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出水目線『先輩』
保健室を出ようとした俺の背中に、弱々しい声が届いた。
思わず振り返ると、ベッドの上のナマエが、
まっすぐこっちを見ていた。
その目が——涙をためて、潤んでいた。
(——え)
『……実は私、』
何が来るのかもわからないのに、胸が強く鳴った。
ナマエが、ゆっくりと続ける。
『実は私……ずっと先輩のことが、好きで苦しくて——』
「は? え?」
頭の中で、警報みたいな音が鳴る。
なんかすごいこと言われた。いや待て。
『……なんて言うと思った?』
次の瞬間、ぽかんと口を開けた俺の前で、
ひよりはふふっと笑って、いつもの調子に戻っていた。
『びっくりした〜? いや、先輩、顔やばかったよ? 真っ赤!』
「……お前なぁ……!」
肩の力が一気に抜ける。
(なんだよ、マジで……)
だけどさっきの目。あの涙は、絶対嘘じゃなかった。
“本音を言いかけた”のは本当で、
その一歩手前でブレーキをかけて、ふざけたノリにすり替えた。
「……、焦ったじゃん」
『期待してたんだ!』
「……わかんねー。なんかもう、わかんねーよ、お前」
気づけばそんな言葉が口から漏れてた。
ナマエは少し驚いた顔をして、それからまた、笑う。
(先輩って、ほんとにずるいねー)
よく聞くその言葉の意味が、わかるようでわからない。
でも、その笑顔の奥にある何かが、少しだけ近づいてきた気がした。
(……いつかちゃんと、聞かせろよ)
今はまだ、言えないかもだけど。