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それから話もお酒も進んでいく。
〇〇「……あれ?」
グラスを持ったまま首をかしげる。
〇〇「なんで四人でご飯してるんだっけ」
海人「運命!」
〇〇「違う」
笑う。
でも次の瞬間。
〇〇がじっと北斗を見る。
数秒。
廉がその視線に気づく。
海人も黙る。
〇〇「北斗さ」
北斗「ん?」
〇〇「最近、私のこと避けてる?」
爆弾。
北斗の呼吸が一瞬止まる。
廉の目が鋭くなる。
海人「おお…」
〇〇「なんか距離ある」
無自覚すぎる核心。
北斗「避けてない」
即答。
〇〇「うそ」
酔っているからまっすぐ。
〇〇「今日もなんか壁ある」
北斗の視線が揺れる。
廉は静かに聞いている。
〇〇「前はもっと近かった」
海人が小声で「うわ…」と呟く。
〇〇は続ける。
〇〇「私なんかした?」
完全に爆弾。
北斗は低く言う。
北斗「してない」
〇〇「じゃあなんで?」
沈黙。
廉が水を差し出す。
廉「飲み」
〇〇「今いい」
そしてさらに爆弾行動。
〇〇は椅子から立ち上がり、
北斗の隣に移動する。
海人「席替え!?」
〇〇はそのまま北斗の腕に軽くもたれる。
〇〇「避けないで」
店内の空気が凍る。
廉の指先がわずかに動く。
北斗は固まる。
〇〇「私、北斗に嫌われるのやだ」
無邪気な本音。
恋じゃない。
でも重い。
北斗の声は低い。
北斗「嫌ってない」
〇〇「じゃあ近くいて」
爆弾行動。
距離ゼロ。
海人は両手で顔を覆う。
廉は静かに言う。
廉「〇〇、酔ってる」
〇〇「うん」
素直。
でも北斗から離れない。
北斗は動けない。
触れたら壊れそうで。
離れたら失いそうで。
〇〇は何も分かっていない。
ただ、不安だっただけ。
恋の爆弾じゃなく、
“依存寄りの本音”という別方向の地雷。
〇〇は北斗の隣。
まだ少しもたれている。
廉は正面。
海人は状況を見守るしかない。
〇〇「ねえ」
北斗「ん?」
距離が近い。
〇〇はじっと北斗の顔を見る。
〇〇「まつ毛長い」
海人「そこ!?」
〇〇は笑う。
指で北斗の頬に触れる。
北斗の呼吸が止まる。
廉の視線が鋭くなる。
〇〇「なんか今日、優しい顔してる」
北斗「酔ってるからだろ」
〇〇「違う」
少しだけ真顔。
〇〇「安心する」
その瞬間。
北斗の理性が揺れる。
廉が低く言う。
廉「〇〇、戻れ。」
でも〇〇は聞かない。
そして。
ふらっと体勢を崩す。
北斗が支える。
顔が、近すぎる距離になる。
海人「ちょ、」
そのまま——
〇〇の唇が北斗の口元に触れる。
一瞬。
ほんの一瞬。
音もなく。
時間が止まる。
〇〇は数秒遅れて目を瞬く。
〇〇「……あれ?」
北斗は固まったまま。
廉は立ち上がる寸前で止まる。
海人「今のは事故だからな!?」
〇〇は自分の唇に触れる。
〇〇「ぶつかった?」
無自覚。
完全に事故。
北斗はゆっくり〇〇を離す。
北斗「座れ」
声が低い。
感情を押し殺してる声。
廉は深く息を吐く。
廉「〇〇、水飲め」
〇〇「うん…?」
状況を理解していない。
でも空気だけは変わったと分かる。
〇〇「なんでみんなそんな顔してるの」
海人「爆弾投下した人の台詞じゃない」
北斗は視線を逸らす。
唇に残る感触を消すみたいに水を飲む。
廉は静かに言う。
廉「今日はここまでやな」
夜は強制終了モード。
でも。
事故のはずなのに。
北斗の胸は、もう戻れないところまで熱い。
廉の中にも、はっきり火がついた。
〇〇だけが、何も知らない。
個室の扉を開け、四人は廊下へ出る。
夜風が少し冷たい。
海人「じゃあ、タクシー行こ」
〇〇「うん」
北斗は少し前を歩き、廉は〇〇の横に。
〇〇(今日はなんだか、妙に疲れたな……)
廊下の端でタクシーが停まっているのが見える。
廉「〇〇、ちゃんと着いてきてるか?」
〇〇「大丈夫、大丈夫」
少し笑ってみせるが、体はどこか力が抜けている。
北斗「……寝るなよ」
〇〇「うん……」
歩きながらも、肩は少しふらつく。
