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叫び声を聞いて、アンはリビングに駆けつけた 。
「どうしたの?大丈夫?」
アンは、すぐさま座り込んで泣き叫ぶイェンに駆け寄った。
「イェン?…イェ……」
イェンの肩を抱きしめたアンの視界に、くすんだブロンドの髪が見えた。
「…え?」
アンは跪き、ゆっくりと、ブロンドに手を伸ばした。
純白のミディドレス。
アンが、ジェンに着せたドレスだった。
「ジェン?」
ジェンはピクリとも動かなかった。
「いや…いやよ!いやぁ!」
一瞬で顔色を失ったアンはイェンの肩を突き飛ばし、ブロンドを胸に抱き寄せ、絶望の叫び声を上げた。
イェンは、ゆっくりと立ち上がり、呆然とその場を離れた。
幽霊のように青白い顔をして、台所にたどり着くと、その場に崩れ込んだ。
「…なんてこと…」
イェンは、呆然と天を見つめた。
しばらくして、アンの悲鳴が途切れた。
アンは、ジェンから離れ、キャビネットにもたれかかり、呆然と倒れたジェンを見つめ続けた。
「…どうして………」
—ジェンが動かないの?—
ジェンが笑わないの?
—ジェンはどうして起きないの?
—この生温い液体は何?
—ドウシテ、ジェンの綺麗なブロンドを汚すの?
「やめてよ…。ジェンを汚さないで…」
「…ジェン…ジェン…ジェン…」
アンの口から漏れる吐息が小さくジェンを呼び続けた。
そうすることで、ジェンが蘇ると思っているかのように。
月明かりが、ジェンのブロンドを照らした。台所まで、アンの声は届かなかった。
それでも、イェンの耳にはアンの悲痛な嘆きが木霊していた。
—ジェン…ジェン…ジェン…
ジェンを大切にしていたアン。
わたしをジェンと同じくらい大切にしてくれたアン。
わたしを見てくれた、アン。
わたしの大切な大切なお友達のアン。
わたしの大切な唯一のお友達、アン。
—わたしは、たった一人の唯一無二の存在を、取り返しのつかないほど傷つけてしまった…。
—アンはもう…わたしに笑いかけてくれないわね…。
白い手がさらに白くなるほど握りしめたあと、イェンはゆっくりと目を開いた。
その目には、まっすぐな強い光があった。
イェンは、包丁を持ち、アンが見える位置へと歩いていった。
横たわるジェンの近くに立ったイェンは、まっすぐにアンを見つめた。
「アン」
優しい声が名を呼んだ。
アンが顔を上げる。
アンと目が合ったイェンは悲しそうに笑った。
イェンは、ただアンのためだけに微笑んでいた。
「アン、ごめんなさい。あなたの大切な人を…傷つけてしまって。本当に、ごめんなさい」
こぼれた涙が、イェンの頬を濡らした。
イェンはもう一度アンに微笑むと、みぞおちに包丁を突き立てた。