.:*゚..:。:. .:*゚:.。:
永久の愛を形にするって
どういう事だろうとフト思った事がある・・・・
それは遠い昔・・・・・
.:*゚..:。:. .:*゚:.。:
誰かに教えてもらった記憶・・・・
.:*゚..:。:. .:*゚:.。:
「本当に夕方まで外出しても大丈夫ですか?
文香に来てもらってもいいんですよ? 」
新藤桃子は心配そうに二人を覗き込んだ
「大丈夫だよ!君は心配性だな!
ゆっくり楽しんでおいで
この子の事は任せてくれ! 」
新藤修二は玄関で生後11ヶ月の息子を
片手で腕に抱き笑って言った
「あ~~~~~っ!いいいいい~っ!」
小さな男の子は
バラの花弁のような顔の中で
茶色い目が真ん丸に輝いている
桃子の方に抱かれようと両手を差し出している
桃子は笑って小さな鼻にキスをした
まるでキューピー人形のような額の
くるんとした巻き毛を見て笑みを浮かべた
「ほら!シン君もそう言ってる」
「でもこの子最近歯が生え初めていて
それが痒いみたいでグズると手が
付けられませんよ? 」
ふわふわの赤ん坊の頭を撫でながら
桃子は首をかしげた
「大丈夫!大丈夫!
さぁ シン君!
一緒にアンパンマンを見ような~♪」
新藤は息子が楽になるように腰に抱き直し
ガチャガチャと42インチの
プラズマテレビの横の籠に
山積みされている子供用アニメのDVDを
漁りだした
彼の腕の中でキャッキャッと信一郎が笑う
大型テレビの大画面に
アンパンマンが映し出され
テーマソングが流れると
信一郎は両手を叩いて興奮し
体を左右に揺すっている
「子守りなんて楽勝だよ!」
新藤がどうだとばかりに桃子に笑いかける
クスクス笑っていた桃子が新藤を
熱く見つめて言う
「シンの目はあなたにそっくり」
「髪の毛は君にそっくりだな
僕は剛毛だからあんなに茶色くて
フワフワじゃない
それに鼻も口も君に似てる 」
二人は肩を組んでうっとりと
テレビに映るアンパンマンを見て
はしゃぐ自分達の赤ん坊を見つめる
「見てくださいよ
あの肩幅・・・
きっとあなたに似て背が高くなるわ 」
「テレビの音楽にあんなに反応する
乳児っているかい?
きっと天性の才能があるんだ
君に似て聡明になるよ 」
二人は窓辺にもたれて手を取り合った
「僕たちの子供は素晴らしい・・・・」
「ええ・・・ほんとうに・・・・ 」
二人の顔が近づき熱いキスをした
その瞬間
興奮してのけぞった信一郎が
そのまま頭から背後に倒れた
ゴツンと言う音と共に
爆発のような泣き声がリビングに響いた
二人は脱兎の如く信一郎に駆け寄った
・・・・数分後・・・・
「それじゃ行ってきます・・・・
本当に何かあったらすぐに
電話してくださいね 」
「ああ・・・
産後検診に美容院だったね
ゆっくりしておいで 」
信一郎を泣き止ませ
怪我を確認し今は何事もなかったように
機嫌よくテレビを見ている
我が家のトラブルメーカーをよそに
やや疲れ気味の桃子と
さらに疲れた顏をしている新藤が
桃子を玄関まで送った
桃子がいなくなると
生まれて以来初めて息子と
二人っきりになった新藤は
やや緊張ぎみにコーヒーを啜った
楽しそうにテレビを見ている
息子の後姿をじっと見る・・・・
なぁに!世の中ではイクメンとかが
流行っているそうじゃないか
僕もその才能を開花できる
良い機会に恵まれたと思おう
そう意気込んでみても天才外科医の