海人「来てるよ!乗り込も」
助手席には海人、後部座席には北斗・廉・〇〇が座る。
〇〇は真ん中に座り、少し背をもたれさせる。
タクシーが静かに走り出す。
街灯が流れ、ネオンがチラチラと車内に映る。
〇〇は肩をもたれかけさせ、目を閉じる。
疲れとアルコールで体がゆっくり力を抜く。
北斗(……無防備すぎる)
そっと体勢を整え、肩や頭が揺れないように支える。
廉「……おい、寝てまうんちゃうか?」
〇〇「うん……」
微かに笑う廉。北斗は視線を逸らすが、胸の奥は熱くなる。
海人「二人とも見すぎ!!」
北斗「……」
廉「しゃーないやん、寝顔可愛いねん」
海人は苦笑い。
タクシーの揺れが心地よく、〇〇は規則正しい寝息を立てる。
北斗は無言で肩を支え、ジャケットをかける。
北斗(……ずるいな、こんな距離で寝てるなんて)
後部座席は静かだ。
北斗と廉は交互に視線をやり、互いの気持ちを確認するかのように無言で。
海人だけが察して、前を見て運転に集中する。
街の灯りが窓に映り、タクシーは夜を切って進む。
〇〇は完全に眠り、胸に安らぎを残す。
北斗は横顔を見つめ、唇や頬の柔らかさを心に刻む。
廉も少し距離を置きながら、〇〇の寝顔を見守る。
タクシーは夜道を静かに走る。
助手席の海人は前方を見つめ、運転手と軽く話している。
後部座席では、北斗が無言で〇〇の肩をそっと支え、横で廉が少し距離を置きながらも視線を向けている。
〇〇は完全に眠っている。
小さく肩が揺れるたび、北斗は体勢を整え、呼吸を乱さないように注意する。
北斗(……起きたら、どうなるんだろう)
胸の奥が少し熱くなる。
海人「もうすぐ着くよ」
廉はゆっくり頷く。
北斗「準備しといたら」
廉「わかってる」
マンションの前でタクシーが止まる。
運転手がドアを開けると、北斗はそっと〇〇の肩を揺らす。
北斗「着いたぞ」
〇〇「ん……あ、はい……」
まだ眠たげな声。
北斗「ジャケット、肩にかけとく」
〇〇「あ、ありがとう」
北斗はそっとかける。
廉「ほな、俺らはここで」
北斗「おう」
〇〇と廉だけタクシーを降りる。
2人は家が近いため道が一緒だ。
夜風が少し冷たい。
〇〇はまだ目をこすりながら歩く。
廉「ほな、俺が送ったるわ」
〇〇「うん……」
二人は静かにマンションの入口へ向かう。
夜の街は静かで、二人きりの距離が少しずつ近づく。
廉「……なんで北斗、送らんかったんやろな」
〇〇「仕事終わりだし、いいじゃん」
廉「まぁ……せやけど」
少し照れた声で廉は続ける。
廉「俺、なんか嫉妬したわ」
〇〇「え……?」
廉「……北斗が〇〇送っとるの見て、やっぱ俺の方が先に送らなあかんのかなって思ってもた」
〇〇は少し顔を赤くする。
二人はマンションの玄関まで来る。
廉は立ち止まり、〇〇をそっと見つめる。
そして、突然――
廉「……ちょっと、抱かせて」
〇〇「え……?」
予想していなかった言葉に、体が少し固まる。
廉は優しく抱き寄せる。
〇〇の驚きと戸惑いが混ざった息遣いが聞こえる。
廉「……消毒、や」
そう言いながら、そっと〇〇にキスを落とす。
短く、でも確かに唇に残る感触。
〇〇は驚き、そしてわずかに笑う。
〇〇「……廉、何してるの……?」
廉は目を細め、少しだけ照れた声で言う。
廉「……誰にも取られたくないねん」
〇〇はその言葉に胸がきゅっとなる。
言葉以上の意味が伝わる。
玄関の鍵を開ける音が、二人の世界を切り裂くように響く。
〇〇「……ありがと、廉」
廉「ほな、ここでおやすみや」
〇〇は少し笑い、マンションの中へ入っていく。
廊下の明かりが、二人の距離を一瞬だけ優しく照らしている。
〇〇side
玄関のドアを閉めると、静かな室内に夜の空気だけが流れる。
靴を脱いで、コートをハンガーに掛けながら、〇〇はさっきのキスを思い出す。
――あの瞬間、廉の唇が……
思い返すと、心臓が少し跳ねる。
「消毒、や」――その言葉と行動のギャップに、思わず笑ってしまう。
〇〇(消毒って……でも、なんで急に……?)
