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【私はシャボン玉。貴方は煙草。】
私には好きな人がいる。
同級生でもないし、隣の家のアイツでもない。
もっと大人で、背伸びしたって届かなくて、煙草の匂いがする人。
「梓ちゃん。ぼーっとしてどうしたの?」
『…えっ?』
「もしかして、具合悪い?」
『ううん。ちょっと考え事してただけ。』
「ふふ、それなら良かった。けど、勉強には集中しようね」
『はーい』
「梓ちゃんはもう少しで高校生か。前会った時は、僕の膝ぐらいだったのに。」
『そんなに小さくないし』
「ははっ、ごめんね。梓ちゃんには意地悪したくなっちゃって…。」
『ん…。陽向兄なんて数年後には私より小さくなってるから。 』
「えぇ、梓ちゃん酷い〜」
「でも、今日で梓ちゃんに意地悪出来るのも最後だね」
『…』
「あれ?もしかして寂しいの?」
『は!?寂しくないわ!』
『勘違いやめて、キモいんですけど』
「わ〜、梓ちゃん厳しー。 」
陽向兄こと坪井陽向。
陽向兄は、教え方がとっても上手く、将来は塾の先生を目指しているらしい。
今はその為に勉強中。そして、この夏休み中お試しで、 私含め3人の生徒の家庭教師として勉強を教えている。
そんな陽向兄のことが私は好きだ。
母 〈梓〜!ちょっと手伝って!〉
陽向兄との時間も残り少しになってきた所、お母さんからのお呼び出し。
私の母は、現在足を骨折中だ。
骨折と言っても軽いもので、数カ月で治るだろう。でも 、1人で荷物を運んだり、階段をのぼることが困難だ。だから、困った時は私に声をかけるようにと伝えてある。
『はーい。今行くから!』
長時間椅子に座っていたことで、固まった身体をほぐして、陽向兄にこのことを手短に伝える。
すると、
「了解。僕は外に行って散歩でもしているよ。」
私は、陽向兄に謝ってから、足早でお母さんの所に向かった。
『陽向兄ごめんっ!』
「梓ちゃん。お母さんは大丈夫だった?」
『うん。高い所の荷物を取ってほしかったって』
「そっか。」
『授業、途中で終わりにしちゃってごめん。』
「梓ちゃんはそんなことまだ気にしてたの?」
「全然大丈夫だよ。」
陽向兄はそう言いながら、煙草に火をつけた。
『陽向兄って煙草の匂い好き?』
「普通かな。梓ちゃんは煙草の匂いは嫌い?」
『別に』
「そっか」
陽向兄が「ふっ…」と作る煙草の匂いは、私の服にも染み付き、記憶にも残る。
でも、私との思い出はシャボン玉の様に陽向兄の中では消えていく。服にも、記憶にも残らない私はシャボン玉。
大人な貴方は、煙草。
子供な私は、シャボン玉。