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提灯の灯りが揺れる商店街は、人と笑い声と焼きそばの匂いでいっぱいだった。待ち合わせ場所に現れた悠真は、浴衣の私を見て、少し目を丸くしてから、ゆっくりと笑った。
「……すごく似合ってる。髪も、可愛い」
不意にそんなふうに言われて、胸の奥が熱くなる。
律はこんなふうには褒めてもらったことない。
人混みの中、悠真は私の歩幅に合わせてゆっくり歩き、段差の手前でさりげなく手を差し出す。
「ここ、気をつけて」
その声は低くて優しくて、耳に残った。
ヨーヨー釣り、金魚すくい、かき氷――。
私が迷っていると、悠真は小さく笑って「どっちもやろう。夏だしね」と、自然にチケットを二枚ずつ買ってくる。
なんていうか、全部包み込むみたいな余裕がある。
律の真っ直ぐな熱とは違う、穏やかで落ち着いた強さ。
その優しさに、知らず知らず心が傾いていくのを感じた。
大きな花火が空を裂く音に顔を上げたとき、ふと視界の端に浴衣姿の律が見えた。
屋台の明かりに照らされながら、友達と話している。
でもその視線は、まっすぐこちらを向いていた。
一瞬、胸が締めつけられる。
「……綺麗だな」
悠真の声に、現実へ引き戻される。
律は視線を逸らし、背を向けて人混みに消えていった。
花火の光が何度も律の背中を照らしては、また闇に飲み込んでいった。