新藤も難しい手術をするよりも
この生後11か月の赤ん坊の方が
謎に包まれている
まったく未知との遭遇に思えた
桃子にああは言ったものの
いつもは守護神のように子供に
張り付いている桃子がいないと
一抹の不安に襲われる
さらに彼女の実家にいくと彼は
祖母や叔母に甘やかされまくっている
おかげで癇癪をおこすと
やっかいな事になる
新藤はそっと信一郎の柔らかな
茶色い巻き毛をなでた
それでも親の欲目で見なくても
この子は可愛かった
明るい茶色の目は黒目の周りに
光彩が放ってキラキラしている
口を開いて満面に浮かべた笑み
真珠みたいに小さな歯は上に
2本ピンク色の歯肉からひょっこり
顔を出している
どこをとっても信一郎は丸々と太って
健康ではちきれそうだ
授乳をしている桃子とこの子の姿は
聖母と幼子の心温まる光景だ
信一郎はよだれでベタベタの手をあげて
新藤を掴もうとしている
ヨダレも気にせず彼を受け止めた
この小さな生き物に対する怒涛の
ような愛は日増しに強くなる
小さな腕で懸命に抱き着いてくる
さまが愛おしい
この子を愛しすぎていて胸が痛むほどだ
何があってもこの子だけは守ってやりたい
母を早くに亡くし一度離婚の経験をした
新藤は桃子に会うまで長い間
愛情には疎く
今のこの気持ちは目新しい感情だった
自分がこれほどロマンチストだったとは
思っても見なかった
以前から新藤が一人で暮らしていた
2LDKのマンションはすっかり
家庭らしくなり
新藤の書斎は今やベビールームになり
リビングのあちこちには
ぬいぐるみが置いてあり
赤ん坊がいる家特有のふわふわとした
雰囲気をまとっている
「よしっ!信君!
今日はママは夕方まで帰ってこないよ
男同士仲良くやろうな! 」
「あぷ~~~~~っ!」
信一郎がキラキラと輝く目で新藤の頬を
ぺチペチやる
「今日は暖かいからまずはおでかけだ!」
ぎこちない手つきで信一郎に服を着せる
水色でモコモコの足つきジャケットは
小さな足まですっぽりおさまる
桃子が気に入っている海外の
ベビーメーカーの物だ
まだ歩けない彼は靴を履かす必要もない
さらに小さな手袋と水色のファーの
クマの帽子をかぶせて完成だ
信一郎の機嫌を取りながら
自分もすかさずダウンを着こみ
リビングにある桃子が用意してくれた
マリメッコのマザーズバッグの中身を
たしかめる
バッグの中身はおむつバッグにおしりふき
哺乳瓶、おしゃぶり、よだれかけ、ティッシュ、おやつ
なんだ?これは?
まるで4次元ポケットだ
次から次へとアイテムが出てくる
新藤はとてもじゃないが全部は覚えられず
そのままマザーズバッグをリビングに置き
信一郎をベビーカーに乗せて
股の間でしっかり安全ベルトを締めた
「何も遠出するわけじゃないんだ
すぐそこだからね
軽装で行こう! 」
「ぐぶぶぶ! 」
信一郎と同じ目線で彼に言った
爽やかな朝だった少し冷やりとしていたが
日差しは暖かく午後にはポカポカ陽気に
なるだろう
信一郎は頬を赤くそめ
ベビーカーの安全バーを握りしめ
回りを見るのに忙しそうだ
「お散歩も楽勝じゃないか! 」
自分はもしかしたら
すばらしいイクメンに
なれるのかもしれない
子供の事を理解し仲良くて友達親子の
ようになれるかもしれない
そう新藤が理想に夢を膨らませていると
ベビーカーに乗っている
信一郎がグスりだした
「ああっ・・・
どうしたんだい?