手が自然に唇に触れる。ほんのわずかに残る感触を確かめるように。
ベッドに腰を下ろし、スマホを手に取る。
廉からの最後の電話のこと、タクシーで北斗と過ごした時間、そして今のキス。
どれもが、頭の中でぐるぐると混ざり合う。
〇〇(北斗のことも、廉のことも……)
軽くため息をつく。頭の中は整理できないまま、でもどこか胸が熱い。
〇〇はブランケットにくるまり、天井をぼんやり見つめる。
〇〇(あんなに間近で……あれ、事故って……言ってたけど……)
笑いながらも、心のどこかで「事故」では片付けられない感情が芽生えている。
無意識に、少しだけ唇を触る。
〇〇(……でも、安心したのも確か。廉の手、あったかかったな……)
少し前の自分なら、こんなことでドキドキすることなんてなかった。
でも今は違う。
〇〇(……なんでだろう、こんなに心が騒ぐんだろう)
目を閉じると、タクシーの揺れ、北斗の横顔、そして廉の優しい声が頭の中に重なる。
不思議な夜。混ざり合う感情。
〇〇はそっと布団に横になる。
唇に触れた感触を思い出しながら、少しだけ笑う。
「事故」だとしても、心は確かに揺れている。
そして、深く息をつきながら、眠りに落ちる。
頭の片隅で、明日のこと、北斗や廉とのこと、まだ答えは出ていない。
でも確かに、胸の奥が騒がしいまま。
ーーー
玄関のドアを閉めると、静かな部屋に夜の匂いが残る。
廉はソファに腰を下ろし、さっきのキスのことを思い返す。
廉(……あの瞬間、〇〇の唇が……)
「消毒って言ったけど、俺、あれで嫉妬してたんやな」
小さく苦笑いをする。自分でも驚く感情だった。
北斗と〇〇の距離も頭をよぎる。タクシーでの二人の距離、あの柔らかい表情。
廉(……北斗、黙ってても分かるんやろな。俺、負けへん)
拳を軽く握り、胸の奥に熱を感じる。決して素直ではない気持ち。
〇〇を守りたい――その一心で行動してしまった。
でも、北斗のことも無視できない。
廉(……でも、〇〇のことや。俺が動かんと、誰かに取られてしまうかもしれん)
決意が静かに固まる。目の奥には炎が灯る。
「明日も、ちゃんと見守ろう」と、心の中でそっと誓った。
ーーー
北斗side
北斗は自分の部屋に戻り、スマホを握ったまま座る。
タクシーでの〇〇の寝顔、柔らかい肩、穏やかな寝息が頭から離れない。
北斗(……無防備すぎる)
自然と息が荒くなる。こんな距離で、こんな姿を見てしまうことに、胸がざわつく。
〇〇の唇に触れた感触、事故だとしても、忘れられない。
北斗(あれは……完全に事故じゃない)
無意識に拳を握る。心臓が熱く、痛いほどに動く。
廉のことも頭をよぎる。タクシーでの電話での会話。
北斗(俺も……黙って待ってるだけじゃだめかもしれない)
でも今は、〇〇のことだけを考える。
「焦らない、北斗。明日もある。ゆっくり伝えればいい」
深く息をつき、ベッドに横になる。
タクシーでの記憶と〇〇の寝顔を思い出しながら、眠れず天井を見つめる。
胸の奥は痛くて、でも確かに温かい。
北斗(……ここからだ)
静かな夜。二人ともまだ答えは出せない。
ただ、それぞれの心の中で、強く決意が芽生え始めている。
ーーーーーー
ー次の日21:00ー
〇〇「はぁやっと自分の現場全部終わった」
スタッフA「次は松村北斗さんの現場ですね、すぐ隣です」
スタッフB「〇〇さんももしかしたら、近くだし顔合わせあるかも」
〇〇「そうなんだ」
