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(仮)たられば

7 - 傾く

2025年08月12日

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提灯の灯りが揺れる商店街は、人と笑い声と焼きそばの匂いでいっぱいだった。待ち合わせ場所に現れた悠真は、浴衣の私を見て、少し目を丸くしてから、ゆっくりと笑った。

「……すごく似合ってる。髪も、可愛い」

 不意にそんなふうに言われて、胸の奥が熱くなる。

律はこんなふうには褒めてもらったことない。


人混みの中、悠真は私の歩幅に合わせてゆっくり歩き、段差の手前でさりげなく手を差し出す。

「ここ、気をつけて」

その声は低くて優しくて、耳に残った。


ヨーヨー釣り、金魚すくい、かき氷――。

私が迷っていると、悠真は小さく笑って「どっちもやろう。夏だしね」と、自然にチケットを二枚ずつ買ってくる。

なんていうか、全部包み込むみたいな余裕がある。

律の真っ直ぐな熱とは違う、穏やかで落ち着いた強さ。

その優しさに、知らず知らず心が傾いていくのを感じた。


大きな花火が空を裂く音に顔を上げたとき、ふと視界の端に浴衣姿の律が見えた。

屋台の明かりに照らされながら、友達と話している。

でもその視線は、まっすぐこちらを向いていた。

一瞬、胸が締めつけられる。

「……綺麗だな」

悠真の声に、現実へ引き戻される。

律は視線を逸らし、背を向けて人混みに消えていった。


花火の光が何度も律の背中を照らしては、また闇に飲み込んでいった。

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