もうすぐ着くから大人しく乗っていてくれ」
そう言い聞かせても赤ん坊に
通じるわけがなく
今や信一郎は背中をシートに打ち付けて
身振りでこの拘束を今すぐ解けと
激しく抗議している
しかたがなく新藤は片手に赤ん坊を抱え
片手でベビーカーを押すといった
どうにも不便なお散歩を
余儀なくされていた
そうこうするうちに
小さな高台の広大な空き地に着いた
「さぁ 見てくれ
ここだよ 」
ベビーカーを端に寄せ
その立ち入り禁止の空き地に入って行った
信一郎は親指をしゃぶりながら
キョロキョロとあたりを見回している
「ここが僕たちの我が家とクリニックだ・・・ 」
新藤は誇らしげに広い空地を見渡した
信一郎が身じろぎして小さく泣き
また静かになった
その体を優しく叩きながら一つ一つ
土地を踏みしめるように歩いた
「この土地は父の土地でね・・・
もっとも少し買い足したんだ
まだ地均しもはじまっていないけど・・・
建物が立ちだしたら早いものだよ・・・」
優しく信一郎に語りかけながら
ゆっくりと円を描くように歩いた
「ここが君の家だ 」
大きな土地の右端に影がかかっている
部分を指さして言った
「3階建てだよ君は長男だから
一番上に君の子供部屋を用意した
まだ後から君の兄弟たちが
生まれるだろうからね 」
風が優しく吹き抜けるが
寒いといけないので
信一郎の帽子を下にひっぱった
この時期空気は少しずつだが
春の匂いを含んでいる
振り向いて次に方向転換をして
しばらく歩いた
「そしてここが僕の診療所だ 」
まだ何も舗装されていない
空地の隅には小さな野草が生えている
「ここに小さな生垣を植えるんだ
そうしたら家から診療所に行く途中
患者と鉢合わせしなくてもいいだろう?
プライバシーが完全に守れるってわけだ」
頭の中で設計図を思い出しながら言った
自分のクリニックを開くということは
新藤にとっても夢で大きなかけだった
それでも桃子と結婚してから二人の夢に
一歩大きく近づけたことに
新藤は希望に胸を膨らませていた
「どう思う?」
新藤は静かに信一郎に言った
新藤の顎の下の信一郎の頭はクマの
帽子に包まれて丸く温かだ
「ここは君のものになるんだよ?
君はここに住みそれから君の子供達も
ここで暮らすことになるかな?」
桃子と出会っていなかったら
まったく違った人生を送っていただろう
彼女は出会った初めこそは地味で
大人しい女性だったが
温かく思いやり溢れる彼女は
家族や同僚や友人に恵まれていた
長い間孤独で気ままに生きる事に
満足していた
新藤の防御壁を彼女の
温かさでそれを溶かした
さらに人と関わることの大切さも
彼女は教えてくれた
一人の女性と出会ったことがきっかけで
人と関わることを良しとして
もっと自分の技量を磨きたいと思った
果てしなく広がる医療の深海も
桃子と二人なら泳いで行けるだろう
そう思いを馳せている時に
信一郎がウンウン言いながら
父親の胴体に爪をかけてよじ登ろうとしてた
新藤は鼻をうごめかした
その瞬間信一郎は目をむいて
顏を真っ赤にした
そしてくぐもったマシンガンの銃声
のような音を発した
新藤は慎重に信一郎のおしりに鼻を持っていき
匂いをかいだ
「・・・・やってくれたな・・・・ 」
赤ん坊は輝く笑みをこちらに向けた
あわてて帰ろうとしても
信一郎は来た時と同様断固として
ベビーカーに座ろうとしなかった
もっともシートにどっしり座らせると
オムツの中の物体がとんでもない事に
なるのではないかと新藤も思っていたので
足早に片手に赤ん坊を抱え
片手にベビーカーを押して
出来る限り早く進んだ
片手でベビーカーを押すほど
頼りないものはない
あっちへフラフラこっちへフラフラ
まっすぐ前へ進んでくれない
新藤はまったく役目を全うしてくれない
ベビーカーを道端に捨てて
帰りたい衝動を抑えるのに必死だった
