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二年生になって一ヶ月が経った。
実瑠は正式に生徒会長となり、以前より忙しい毎日を送っていた。
会長になったとはいえ、わからないことも多い。
そんな時は決まって一斗が助けてくれる。
「会長、その書類順番逆。」
放課後の生徒会室。
実瑠は慌てて書類を見直した。
「あ。」
「珍しい。会長がミスした。」
「誰だってミスくらいする。」
「知ってる。」
一斗は楽しそうに笑う。
実瑠は少しだけむっとした。
会長になっても、この人は昔と何も変わらない。
生徒会役員でも、会長でもなく、ただの『実瑠』として接してくる。
それが少しだけ心地よかった。
その数日後。
転校生がやってきた。
「天城玲奈です!よろしくお願いします!」
教室中が明るくなるような笑顔だった。
長い黒髪。
人懐っこい性格。
誰とでもすぐ仲良くなれるタイプ。
実瑠とは正反対だった。
そして玲奈は転校してきて一週間も経たないうちに生徒会室へ現れた。
「生徒会入りたいです!」
元気よく頭を下げる。
実瑠は少し驚いた。
「理由は?」
「学校をもっと楽しくしたいからです!」
即答だった。
その目は本気だった。
実瑠は少しだけ微笑む。
「じゃあよろしく。」
「はいっ!」
その日から玲奈は生徒会の一員になった。
玲奈は驚くほど仕事を覚えるのが早かった。
そして驚くほど人懐っこかった。
「会長ー!」
昼休み。
玲奈が勢いよく実瑠の机へやって来る。
「なに。」
「お昼一緒に食べません?」
「別にいいけど。」
「やった!」
最初は少し苦手だった。
明るすぎる。
距離感が近すぎる。
そう思っていた。
でも。
「会長って優しいですよね。」
「そう?」
「もっと怖い人だと思ってました。」
「失礼ね。」
「でも好きです!」
そんな風に真っ直ぐ言われると調子が狂う。
気づけば昼休みを一緒に過ごすことが増えていた。
文化祭の準備も。
生徒会の仕事も。
放課後の帰り道も。
いつの間にか玲奈が隣にいるのが当たり前になっていた。
ある日の放課後。
生徒会室には実瑠と玲奈だけが残っていた。
「会長。」
「なに。」
「恋したことあります?」
突然の質問だった。
実瑠はペンを止める。
「ない。」
「本当に?」
「本当に。」
玲奈は少し笑った。
「私はありますよ。」
「そう。」
「今も好きです。」
実瑠は何気なく聞き返した。
「誰? 」
すると玲奈は少し照れながら答えた。
「浜瀬先輩です。」
その瞬間。
実瑠の手が止まった。
心臓が少しだけ変な音を立てる。
でも理由はわからない。
「そうなんだ。」
「はい!」
玲奈は楽しそうに笑う。
「優しいし、かっこいいし、絶対モテますよね。」
「そうね。」
「でも彼女いないんですよ。」
「そうみたいね。」
「チャンスありますよね!」
実瑠はうなずいた。
それしかできなかった。
その日の帰り道。
なぜか玲奈の言葉が頭から離れなかった。
『浜瀬先輩です。』
『好きなんです。』
何度も繰り返される。
家に帰っても。
勉強中も。
寝る前も。
ずっと。
「なんなの……」
自分でも理由がわからなかった。
数日後。
生徒会室。
玲奈は一斗の隣に座っていた。
「先輩、ここ教えてください!」
「どれ?」
二人は肩を寄せて書類を見ている。
楽しそうだった。
仲が良さそうだった。
その光景を見た瞬間。
実瑠の胸が少しだけ苦しくなった。
「会長?」
玲奈が振り向く。
「顔怖いですよ?」
「別に。」
「怖いです。」
「気のせい。」
実瑠は視線を逸らした。
その日からだった。
一斗と玲奈が話していると気になる。
笑っていると気になる。
一緒にいると気になる。
自分でも嫌になるくらい。
気になる。
でも理由はわからない。
認めたくなかった。
夏祭りの日。
生徒会は地域の祭りの手伝いを任されていた。
玲奈は浴衣姿だった。
「どうですか会長!」
くるりと回る。
「似合ってる。」
「やった!」
玲奈は満面の笑みを浮かべた。
その直後。
「浜瀬先輩ー!」
玲奈が走っていく。
「見てください浴衣!」
「似合ってるよ。」
一斗は笑った。
玲奈も笑う。
二人とも楽しそうだった。
それを見ていた実瑠は、なぜかその場から目を逸らした。
その夜。
ベッドの上で天井を見つめる。
思い出すのは祭りじゃない。
一斗だった。
玲奈と話していた時の笑顔だった。
「なんで……」
答えは出ない。
出したくなかった。
でも。
心のどこかでは気づき始めていた。
自分が知らない感情に。
まだ名前を付ける勇気はないけれど。
それでも確かに。
実瑠の中で何かが変わり始めていた。
そしてその変化は。
修学旅行で決定的なものになる
コメント
1件
実瑠の「自分でも理由がわからない」って感覚、すごく丁寧に描かれてますね。玲奈の「浜瀬先輩です」って一言で心臓が変な音を立てる――その瞬間の描き方が絶妙で、読者にも「あっ」て気づかせるところが好きです。まだ名前を付ける勇気がないまま夏祭りで目を逸らすラスト、続きが気になります。