「とりあえず、離せ」
「…ごめん」
彼は低い声でそう言い、僕は大人しくその要求に従って彼を囲っていた腕をそっと離す。
じんわり。
離した腕に残った彼の温もりをほんのりと感じ、ふと、つい昨日まであったリリーとの穏やかで静かだったあの日々に思いを馳せそうになる。
でも、今は感傷に浸る訳にはいかない。
瞬きを一つし、懐古的な想いに蓋をして目の前の彼を正面から見据える。
彼の背後にある窓は開け放たれた侭にされ、春風がふわりと入っては一瞬にして部屋を巡って去っていく。
また、風と共に硝子を介さずに入る柔らかい陽光は後光となって彼の髪を眩く照らしている。
春の陽の光に照らされた彼の髪はいつか見た日のような白銀に輝いていた。
話し合いには持ち込めた。
ここからは間違えることは許されない。……けれどひとまず、話し合いに必要な、そして僕がずっと知りたかったこと、
教えてはくれないだろうか。
「……まずは、自己紹介。しませんか?」
突如僕の目の前に現れ、眠り続けたリリー。
僕の知らない、君のこと。
本当の君のことを、僕は知りたい。