相も変わらず薄暗い事務所の中で、フォリーは、フロワと話している。
書斎机に肘を置いて頬杖を突く、金髪の彼女。
「フォリー。君は今、別の仕事を請け負っているよね」
「はい。サジェスの奴らの目くらましもできたので、問題ありません」
「そう……今、Bのグループの人材がどれも良くない。殺しの仕事がうまくいっていないよね。我々ラトレイアーの資金はこのBと、今君がしている仕事の他以外ないから。それ以外稼ぐ方法がない。できれば、Bの中でも優秀な君は残ってほしかったんだけど……」
フロワが頬杖をついたままフォリーに言う。フォリーは固唾を呑むと、彼は頭を下げた。
「申し訳ありません、それと、ボスから伝言です。これを伝えるためにここに来たので」
「どれ?」
フロワが姿勢を正すと、フォリーが、預かった伝言する。
「米秀学園を拠点とするブラックローズ・クランにあの情報屋の協力させるのを頼んだが、失敗したと連絡があった。代わりに君が協力させに行ってくれ。もし、作戦が失敗に終わるようであれば、その情報屋――プラティーク、または周辺の人物を殺しても構わない、だそうです。どうします?」
フォリーの問いかけに、フロワは言った。
「ええ、引き受けるわ。その情報屋については、カルムから聞いたことがあるから……あ、そうそう、Cのペルペテュエルによろしく。仲良くしなさいなってね」
「分かりました、そう伝えます」
「……」
フロワは椅子から立ち上ると、後ろの窓から、隣の棟にいる海を睨んだ。
夏休みが近付いてきたころ。サッカー部、ひいては、運動部は夏の総体を控えている。とはいえ、二年生である海たちは、いつも通り練習を続けているだけだった。
「海ー。調子は?」
運動場前の掲揚台で休憩しているマスター――菅沢流が疑るような視線を向けてきた。
流にそう聞かれ、一瞬たじろいでしまった。
「あー、まあ悪くはないな」
「へえ」
向こう側にあるサッカーゴールの前には皐月が立っていた。
「……アイツ、すごいよな。サッカー部もやりながら、期末テストの偏差値59だろ?秋原とそんなに変わらないし……」
「……今年の総体、あいつも出るのか?」
「さあ。どうだろうな」
流は掲揚台に仰向けになって寝転がると、目を塞いで言った。
「あんな風に夢中になって、部活の事も好きだったはずなのに、俺らはどうしたんだろうな。なんか、どうでも良くなったっていうか。でもあいつは変わらず、ずっと全力でやってる。ほんとに、なんなんだろうな」
「……なあ、サボろうよ、今日」
海は飛んできたサッカーボールを肩で受け、インサイドキックで返すと、転がった流に向かって言った。
「あー良いよ、山路居ねえし」
流は起き上がると、だるそうに門の方を見た。
「アイツが居ないのはいつもの事だろ」
「じゃあ、俺の店で」
「うん、職員室行ってくるよ」
海は、職員室に向かって行った。
職員室までの渡り廊下を渡っていると、いきなり話しかけられた。
金髪で、瞳が茶色の三年生の女だった。
「え」
「君、サジェスのプラティーク?」
「なっ……なぜそれを」
「知る必要はない。ねえ君はさ。私達に協力するつもりは無いの?」
「……またかよ。お前、あの女の差し金か?じゃあ言っといてくれ。俺は協力しない」
「そう……じゃあ仕方ないわね」
フロワは、海に近づき彼の額に銃口を押し当てた。
「……へえ、そう言う事、かよ……」
海は恐怖で声が震えている。
「協力に応じないのなら殺す」
「……」
「さ、十秒以内に答えを決めて。10、9、8、7、6、5――」
海は恐怖に支配された表情から切り替えると、歯を見せて笑顔になった。
「なあ、ブラックスノーって知ってるか?」
「……何の話を――」
「――知ってるのか?」
「クッ……うん、知ってるよ。癪に障る野郎だね」
「へえ。そうか……俺も良く知ってるよ。元CIAで凄腕のスパイだったんだよな。射撃と演技が得意なあのむかつく女だよ」
「へえ、良く知ってるね」
フロワが銃を持つ力を強くすると、冷静に言った。だが、次の海の言葉でフロワは言葉を失った。
「その中でも有名な特技が、変装だってさ。変成器無しでその人物を完全にコピーしたようにできる」
「……ま、まさか……」
「……やっと気づいたか。分かりやすいと思ったんだけどなあ」
ナイフで切り裂いたような笑顔を作ると海、ではなく、雪の声で話し始めた。
「久しぶり。三か月ぶりかな?」
雪はマスクを取ると、窮屈だったのか首を横に振った。
「よっ。いやーキッツいなあマスクって。そう思わねえ?」
「……はあ、何の遊び?悪いけど付き合ってらんないの」
「んなこと言われたって、此処に来たのは、あたしの意志じゃないし」
「え?どういうこと?」
雪の言葉にフロワが混乱する。
「雪」
フロワの後ろから皐月の声が聞こえた。
「早く海のところに戻れ、あいつ今怒られてる」
「げっ……最悪だな」
雪はそう言って後ろの階段をすぐ降りて行った。
「だれ?君」
「いや、ちょっと確認しに来て。でもうまくいったみたいで良かったです」
皐月は冷静に淡々と話した。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!