やっとの思いで家に帰りつき
信一郎の服を脱がせオムツの中身を見たら
まさしくそれは爆発していた
悪臭を放つ黄色い物体はオムツからはみ出て
彼の下着にもロンパースにも侵入し
大参事を巻き起こしていた
しかも所々乾燥して肌にこびりついている
その匂いもすさまじい
「君のママはいったい君に
何を与えているんだ?」
しかめっつらで新藤は赤ん坊に言った
信一郎を四つん這いにし
オムツを横端から破りそっと外す
「うぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~♪」
キツイ洋服だのオムツだのと戒めから
解かれた信一郎は歓喜に叫び
ものすごい勢いでハイハイで脱走しだした
「うわっ!こらっ!待つんだ! 」
やっとの思いで片足を掴み
おしりふきでお尻の割れ目の
汚れをすくい出す
「いいいいいいいい~!」
何が楽しいのか信一郎は上機嫌で叫んでいる
今度は仰向けにし陰部も綺麗に拭く
イクメンになるには避けて通れない登竜門だ
すると危険ゾーンの信一郎の
小さな小指ほどの一物が勃起している
彼は父親に向かって満面の笑みを浮かべた
ギクリとした時はもう遅かった
そして一気に小便を噴き出した
「うわ~~~~っっ!!!」
リビングの絨毯も
新藤のシャツもジーパンもびしゃびしゃになった
はしゃいで手を叩き足をばたつかせている信一郎をよそに
げっそりと青い顏をした新藤は
一言つぶやいた
「・・・・フロだな・・・・ 」
風呂から上がると新藤は赤ん坊に
いつも桃子がしているように
見様見真似でベビーパウダーをはたいた
しかしつけすぎたのか息子は
天ぷらの衣みたいに真っ白になったが
疲労でどうでもよくなった
オムツを履かせ
下着とロンパースを着せた
さっきまで裸でご機嫌だったのに
服を着せられたのが気に入らないのか
いつもより手際が悪いのがいけなかったのか
信一郎は機嫌を損ね
むずがりはじめた
おかしを与えても嫌がり
お菓子の袋を振り回して
しっちゃかめっちゃかの大混乱が始まった
金切り声をあげ
のたうち、身をよじる
いくらなだめても
情緒のバランスを失った
赤ん坊は大声で泣き叫び
抱き上げると反り返り
下に降ろすと手足をばたつかせ
さらに泣き声をワントーン上げる
新藤は今は耳鳴りをしている自分の耳を
押さえ寝室に逃げ込んだ
スマホを手に取り
短縮で自分の勤める総合病院に電話する
すかさず受付で小児科に取り次いでもらう
「助けてくれ!森本先生!」
新藤は電話の向こうの小児科医に言った
「おお!新藤先生じゃないか、どうした?
君は今日は公休だったはずだろ? 」
新藤は自分が勤める総合病院の旧知の仲間の
小児科医の森本に電話した
「子供が泣くんだっ!」
必死な思いで新藤は言った
「・・・・子供は泣くものだ 」
忙しい小児科医の森本は片眉を上げて言った
「でもおかしいんだ
さっきから泣きっぱなしなんだ
だんだん不安になってきた!
息子はどこか悪いのかもしれない 」
問題の息子はリビングで大の字になり
手足をバタつかせて火傷した猫のように
泣き叫んでいる
泣き声のトーンがまた一つ上がった
今や我が子は豚が絞め殺されそうな
悲鳴を上げている
新藤はリビングに戻り
電話の相手に聞こえるように
スマホを空襲警報のように叫んでいる
信一郎の口の横に数秒ほどあてがった
「ほら!どうだ? 」
「フム・・・熱は? 」
「無い! 」
「口の中や首や指の間の
やわらかい所に発疹は? 」
「まったく見当たらない! 」
「腹は下してないか?身をよじったり
何処か痛がる様子は? 」
「さっきめちゃくちゃ
フレッシュな便をした!
快便だった! 」
しばらくやり取りをして
あきれた声が受話器から聞こえた
「小児科医として厳粛な診断をした結果だ
君のご子息はいたって健康!
ただ単に機嫌が悪いだけだ
解決法はただひとつ!
