テラーノベル
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二年C組は、 何事もなかったみたいに毎日を過ごしている。
授業中の雑談。
スマホ。
笑い声。
でもその空気は、 どこか歪だった。
誰も、 水瀬の席を見ようとしない。
誰も、 裏アカの話をしない。
“触れちゃいけない話”。
そんな空気だけが、 教室を支配していた。
白石ひかりは、 その空気が苦しかった。
でも、 壊す勇気もなかった。
昼休み。
教室では女子グループが騒いでいた。
「文化祭の写真どうする?」 「制服ディズニーみたいに撮りたーい」
笑い声。
その輪の外で、 白石は文化祭の資料を整理していた。
すると、 後ろから声がする。
「まだやってんの?」
神崎だった。
白石は少し疲れた顔で笑う。
「実行委員だから」
神崎は机へ腰掛けながら、 教室を見回した。
「すげぇよな、このクラス」
「何が?」
「水瀬のこと、もう無かったことにしてる」
白石の手が止まる。
神崎は続けた。
「結局さ」
「皆、“自分が悪者になりたくない”だけなんだよ」
「だから見て見ぬふりする」
その言葉に、 白石は小さく反論する。
「……でも、仕方ない時もあるよ」
神崎は白石を見る。
「ほら」
「お前も空気側」
白石の胸がざわつく。
「違う」
「じゃあなんで、水瀬追いかけなかった」
その瞬間、 言葉が止まる。
あの日。
水瀬が教室を飛び出した時、 白石は動けなかった。
周囲の空気が怖かった。
一人だけ本気になるのが怖かった。
神崎は小さく笑う。
「皆そうやって、“自分は悪くない”って顔する」
その声は、 怒っているというより、 諦めているようだった。
放課後。
文化祭準備。
だが、 今日もまともに集まっていない。
男子はサボり。
女子は雑談。
白石だけが作業を進めていた。
「そこ貼ってくれる?」
返事はない。
数秒後、 女子の一人が面倒そうに立ち上がる。
「白石さ」
「最近ちょっとピリピリしすぎじゃない?」
教室が静まる。
女子は笑いながら続けた。
「なんか“ちゃんとしたクラス作りたいです”感強いよね」
周囲が少し笑う。
白石は無理やり笑顔を作る。
「……文化祭近いし」
「でもさ」
女子はスマホをいじりながら言う。
「皆そこまで本気じゃないんだよ?」
その言葉に、 白石は何も言えなくなる。
分かっていた。
皆、 “青春っぽいこと”を楽しみたいだけ。
本気でクラスを変えたいわけじゃない。
でも、 それを認めたくなかった。
その時。
ガタン、と椅子を鳴らして、 神崎が立ち上がる。
「じゃあ帰れば?」
空気が止まる。
女子が眉をひそめた。
「は?」
神崎は笑わない。
「やる気ねぇなら邪魔なだけ」
「……感じ悪」
「本音言っただけだろ」
教室が凍る。
白石は慌てて止める。
「神崎くん、もうやめて」
神崎は白石を見る。
「なんで止めんの」
「え……」
「こいつら本音で話してねぇじゃん」
白石は言葉に詰まる。
神崎は教室全体を見回した。
「仲良しごっこして」
「陰口言って」
「面倒なことから逃げて」
「でも“青春”だけ欲しいとか、気持ち悪ぃよ」
静まり返る教室。
誰も反論できない。
でも、 その空気は確実に神崎を拒絶していた。
“面倒な奴”。
“空気を壊す奴”。
そんな視線。
白石はその空気が怖かった。
だから、 思わず言ってしまう。
「……神崎くんは、言い方が悪いんだよ」
その瞬間。
神崎の表情が少しだけ止まった。
教室も静まる。
神崎は数秒黙った後、 小さく笑う。
「そっか」
その笑い方は、 いつもよりずっと冷たかった。
「結局、お前もそっちなんだな」
白石の胸が痛む。
でも、 何も言い返せない。
神崎は荷物を持つと、 そのまま教室を出ていく。
扉が閉まる音だけが残った。
教室では、 誰も何も言わない。
けれど白石は、 自分が何かを間違えた気がしていた。
窓の外では、 夕焼けが静かに滲んでいた。
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