昨日のご飯会のことは酔っていてほとんど覚えていない。ただ、理由のわからないざわつきだけが胸に残っている。
〇〇「近くで仕事してるってだけか。別に関係ないよね」
荷物を持って隣のブース前を通る。ガラス越しに照明が当たるセット。その端に立って、なんとなく中を見た。
北斗はモニター前で真剣な顔。スタッフと淡々とやり取りしている。
〇〇「相変わらず真面目」
少しだけ口元が緩む。
北斗「……」
視線がふと端に向く。
北斗「……なんでいるんだよ」
小さく呟く。
スタッフ「松村さん?どうしました?」
北斗「いや、なんでもない」
もう一度視線を送る。ブースの端に立って、腕を組んで見学している〇〇。
北斗「……暇かよ」
口調は冷たい。でも目は何度もそっちへ向いてしまう。
〇〇は気づいて、わざとらしく手を振る。
北斗は一瞬だけ目を逸らす。
北斗「……集中しろ俺」
スタッフ「本番いきます!」
北斗「はい」
演技に入る。だが、カットがかかるたびに視線は無意識に端へ向く。
〇〇は静かに拍手する。
〇〇「おーさすが」
小さく呟く声が届く距離。
北斗「……」
口元がほんの少しだけ緩む。
数十分後。
スタッフ「以上です!お疲れ様でした!」
北斗「お疲れ様です」
機材が動き始める。
〇〇は壁から離れて歩み寄る。
〇〇「お疲れ様」
北斗「……まだいたのか」
〇〇「悪い?」
北斗「別に」
そっけない。でも目は逸らさない。
〇〇「見学してただけ」
北斗「暇人」
〇〇「うるさい」
少し間が落ちる。
〇〇「ねえ」
北斗「何」
〇〇「昨日のご飯会なんだけどさ」
北斗の指先が止まる。
北斗「……ああ」
〇〇「私さ、やっぱ何かやらかした?」
北斗「してない」
即答。
〇〇「ほんとに?」
北斗「飲みすぎてただけ」
〇〇「それは覚えてる」
北斗「ならいいだろ」
〇〇「でも北斗、昨日ちょっと変だった」
北斗「変って何」
〇〇「なんか、やたら近かった」
北斗「気のせい」
〇〇「ほんと?」
北斗「ほんと」
視線を逸らす。
〇〇「じゃあさ」
北斗「まだ何かあんのか」
〇〇「私、北斗に迷惑かけてない?」
北斗「……かけてない」
少しだけ声が柔らぐ。
〇〇「そっか」
安心したように笑う。
その笑顔に、北斗の喉が詰まる。
北斗「覚えてないんだな」
〇〇「何が?」
北斗「いや、何でもない」
〇〇「なにそれ」
北斗「気にすんな」
〇〇「気になるじゃん」
北斗「ほんとに何もないって」
〇〇「ふーん」
少し疑う目。
北斗「……帰らないのか」
〇〇「北斗終わるの待ってた」
北斗「頼んでない」
〇〇「知ってる」
北斗「……」
〇〇「一緒に帰る?」
さらっと言う。
北斗の心臓が跳ねる。
北斗「……は?」
〇〇「タクシー同じ方向でしょ」
北斗「別に一人で帰れる」
〇〇「知ってるよ。でも時間も遅いし」
北斗「……」
〇〇「嫌ならいいけど」
北斗「嫌とは言ってない」
〇〇「じゃあ決まり」
北斗「勝手だな」
〇〇「北斗もでしょ」
二人でスタジオを出る。夜風が少し冷たい。
タクシーが止まる。
〇〇「乗るよ」
北斗「……ああ」
並んで後部座席に座る。距離は少し空いている。
エンジン音だけが静かに響く。
〇〇「ねえ」
北斗「今度は何」
〇〇「昨日ほんとに何もなかった?」
北斗「……なかった」
少し間。
北斗「覚えてないならそれでいい」
〇〇「え?」
北斗「何でもない」
〇〇「変なの」
北斗「うるさい」
