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「もうすぐで文化祭だな」
昼休み、村雨が高橋に話しかけた。高橋は昼休みは大体本を読んでいるうえに、友達もあまりいない方の人間なので、こうやって高橋に話しかけるのは、ほぼ村雨なのだ。
「また劇とかだったら嫌だよなー」
高橋はクシャッと顔を歪めた。
ああ、そうだ、そんなこともあったな、おかげで嫌なことを思い出した。クソ、今の今まで忘れてたっていうのに思い出させやがって、クソ、クソ。
高橋は内心村雨に毒を吐いた。劇の最中、バトルの敵役だった高橋は、わざとなのかというほど周りから玩具の剣で叩かれたことがある。それ以来、劇、という単語を聞くだけでも思い出すようになってしまったのだ、もはや、これは一種のトラウマとも呼べるだろう。
「ねぇ、村雨くん。ちょっといいかな」
そう言って話しかけてきたのはクラスの女子。ああ、そういえばコイツ、まあまあモテるんだった。高橋は今更のように思い出した。
どこからか視線を感じた。その方向を向けば先程の女子。まるで〝お前は邪魔だ〟とでも言っているみたいだ。大きく溜息を吐きたいのを堪えながら、高橋は村雨に一声かけて、教室をあとにした。別に教室内に居ても良かったのだが、あそこの空気は不味い。それなら、図書室の本の紙の香りをずっと堪能していたい。そう思った高橋の行動は早かった。
人の出会いは偶然ではなく必然だと思う。それか神様の悪戯か、生憎、神様を信じる宗教的なものには興味がない。だが、もし神様が本当にこの世に存在するというのなら、もしかしたら俺は、前世で何かとんでもないことでもしたのだろうか。図書室に入った途端、高橋はそう思った。なにしろ、高橋の前には一人静かに席に座り、真剣に読書をする森沢先生の姿があったからなのだ。
そして気がつけば、名前を呼んでいた。
〝森沢先生〟