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(……言っちゃえばよかった)
朝の空は、重たくて、どこか苦しそうだった。
それはたぶん、私の心と同じだったから。
(実は私、ずっと先輩のことが、好き──)
言えたはずの言葉だった。
あのとき出水先輩は、ちゃんと、私を見てた。
逃げずに、冗談みたいな空気にもせず、
あのまま一歩踏み出せば、本当のことを言えたのかもしれない。
でも——怖かった。
ほんとのことなんて言ったら、きっと私、壊れる。
(“大丈夫なふり”してれば、みんな優しくしてくれるし)
(“明るくしてれば”、嫌われない)
そういう術を、小さい頃からずっと使って生きてきた。
笑って、受け流して、冗談でごまかして。
……でも、出水先輩の前でだけは、
その“演技”が、ちゃんと効かない。
(……あーあ)
制服の袖をめくって、そっと包帯を巻き直す。
少しヒリつく感覚。
ちゃんと巻き直さないと、すぐバレちゃうから。
新しい包帯の白が、やけに眩しい。
こんなことで気持ちが楽になるわけじゃないのに。
それでも、痛みでしか気持ちを逃がせない自分が、
いちばん気持ち悪い。
(ほんとのことを言えない自分が、いちばん嫌い)
(それでも、また“明るい私”を演じちゃうんだ)
出水先輩に笑って見せた昨日の自分が、頭から離れない。
“本当の私”を見せたら、
嫌われる気がして仕方なかった。