窓の外を見る北斗。
隣から微かに香るシャンプーの匂い。昨日の距離がフラッシュバックする。
北斗「……」
〇〇「北斗今日ちょっと優しい」
北斗「どこが」
〇〇「タクシー一緒に乗ってくれた」
北斗「方向同じなだけ」
〇〇「ふーん」
小さく笑う。
その笑い声にまた胸が締まる。
北斗「……〇〇」
〇〇「なに」
北斗「もう飲みすぎるなよ」
〇〇「え」
北斗「昨日みたいになるから」
〇〇「昨日みたいって何」
北斗「……」
〇〇「やっぱ何かあったんじゃん」
北斗「ないって言ってるだろ」
〇〇「怪しい」
北斗「怪しくない」
〇〇「ほんと?」
北斗「ほんと」
目を合わせる。
一瞬だけ、空気が止まる。
北斗は先に視線を逸らす。
北斗「……送ったらすぐ降りろよ」
〇〇「なにそれ」
北斗「遅いから」
〇〇「心配してんの?」
北斗「してない」
〇〇「はいはい」
でも〇〇は少し嬉しそうに笑う。
北斗は窓の外を見ながら、小さく息を吐く。
北斗「覚えてないなら、それでいい」
誰にも聞こえないくらい小さな声で呟いた。
タクシーが〇〇の家の前に止まる。
運転手「到着しました」
〇〇「ありがと」
ドアが開く。でも〇〇はすぐに降りない。
北斗「……何してんだよ」
〇〇「ねえ」
北斗「早く降りろ」
〇〇「やっぱ気になる」
北斗「何が」
〇〇「昨日」
北斗「だから何もないって言ってるだろ」
〇〇「絶対ある」
北斗「ない」
〇〇「ある」
北斗「子どもかよ」
〇〇「だって気持ち悪いもん。自分が何したか覚えてないの」
北斗「迷惑かけてない」
〇〇「じゃあなんでそんな顔するの」
北斗「どんな顔だよ」
〇〇「今の顔」
北斗「普通」
〇〇「普通じゃない」
少し身を乗り出す。距離が縮まる。
北斗「近い」
〇〇「近くない」
北斗「降りろって」
〇〇「言うまで降りない」
北斗「は?」
〇〇「言って。昨日何あったの」
北斗「……」
〇〇「ねえ」
北斗「何もないって」
〇〇「嘘」
北斗「嘘じゃない」
〇〇「じゃあ目見て言って」
北斗「……」
〇〇「ほら」
じっと見つめる。
北斗「……何もなかった」
〇〇「間あった」
北斗「うるさい」
〇〇「なんかした?私変なこと言った?」
北斗「言ってない」
〇〇「抱きついた?」
北斗「……」
〇〇「え、抱きついたの?」
北斗「してない」
〇〇「じゃあ何」
北斗「……」
〇〇「ほらやっぱあるじゃん」
北斗「お前が覚えてないならいいだろ」
〇〇「よくない」
北斗「なんで」
〇〇「私だけ知らないの嫌」
北斗「……」
〇〇「北斗が知ってて私が知らないの、なんか悔しい」
北斗「悔しいって何だよ」
〇〇「わかんないけど嫌」
北斗「面倒くさいな」
〇〇「面倒くさくていい」
北斗「いいわけあるか」
〇〇「ある」
北斗「ない」
〇〇「ある」
北斗「……はぁ」
深く息を吐く。
〇〇「ため息ついた」
北斗「つくわ」
〇〇「ねえ」
北斗「まだ言うのか」
〇〇「キスとかしてないよね」
空気が止まる。
北斗「……」
〇〇「してないよね?」
北斗「……してない」
ほんの一瞬の沈黙。
〇〇「今間あった」
北斗「気のせい」
〇〇「絶対なんかある」
北斗「ない」
〇〇「言ってくれないなら降りない」
北斗「運転手さん困ってるだろ」
運転手が気まずそうに前を向いている。
〇〇「じゃあ少し走ってもらう?」
北斗「やめろ」
〇〇「じゃあ言って」
北斗「……」
〇〇「私、北斗に何したの」
