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芙月みひろ
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#王子
ちょっと待て、落ち着け。……いや、どうしてこうなった!?
高い天井、ステンドグラスから降り注ぐ七色の光。
本来は祈りを捧げるべき聖域。だが今、僕はチャペルの死角にあるベンチへ、白石さんによって強引に押し込まれていた。
「陽一さん。『誓いのキス』ですが……どうしても気になる点があるんです」
白石さんは、明日の天気でも話すような落ち着いた声で、僕のワイシャツのボタンに細い指を絡めた。
「気になる点……?」
「はい。本番で陽一さんが緊張のあまり、私の唇を空振りしたり、噛んでしまったりは許されません。……さあ、練習の時間ですよ♡」
白石さんの顔が、回避不能な距離まで迫る。逆光に透ける肌は神々しいほどだ。だが、甘い香水の匂いと熱を帯びた吐息が、祭壇の百合の香りを暴力的に塗り替えていく。
「……ちょっと失礼しますね♡」
彼女はそう言って、僕の目を見つめたままスッと白いスカートの裾を持ち上げた。 ステンドグラスの光に照らされて、黒いレースのガーターストッキングが僕の目の前で露わになる。
「……なっ!?」
驚く僕の隙を突いて、彼女はわざと僕の左手の上に腰を下ろし、その重みを預けてきた。
(くっ、手が固定されて動けない。というか、布越しでも伝わってくる彼女の熱と、ダイレクトな柔らかさが……!)
「はい、お口あけて? ……早くしないと練習風景、見られちゃいますよ? それとも、もっと忘れられないこと、しちゃう?♡」
(……神様、助けてください。この人、外見はどこまでも清楚な『天使』のくせに、中身は神をも恐れない、慈悲なき『悪魔』だ……!!)