母親に渡せ! 」
「それが出来ないから君に
電話してるんだ!」
抗議の声をあげる
「なんだ、奥方は外出中か?
天下の新藤先生も子供には形無しだな
そのうち眠くなって泣き止むだろう 」
「どれぐらいだ?10分か?20分? 」
「さぁな!
体力のある子は1時間でも
2時間でも泣きわめくぞ
僕は忙しいんだ
それでは健闘を祈る!
ああ・・
それと週末のゴルフコンペは君が
医院長を迎えに行くのをお忘れなく! 」
きっぱりと言う森本の声を
最後に電話は切れた
信一郎はあいかわらず大声で泣き叫び
手足を振り回し
しかも超人的な耐久力とオペラ歌手
顔負けの声量は衰えを知らない
チラリと時計を見る
桃子が出かけてからまだ
3時間も経っていない・・・
これで電話したらイクメンを目指すとか
なんとかが面目丸潰れだ
「よしよし、いい子だね
ほらほら・・・」
信一郎を抱き上げて肩にもたせ
背中を軽く叩いてやってもいっこうに
泣き止まない
さらに小さな体をエビの様に反らし
誰が抱かれてやるものかと新藤の腹を蹴る
「いてっ!こらっ!やめるんだ!」
ボカボカ腹を蹴られながら
彼を責めるのは筋違いだと自分に
言い聞かせる
「君がしゃべれたらいいのにね・・・
何が不満なんだろうか?
そうだ!あの中に・・・・ 」
むずがる赤ん坊を片手で揺すりながら
空いた手でマザーズバッグの中身を探る
耳元の絶叫を聞いているせいで
頭痛がしてきた
絶えず変化する乳幼児の身体状態に応じて
桃子が携帯しているポーチの中身を漁る
鼻用の吸引器、抗アレルギー薬、
さすが看護師だ
緊急用抗生物質
アレルギー用軟膏、
おしり拭き
目当ての物は見つからない
さらにマザーズバッグのもう一つの
ポケットも探る
いったいこのポケットは何個ついて
どれぐらい入ってるんだ?
子供用のお菓子を詰め込んだクラッカー、
キャロットスティック、ヨーグルト、
チーズスティック
パックのフルーツジュース
そしてバックの隅にやっと見つけた
ミッキーマウスの水色の歯固めを
信一郎に差し出した
ピタリと泣き声はやんだ
信一郎は一心不乱にその歯固めを
しゃぶりだした
「やれやれ・・・桃子の言う通り
歯が痒いんだな・・・ 」
泣き声がやんだら一気に疲労が襲ってきた
新藤は安堵のため息をついて
リビングに信一郎を降ろし
その隣に自分もゴロンと横になった
疲れが半端ない・・・・
しかも普段自分が仕事で感じている
疲労とはまた異質のものだった
盛大に歯固めをクチャクチャ言わせて
しゃぶる信一郎を新藤は肩肘をついて
しばらく見入っていた
「それそんなに美味いかい?」
上体を起こして聞いてみた
今や眉間にしわをよせてゴムの感覚を
噛みしめている息子を観察する
「少し僕にも食べさせてくれないか? 」
彼の関心を引きたくて
新藤は思いつきで手を出してみる
すると信一郎はピタリとしゃぶるのをやめて
こちらをじっとうかがっている
二人はしばらく見つめ合った
「あい 」
そう言って
信一郎は満面の笑顔でよだれでベタベタに
なった歯固めを新藤に差し出した
その輝く笑顔に射ぬかれて
新藤はバタリと後ろにひっくり返った
あまりの可愛さに
しばらく大の字になって放心していたが
すかさず自分の部屋から
スマホを持ち出して来て
信一郎を連写モードで撮りだした
パシャッパシャッパシャッ
「シン君!!こっちむいて!
ほら!パパにちょ~だいって!してっっ!
ちょ~だいっっ!! 」
連写モードであらゆる角度から
信一郎を撮る
パシャッ!パシャッ!パシャッ!
「もういっかい!!
パパにちょ~だいっ!!