北斗「何もしてない」
〇〇「じゃあなんでそんなに必死なの」
北斗「必死じゃない」
〇〇「必死」
北斗「……」
〇〇「ねえ北斗」
北斗「何」
〇〇「私さ、北斗に嫌われることしたならちゃんと知りたい」
北斗「してない」
即答。
〇〇「ほんと?」
北斗「ほんと」
〇〇「じゃあ」
北斗「じゃあ何」
〇〇「嫌われてない?」
北斗の心臓が大きく鳴る。
北斗「……嫌ってない」
〇〇「ほんとに?」
北斗「ほんと」
〇〇「じゃあ昨日のこと教えてよ」
北斗「それとこれとは別」
〇〇「ずるい」
北斗「お前が覚えてないのが悪い」
〇〇「だから聞いてるんじゃん」
北斗「……」
〇〇「ねえお願い」
さっきまで強気だったのに、少しだけ声が柔らかくなる。
北斗「……」
〇〇「北斗にだけは変なことしてたくない」
胸が締め付けられる。
北斗「……何も変なことしてない」
〇〇「ほんと?」
北斗「ほんと」
〇〇「じゃあ、今度同じことしても平気?」
北斗「は?」
〇〇「覚えてないなら同じことしても問題ないでしょ」
北斗「やめろ」
〇〇「なんで」
北斗「……」
〇〇「ほら」
北斗「……もういい」
ドアを開けるボタンを押す。
北斗「今日は帰れ」
〇〇「逃げた」
北斗「逃げてない」
〇〇「逃げた」
北斗「……」
〇〇「絶対いつか思い出すからね」
北斗「思い出さなくていい」
〇〇「なんで」
北斗「いいから」
〇〇は少しだけ北斗を見つめる。
〇〇「……変なの」
それでも小さく笑う。
〇〇「でも嫌われてないならいっか」
北斗「……」
〇〇「じゃあね北斗」
ゆっくり降りる。
ドアが閉まる直前。
〇〇「また聞くから」
北斗「……好きにしろ」
ドアが閉まる。
タクシーが走り出す。
北斗は深く息を吐く。
北斗「思い出さなくていいって言ったのに」
でも本当は。
北斗「……思い出されたら終わるだろ」
小さく呟きながら、窓の外を見つめた。
ーーーー
〇〇side
部屋のドアを閉めた瞬間、静けさが押し寄せた。
さっきまで北斗と並んで歩いていたのに、急に現実に戻されたみたいで落ち着かない。
〇〇はソファに座り、スマホをテーブルに置く。
今日の北斗の態度。
あの微妙な沈黙。
キスしてないよね、と聞いたときの“間”。
〇〇「……絶対なんかあった」
でも思い出せない。
昨日は酔っていた。
そこまでは分かる。
それ以上が、曖昧。
〇〇「私、何したんだろ」
考えても答えは出ない。
あの場にいたのは――
〇〇「……廉」
スマホを手に取る。
数秒迷う。
でも、このままモヤモヤするのは嫌だ。
コール音が鳴る。
廉「もしもし」
〇〇「起きてる?」
廉「起きてる。どした」
〇〇「昨日のこと聞きたい」
廉「昨日?」
〇〇「ご飯」
一瞬、向こうが静かになる。
〇〇「私、なんかした?」
廉「した」
即答。
〇〇「え?」
廉「酔ってた」
〇〇「それは知ってる」
廉「北斗の隣から離れへんかった」
〇〇「それだけ?」
沈黙。
〇〇「廉」
廉「……聞きたいん?」
〇〇「聞きたい」
また間が空く。
〇〇の心臓がうるさい。
廉「事故や」
〇〇「何が」
廉「キス」
一瞬、意味が分からない。
〇〇「……誰が」
廉「お前」
鼓動が止まりかける。
〇〇「は?」
廉「北斗にキスした」
〇〇「してないよ」
廉「した」
〇〇「覚えてない」
廉「酔ってたからな」
〇〇「待って」
頭が追いつかない。
〇〇「どういうこと」
廉「もたれかかって、バランス崩して」
