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凛道桜嵐 新
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がくじゅつてき・あかげ
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わーい
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ああ、よかった。和泉さんが久しぶりに笑ったところ、じんときたよ。地震のニュース以降、ずっと気を張ってたんだなあって。千歳が組紐作りながら「なんかしてないと落ち着かない」って言うのもわかる気がするし、日常の輪郭を取り戻すように初詣に行く流れが自然だった。 佐和水香さん、狐の精にこんなに懐かれてるって相当な人だよね。千歳のナンパ(笑)にも動じず「結婚予定」って返すあたり、しっかりしてそう。銀狐との関係も気になるし、またあの神社の話を読めるのが楽しみになった。
落ち着いて自分にできることをやらなきゃ、ということだけど、正月でやることがない。大掛かりな掃除も大体済ませちゃったし、食べるものは三日間用意してあるし。募金も、デビットカードで一瞬でできたし。
祟ってる奴も、「あんまりのんびり過ごす気になれなくなっちゃった」と、確定申告の準備をしている。一応仕事だから、邪魔しちゃいけないな。
なかなか気を紛らわせられるものがなくて、ワシはとうとう組紐の道具を引っ張り出してきた。
「あれ、もう頼まれたの?」
祟ってる奴に聞かれた。
『いや、なんかしてないと気持ちが落ち着かない』
「あー、そうか……」
祟ってる奴は、複雑な顔で頷いた。
『それにさ、予備の組紐あったら、役に立つかもしれないだろ? なんかあったらすぐあげられるし、人助けになるかも』
「それもそうだね、あるといいんじゃないかな」
『じゃ、がんばる』
そんなふうにして、1/2の一日だけで組紐が一本できてしまった。疲れたので夜は祟ってるやつにくっついて寝た。
1/3の朝、今日は何して過ごそうかな、なんか気分転換になることないかな、とお雑煮の鍋を温めながら考えて、ふと気づいた。そう言えば、初詣行こうって言ってたじゃん!
『なー、お前初詣行こうって言ってたじゃん、今日行こう!
そう声をかけると、祟ってるやつは目を瞬いた。
「あ、そういえばそうだった、忘れてた!」
『いろいろ、なんかいい感じになりますようにってお参りしよう!』
「そうだね、それいいね。お雑煮食べたら行こうか」
祟ってる奴は笑った。地震のニュース以来、こいつが普通に笑ってなかったことに、今さら気づいた。
そういうわけで、朝ご飯の後、二人でこないだの近所の神社に向かった。本百(ほんびゃく)神社。
正直言うと、銀狐の件であんまりいい思い出はないけど、まあ全部ワシが悪いしな。手入れされてる神社だったし、ちゃんとしたところだと思うし。
『……?』
境内に登る階段に来て、狐狸妖怪の気配を感じて、ワシは首を傾げた。……うん、多分狐だなこれ。それなりの存在になった狐がずいぶんいる、多分境内だ。多分神様の使い見習いだから、悪い存在ではないんだけど。
『なあ、もしかしたら銀狐来てるかも』
階段を登りながら、祟ってる奴に話しかけた。
「そうなの? 霊感的なのでわかるの?」
『うーん、あいつの子分くらいの位の狐がたくさんいる。お前には見えないと思うけど』
「へえ、じゃあ、会ったらあいさつしよう」
境内には割と人がいた。飲み物を配ってるらしくて、普通に参拝しに来た人たちが紙コップを受け取っている。配ってる人の中に紫袴の女がいて、銀髪じゃなかったけど、銀狐だなって気がついた。
その隣に、緋袴の若い女がいて、その女にたくさん狐の精がすり寄ってるのに気づいた。あ、こっちの女について来てる狐だったのか!
銀狐がこっち見て、緋袴の若い女もこっち向いた。二人は他の人に飲み物を配るのを頼んで、こっちに来た。
「おお、初詣か? 和泉」
銀狐が緋袴の女を連れてこっちにきた。祟ってる奴は、それでようやく銀狐に気づいたみたいだった。
「あ、はい、おはようございます。あけましておめでとうございます」
祟ってる奴は頭を下げた。ワシも会釈して『あけましておめでとう!』と言った。
「うん、あけましておめでとう。二人とも、うまくやってるようで何よりじゃ」
緋袴の女が頭を下げた。静かな声で言う。
「初めまして、千歳さん、和泉さま。あけましておめでとうございます。こちらの神社の管理に携わっている、佐和水香と申します」
狐の精たちが、ワシを怖がるように、佐和水香にくっついた。
顔を上げた佐和水香は、特に笑うこともなくて、無愛想な感じがしたけど。でも、後ろ手でそっと狐の精をなでていた。狐の精は安心したように目をつぶって、身を任せていた。ずいぶん懐いてるな……こんなに狐の精に懐かれるって、ずいぶんかわいがってるんだろうなこの人。
『初めまして! なあ、あんた優しそうだし、こいつどうだ? けっこう優しくていい奴だし、真面目に働くし、飲む打つ買う全部しないぞ!』
ワシは祟ってる奴の腕を引いて前に押しやった。
「ちょっ、千歳!」
祟ってる奴は目を白黒させた。
「会って早々ナンパしない!」
『だって、銀狐と知り合いなら事情も知ってるし、ちょうどいいかと思って』
「だからってねえ……ていうか、優良誤認表示だよ。飲むのはたまにするし」
『そういやそうか』
佐和水香は、微妙に戸惑ったみたいだったけど、表情を変えずに「申し訳ありません、今年結婚予定の人がいまして」と言った。ワシは銀狐に「まだ諦めとらんかったのか?」と言われた。
『ぜんぜん諦めてない! おととい決意を新たにしたくらい諦めてない! ワシはこいつを子々孫々まで祟る!』
「わかったわかった、後でもう少し水香を紹介するから、先に初詣済ませてこい。終わったら甘酒飲ませてやる」
『やった!』
祟ってる奴は、佐和水香に「どうもすみません……」と謝っていた。ワシも『先約がいたのにごめんな』と言って、祟ってる奴を本殿に促した。