ああ!なんてかわいいんだ!!! 」
そんな一人撮影会で大騒ぎを
している父親をよそに
ふたたび彼はしかめ面をして
自分の歯固めにかぶりつく事に
一生懸命になった
昼過ぎになって新藤は二人で
昼食をとる事にした
出かけに桃子があらかじめ作ってくれて
いた離乳食の煮込みうどんを
新幹線のキャラクターの柄の
プラスチックのどんぶりに移す
そして桃子の指示通り
ヌードルカッターで細かく刻み
信一郎の昼食の出来上がりだ
そして自分用に別鍋で作ってくれている
煮込みうどんに火をかける
本当に桃子はすばらしい
信一郎を子供用テーブルに座らせ
首にエプロンをかける
赤ん坊はプクプクした手で
テーブルをバンバン叩き
奇声をあげて催促する
「よしよし!お腹がすいただろう
さぁできたぞ!美味そうだろ?
っていってもママが作ったんだけどな 」
フーフーと息をかけうどんを冷ませ
信一郎の口に運ぶ
「ハイ!あ~ん 」
美味しそうにモチュモチュと音を鳴らせて
うどんを食べる我が子を見て心が温かくなり
新藤はとても幸せにな気持ちになった
「そうか!うまいか!
じゃもっと食べような! 」
「あ~~~~~~~い! 」
自然と笑顔がこぼれる
食欲旺盛な信一郎に催促されるまま
どんどん口の中へうどんを運ぶ
しかしそこで
乳幼児の胃袋の許容範囲がどれぐらいの
ものなのか知ろうともしなかった新藤に
ふたたび不幸が見舞った
食べ過ぎた信一郎が突然
マーライオンのようにうどんをすべて
吐き出してしまった
その噴き出した吐しゃ物は
新藤の髪に服に一斉に浴びせられた
そして吐いた本人は言うに及ばす
自分がクラッカーのように
胃の中のものを吹き出したのが
面白かったらしく
今はベビーチェアに吐き出した吐しゃ物を
楽しそうにそこらじゅうに
手でなすりつけて広げている
床もテーブルも信じられない大参事に
新藤はしばらく固まった
吐しゃ物まみれになった二人は
本日二回目の風呂に入った
:*゚..:。:.
「ただいまぁ~♪あなた?シン君? 」
美容院で髪を切ってさっぱりした
桃子が帰宅したのは夕方の
5時を回っていた
彼女の専属のヘアスタイリストの
ジミーと世間話をしていて
すっかり遅くなってしまった
そして玄関に入ってすぐの
バスルームの脱衣所が大荒れに
荒れているのを見た
そしてキッチンの大参事を眺める
洗いかけの食器
吐しゃ物でよごれた雑巾の数々・・・
撒き散らかされたベビー用かっぱえびせん・・・
きっとシンに袋ごと渡したのね
あれをやると振り回すから・・・・
桃子は現場検証のように
一つ一つ確認しながら
彼がかなり苦戦していたことを察した
そしてリビングに向かうとほほえましい
光景に思わず足を止めた
ソファーに新藤が体を優雅に
投げ出して眠っている
その新藤の胸の上でうつ伏せになった
我が子が小さないびきをかいていた
眠りながらも我が子が落ちないように
しっかりと胸に抱いている
彼を見ていると思わず愛しさが
こみあげてくる
この世で最も大切なものが二つ
仲良く同じような顔をして眠っている
心なしか出かける頃より
ボロボロのような気がするが
二人は着替えていて
信一郎は緑のロンパースに股のホックが
ちぐはぐに止められていた
幸せに微笑みながら彼から
そっと信一郎をはがす
やさしく揺すりながら
ベビーベッドへ連れて行く
ぐったりとした体は
小さなサンドバッグ並みに重い
「今日は一日パパと一緒でよかったね」
赤ん坊を起こさないように小さな声で
ささやく
小さなため息をついた信一郎は
心地よい羽布団にくるまれ
再び至福の眠りに落ちていった
桃子はリビングに戻りソファーから
半分落ちかけている新藤の頬に
そっとキスをした
それに反応して寝ボケ眼の新藤が桃子を見た
「やぁ・・・・おかえり・・・ 」
その顔が愛しくて
もう一度彼にキスをする
「シン・・・よく眠ってるわ・・・
大変だったでしょう? 」
疲れた顏で目の下のクマを
こすりながら新藤は言った
「ぜんぜん 楽勝だったよ 」
桃子はクスクス笑った
「君の方はどうだった?
