一般的に、することかどうかはわからないが、でもアリスは彼がしてくれることが気に入ったし、今後はきっと大好きになるだろう
今後具体的には彼がしてくれたのと、同じように自分も彼を味わってみたいという、衝動にとらわれた
いつかそのチャンスが来たらやってみよう
ため息をつきスーツケースの荷物をほどいた。北斗はジーンズがとても良く似合っていた
アリスは自分の平らなお尻に、コンプレックスを持っているので、彼の後ろ姿の綺麗なお尻の形に見惚れていた
ハート形の盛り上がりにジーンズが張り付き、ちゃんと引っかかっている
そんな彼と釣り合わないかもしれないが、自分もジーンズを履いてみようという気になっていた
すぐに1階のソファーに座って、北斗のノートパソコンを使って、牧場にふさわしいカジュアルな服を何点か注文したが
配達が間に合うはずもなく、アリスは今日は手持ちの中から最も動きやすいものを選んだ
白のタートルニットと、淡いサーモンピンクのスラックスは必ずしもカジュアルな装いとはいえないが、それで我慢するより他なかった
それから宝石収納ケースの中を探り、小さな磨きクロスを取り出した
北斗がくれた指輪を丁寧に磨く、アリスの誕生石は偶然でもこの指輪は自分にとても良く似合っていると思った
それから新居となる部屋を一つ一つ探検した。部屋はどこもかしこも大きく、装飾品らしい装飾は見当たらず、ほとんどの部屋は使われている形跡すらなかった
結局、家の主の人となりを伝えるものは何もなかった
そこで以前に鬼龍院から北斗のことは、ある程度聞いていた事を思い出した
というか人の噂話が好きな彼が、勝手にアリスにペラペラしゃべっていたのを、無言で聞いていただけなのだが
北斗は牧場経営と競走馬の調教のかたわら、手堅い株とハイリスクの金融商品を巧みに組み合わせて資金を運用し、巨額の富を得ている
にもかかわらず、牧場の外へはめったに出ず、鬼龍院の招待すら応じようとしない
その素顔は謎めいていると・・・・
その証拠に午後を過ぎても彼は戻って来ず、北斗が一日どこで何をしているのか、アリスには知る由もなかった
ただハッキリしているのは飛行機の中で、夢見ていた彼との新婚生活が早くも色あせていることだった
今までずっと北斗の家でポツンと一人ぼっちで、チョコレートを摘みながらネットサーフィンばかりしていた
そしてそれに飽きた頃、う~ん・・・と立ち上がり暇を持て余した
先ほど北斗に言われたことを思い出した、母屋には行かないでほしいと彼は言った、外には危険がいっぱいあると・・・
どれじゃぁどのぐらいこのおうちに、引きこもってればいいの?
そもそも牧場主の奥さんって何をするのかしら・・・
「決めたわ!北斗さんはああ言ったけど、お屋敷に閉じこもって大人しくチョコレートを摘まんでいるだけなんて嫌っ!私は牧場に嫁いだのよ!こんなの間違ってるわ、牧場の奥さんらしくしなくちゃ!」
そう高らかに宣言した後、スーツケースの中から一番踵の低いものを選び、ピンク色のバレエシューズを履いて、鼻歌を歌いながら玄関ドアを開けて外へ飛び出した
アリスは空を仰いで肺一杯に空気を吸い込んだ
生い茂る草花の香りや動物の匂いがする
これが生活の匂いなのだ、あたりを見渡すと広々とした大地がどこまでも続き、作業小屋や家畜小屋らしき建物・・・
見たこともない巨大な車がいくつも並んでいる、ぐるりと見渡してみると
後ろの森の音・・・木々を渡る風のやわらかなざわめき
「あそこはトトロの森ね!」
アリスは裏の山にそう名前をつけた
目の前の、花に集まるやさしいミツバチの羽音が聞こえる。このまま永遠にここにいてもいい気がした
放牧場に続いている土手には花が咲き乱れ、動物の鳴き声が聞こえたかと思うと、土手でヤギが数頭草を食んでいた
「彼らに任せていたら、草刈り機は必要ないわね」
実家でもヤギを買えばいいのにと、フフフとアリスは笑った
芦屋の一等地にあるアリスの邸宅は、市の条例で草を生やすことはできない、常に庭師を雇い、美しく庭を保っておかなければいけない
なので住み込みの水やり庭師と別に、月に一度のペースで伊藤邸専用の庭師軍団が、屋敷中の草を刈り植木を丁寧に整える
庭師の朝は早い、アリスは毎月騒々しく庭を刈りに来る庭師のために、早朝から予定が無くてもキチンと化粧と身なりを整えて、朝食を用意し、彼らを迎え入れなければいけなかった
そして彼らが帰るまで、いつ庭師に窓から覗かれてもいいように部屋の中で静かにすごさなければいけなかった
伊藤家の令嬢は常に礼節と清楚さを保ち、ITOMOTOジュエリーにふさわしい行動をすることが当たり前だった
お嬢様は常に誰かのために生きていた
住み込みの料理長のために、体調が優れない時でも一週間のメニューは、決まっているので食事はいらないと言えなかった
気位の高いハウスキーピングのメイド長には、服を汚すと謝らなければいけなかった
運転手には、気まぐれにもう一度買い忘れたものを買いに、デパートに戻ってほしいとは言えなかった
母の体調が(機嫌が)すぐれない時は、予定があっても家にいてあげなければいけなかった
これからは自分がしたいと思うことは、誰のことも気にしないでやれるのだ!
そう思うとやはりこの結婚は正解だと思った
私は牧場主の北斗さんのお嫁さんとして、立派に彼とここを経営してみせるわ
とりあえす今日は北斗さんを探して、牧場経営のことを教えてもらおう
毎日あの人の日課や仕事も色々教わろう、もしかしたらまた彼と二人きりになれるかもしれない
アリスは笑みを漏らして頬を抑えた
ダメダメ、今はお昼間なんだから、素敵な彼の誘惑で気をそらされないようにしないと
私は仕事が出来ると思ってもらわないと
そう考えながらアリスは北斗を探して牧場をウロつき始めた
母屋の裏には素敵なコテージが設置され、その横に大きなドラム缶型のバーべキューグリルがあった
素敵!ここで夏はみんなで、バーべキューをしているのね
母は外で食事をするのを嫌った、ましてやバーベキューなど服や髪に匂いがつくし、野外は虫が出るので伊藤家での晩餐は、バーベキューは絶対に開催されなかった
アリスは夏にここで北斗達と肉を焼いて、食べている自分を想像した
するとポーチと土の隙間から仔猫がぞろぞろと、何匹もすり抜けて出て来た
思わずアリスは奇声をあげた。生まれてまだ日が浅いのか茶色い縞模様の仔猫達は、互いの体にぶつかってはつまづき、可愛い猫パンチを出しながら、ミルク色の小さな歯で別の猫を噛もうとする
そして母親らしき大きなトラ猫が、あくびをしながらアリスの目の前を、ノシノシと横切って行った。母猫のおなかのダラリと垂れ下がったおっぱいは貫禄があった
その様子を見てアリスはとても幸せな気持ちになった
やっぱりここは天国だわ