〇〇「うん」
廉「北斗が支えた」
〇〇「うん」
廉「そのまま、当たった」
〇〇「……唇?」
廉「唇」
息が止まる。
〇〇「嘘」
廉「嘘ちゃう」
〇〇「一瞬?」
廉「一瞬」
〇〇「私から?」
廉「事故や」
〇〇「北斗は?」
廉「固まってた」
胸がざわつく。
〇〇「何も言わなかった?」
廉「言ってない」
〇〇「じゃあ今日、私がキスしてないよねって聞いたとき」
廉「思い出してたやろな」
〇〇「……」
あの沈黙。
逸らされた目。
全部繋がる。
〇〇「最悪」
廉「悪くない」
〇〇「キスだよ?」
廉「事故や」
〇〇「でもキスでしょ」
廉「そうやな」
〇〇は額を押さえる。
顔が熱い。
〇〇「なんで言ってくれなかったの」
廉「お前が覚えてないからやろ」
〇〇「……」
〇〇「北斗、何も思ってないよね」
廉が一瞬黙る。
廉「事故や」
その答えが、やけに曖昧に聞こえる。
〇〇「……私、最低」
廉「違う」
〇〇「覚えてないのも嫌」
廉「しゃあない」
静かな部屋に、自分の呼吸だけが響く。
〇〇は唇に触れる。
何も思い出せない。
でも確かに、触れた。
〇〇「……どうしよ」
廉「どうもせんでええ」
〇〇「でも明日会う」
廉「普通にしとけ」
〇〇「無理」
廉が小さく笑う。
廉「顔に出るタイプやしな」
〇〇「うるさい」
通話が終わる。
スマホを置く。
天井を見上げる。
事故。
でもキス。
〇〇「北斗……何思ったの」
答えは分からないまま、胸のざわつきだけが残った。
通話が切れたあとも、〇〇はしばらくスマホを握ったまま動けなかった。
自分が北斗にキスした。
事故とはいえ、唇が触れた。
〇〇「……最悪」
ソファに沈み込む。
頭の中でさっきの会話が何度も再生される。
もたれかかって、バランス崩して。
支えられて。
当たった。
〇〇は無意識に唇に触れた。
その瞬間。
別の感覚が、ふっと蘇る。
夜風。
エントランス前。
誰もいないマンションの下。
廉の顔が、近づいてきた。
〇〇「……あ」
指先が止まる。
あのとき。
事故のあと。
帰り道。
北斗と別れて、マンションの前で。
廉が急に距離を詰めてきた。
そして。
触れた。
ちゃんと。
一瞬じゃない。
確かに、重なった。
〇〇「……消毒」
低い声。
耳元で言われた一言。
〇〇は勢いよく起き上がる。
〇〇「されたじゃん」
思い出した。
事故のキスを知ったあと、腹が立った廉が。
自分にキスした。
しかも。
事故じゃない。
完全に、意図的。
〇〇「ちょっと待って」
頭が混乱する。
北斗とは事故。
廉とは意思。
〇〇「……何これ」
胸がうるさい。
唇にまた触れる。
北斗のは思い出せない。
でも、廉のははっきり思い出せる。
強くもなく、優しくもなく。
確かめるみたいなキス。
〇〇「消毒って何」
あれは冗談じゃない。
嫉妬だ。
〇〇「……」
自分は知らない間に北斗にキスして、
知ってから廉にキスされた。
〇〇「情報量多すぎ」
ソファに倒れ込む。
天井がぼやける。
北斗の沈黙。
廉のまっすぐな目。
〇〇「なんで私、覚えてないの」
一番大事な瞬間だけ抜け落ちている。
でも。
廉のキスを思い出した瞬間、心臓が跳ねた。
〇〇「……嫌じゃなかった」
小さく呟く。
事故よりも。
あの意思のあるキスの方が、ずっと強く残っている。
〇〇「どうすればいいの」
静かな部屋に、答えはない。
ただ、二人の温度だけが、唇に残っている気がした。