楽しかったかい?」
「ええ!とても
今日の産後検診でね・・・・」
一瞬ドキリとした
桃子は産後の肥立ちがあまり良くなく
新藤はすいぶんと心配したものだった
「それで? 」
やや緊張気味に聞いた
そして桃子は弾けるような笑顔で言った
「先生が太鼓判を押してくださったの!
私はいたって健康!
いつでもご主人との
「関係」を再開しても
いいんですって!! 」
新藤も喜びに胸が震えた
「そうかい!ああ・・よかった! 」
桃子が新藤の首に手をまきつけ
キスをした
彼女の親指が少し血管を押したので
血管の中で増幅された鼓動を彼自身も感じた
「桃子!・・・・寂しかったよ・・・ 」
「修二さん・・・ 」
半分体を起こし
さらに彼女の唇に唇を重ねた
息が切れたので彼女の息をわがものにした
彼女は爽やかなミントの香りがした
結び合いたい思いはあまりに激しくて
手段はなんでもかまわなかった
手、唇、腕に順番にキスをし
彼女の脚の間に手を入れ押し広げる
桃子が新藤の胸のシャツのボタンを外し
新藤がはぎとるかのようにシャツを脱いだ
すかさず新藤も桃子の服を脱がせ
ピンクの可愛らしい授乳ブラジャーを外し
乳房を握る手に思わず力を入れてしまった
「あっ!まっ待って!」
桃子が少し身を引いた
ぎゅっと握った乳房から
真っ白の母乳がほとばしった
「うわっ!カッチカチだ・・・ 」
授乳期の母親と一つ屋根の下で住むものは
誰もがそのお乳に無関心ではいられない
乳房は独自の命をもっており
その大きさは終始多様に変化する
手首に滴りこぼれおちた母乳を
新藤がペロリと舐めた
「・・・甘い・・・・ 」
その新藤の目には欲望の炎が燃えていた
桃子はすぐに体が熱くなった
やっかいなことに性的に感じても
母乳は溢れていくる
「あの・・・少し待ってて・・・ 」
桃子はそそくさと信一郎の
ベビールームに逃げこみ
ベッドの隅の電動搾乳機を乳首に当てた
勢いよく母乳が飛び出す
本当は信一郎に飲ませたいのだが
あれからもう一度新藤が忍耐強く
信一郎に離乳食を食べさせたので
彼の小さなお腹は太鼓のようにパンパンだ
大満足で良く眠っている
きっと飲んでくれそうにもない
こういうカッコ悪い姿は新藤には
恥ずかしくてあまり見られたくない
なのに彼は開いたドアに腕を組んで
もたれかかり じっとこちらを伺っている
上半身はさっき自分が脱がせたおかげで
彼は裸だった
彼の熱い視線を背中を向けていても感じる
彼の子供を産んだ今でも
彼には終始ドキドキして
ときめかずにはいられない
音を立てず彼が近づいてきて
桃子を背後から抱きしめた
「終わった?」
「・・・ええ・・・」
首筋に熱いキスをされる
思わずのけぞって目を閉じる
「バスルームへ行こう・・・
まだ沸いてる
そこなら母乳がこぼれてもかまわないだろう?」
二人は抱き合って熱い湯船につかった
「ああ・・・
すごいやわらかくなった・・
まさに女体の神秘だ・・・ 」
そう言って新藤は桃子を上にのせ
大きく実った胸の谷間に顔をうずめた
「今は彼にここを貸してるけど
本来は僕のものだ 」
桃子はおかしくて笑ってしまった
「何をおっしゃってるの?
