人物相関
遠坂秀造⋯イヴァンナの父。菊田とは学生時代からの幼なじみ。
エカチェリーナ⋯イヴァンナの母。ボーバトン卒業。
イヴァンナ・ハイゼンベルク⋯レイブンクロー寮生。
遠坂「あっ!杢太郎!すまない、今いいか?」
菊田「別にいいが、どうした?」
12月某日。冬真っ只中のある日、魔法省の事務局内で二人の会話は続いた。
遠坂「今しがた病院から連絡があって、エカチェリーナが!もうすぐ産まれそうなんだ!だからこの書類、君に頼めないかと思って!」
菊田「は!?お前それ、こんなことしてる場合じゃないだろ!一刻も早く行ってやれ!そんなの俺がやっとくから!!」
遠坂「本当にすまない!あとは頼んだよ!」
菊田「いいからいいから!急げ!」
嵐のように俺の元へやってきて、慌てて去っていったあの男。俺の学生時代からの親友だ。卒業後に結婚して無事子供を授かったらしいのだが、その子供が今にも産まれそうだという。大慌てで今日処理する予定の書類を俺に頼み込んできた。俺と秀造は親友という関係であるゆえ、貸し借りといった考えはとうの昔に解消されている。そういうわけで、俺は快くあいつの頼みを引き受けた。
菊田「(あいつのあんなに焦ってるとこ、久々に見たな…)」
彼が去ってからは、そんなことを呑気に考えていた。幸い今日の俺の仕事はさほど多くないので、終わったら出産祝いでも持って行ってやろうと考えていた。
あいつの分も含め、今日の仕事が無事に終わったので、見繕った出産祝いをもって、2人のいる病院へと向かう。
見舞いだ、とナースにひと確認して、案内された病室へ向かう。ドアをコンコンとノックすると、向こうから軽快な返事が返ってきた。
菊田「よお」
軽く手を振り、来てやったぞと言わんばかりに2人を見る。産まれたばかりの赤子を抱える母、エカチェリーナと、その2人を愛おしそうに見つめる秀造。その素敵すぎる雰囲気に目眩さえする気がした。
遠坂「杢太郎!来てくれたんだな」
エ「杢太郎さん、ほら、あなたもこっちに来て。」
エカチェリーナが側へ寄るように促した。少しずつ歩み寄り、エカチェリーナの腕に抱かれた赤子をのぞき込む。
菊田「おぉ…可愛いじゃねぇか」
遠坂「女の子だ。見ろ、エカチェリーナにそっくりだ。」
菊田「名前はもう決まったのか?」
エ「イヴァンナ。イヴァンナよ」
菊田「イヴァンナ…そうか、イヴァンナか!」
彼女の名前を逡巡させ、その小さな掌に指を近づける。すると、強い力で握り返されるのをしっかりと感じた。
菊田「おっ、いいぞ!こりゃお転婆になるな」
小さな命の力強さを実感して、愛おしさが込み上げた。すると同時に、この家族の幸せを生涯、そして永久に願っていたいと思った。
菊田「っそうだ、これ。出産祝いだ、受け取ってくれ」
エ「どうもありがとう!」
遠坂「わざわざ悪いな。それと、今日はありがとう。またひとつ借りを作っちまったな」
菊田「俺とお前の仲だろ?貸し借りはなしだ!」
遠坂「んな事言ったってな…」
菊田「俺はお前らが幸せならそれでいい。」
柄にも無い言葉が口をついて出てきて、顔が火照った。
遠坂「ははは!なんだそれ」
エ「ありがとう、あなたもこの子を見守ってね」
菊田「娘のように可愛がるさ」
あの子が、イヴァンナが生まれた時のことは昨日の事のように覚えている。そしてあいつとエカチェリーナが死んだことも。
あいつのそばに俺がいながら、俺だけ助かった。しかし、あの日の記憶だけ綺麗に切り取られたように、思い出すことがとても出来なかった。
あの日あの瞬間、両親と生き別れた幼い子供に、俺は何をしてやれるだろうか。のこのことあの子の前に現れ、俺だけ助かっただなんて口が裂けてもいえなかった。だがいつか、あの子が真実を知る日が来るだろうか。その時俺は、記憶喪失を免罪符にするしかないのだろうか。
【あの子が真実を知ろうとした時は側にいる】
これが俺の中で着いた決心だ。それまではあの子に俺の知る愛情を全て注ぎ、せめてもの償いをさせて欲しい。
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作者より
読んでいる上で何か疑問に思ったこと等ありましたら、コメントにてお教え頂けますと幸いです。
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