子供みたいな人 」
「ほんとうだよ・・・
いつも羨ましく見てたんだ・・・ 」
彼の頭が下がってきて
唇がそっと乳首に吸い付いた
赤ん坊は貪欲に腹を満たそうと
硬い歯肉で死にもの狂いで乳首に吸い付き
豊かな泉を枯らすまで飽くなく吸い続ける
しかし新藤のそれは全く違い
まさしく愛撫だ・・・
舌でぐるりと乳輪を舐めたかと思うと
小刻みに乳首を震わす・・・・
ああ・・・・すごく感じる・・・・
「もう・・・・シンは
そんな悪さはしません・・・
あん ああ・・・・ 」
「・・・ゴムをした方がいいんだろうね
シンの為にも・・・
君の体のためにも・・・ 」
新藤が荒い吐息で耳元でささやく
「・・・母は・・・・
年子で育てた方が一気に子育てが終わって
楽だと言ってました
私と文香がずいぶん年が離れているから・・・」
「中には・・・出さないよ・・・
君を感じるだけ・・・・ 」
二人はゆったりとした湯船に揺られ
お互いの心臓の音を耳の奥で感じた
どくどくとした鼓動を感じながら
新藤のこれ以上ないほど
膨れ上がったモノを
自分から上になって迎え入れた
桃子もこれ以上ないほど興奮していたし
これがなくて寂しかったのは
自分も同じだ
奔放な女になりきり淫らに揺れる
自分の揺れと同じように湯船の湯も
音を立てて揺れる
同時に彼の腰に手を這わせ
そのくぼみや丸みを手でなぞるように
愛撫していった
「あの・・・・
私・・・どうですか? 」
ずっと気になっていたことを訪ねた
「その・・・・シンを産んだから・・・
気持ちいいですか? 」
「どうって?・・・・ 」
新藤がきょとんとして聞いた
頬がバラ色に染まっている
つぎの瞬間桃子が言おうとしたことを
悟った新藤は楽しそうにニヤリと笑った
「ああ・・・変わっていないよ・・・
君はとてもキツク絞まっている・・・
いや・・・まてよ
シンを産む前と少し違った所があると
すれば・・・・ 」
とたんに新藤が桃子の奥深くまで
突き上げた
「ああっっ!! 」
思わず快感にのけぞる
子宮の入り口に彼の先端が当たるのを
感じるそれだけ深く貫かれている
「前より「深み」が増したかな?
ああ・・・桃子・・・・
我慢できない!いってしまうよ
もう離れて! 」
新藤が激しく突き上げながら
切羽詰った声で言った
「いいのよ あなた・・・ さぁきて 」
優しい声で新藤をうながす
桃子は自分の中で新藤を爆発させたかった
新藤に馬乗りになり
さらに奥深くまで誘う
甘く激しい律動に包まれながら
怒涛の絶頂へ二人は激しく上った
彼は叫び
体を震わせ熱い精を桃子の中へ放った
どくどくと中で脈打つ熱い刺激が
さらに桃子の快感を煽る
とても量が多い
この分だと明日にでも妊娠しそう・・・・
新藤が力を抜いて肩にもたれかかってくると
桃子は満足感に微笑んだ
まだ息を喘がせ震えている新藤に
やさしくキスをして言った
「今日は・・・
シンの子守りをしてくれて
ありがとう・・・ 」
新藤は桃子のうなじに
唇を押し当てて微笑んだ
数ヶ月ぶりに桃子と愛を交わし
酸欠でぶっ倒れそうだ
幸せな倦怠感に包まれながら
きっと自分は一生彼女と愛を交わす事を
楽しむだろうと思った
ニヤリと笑って新藤が答えた
.:*゚..:。:. .:*゚:.。
「こんなご褒美がついてくるなら
本気でイクメンを目指そうかな 」
.:*゚..:。:. .:*゚:.。
.:*゚..:。:. .:*゚:.。
【完】
.: *゚..:。:. .:*゚:.。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!