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ゴーン。ゴーン。
広い館に響き渡る鐘の音。昨日までとは比べ物にならないほど大きく響き渡る。
私はどこで間違えたのだろう。
私は何をするのが正解だったのだろう。
隙間風が背中をなぞる。
とめどない後悔とどこか胸をなでおろす自信が許せず床に倒れ込む。
何かで蓋をされたようにうまく酸素が吸えない。苦しみでもがく。
私は「蓋」を押し上げるように力を振り絞る
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
悲痛な私の声が再び広い館に響き渡る。
しかし先程とは何かが違う。背後に誰かの気配を感じる。
振り返る瞬間、その瞬間が1時間にも2時間にも感じる。
背後にいた人物の顔を見たその瞬間、私は息を飲んだ。
深く暗い森の奥。一件の古い舘。
僕を含む4人は館の扉の前に佇んでいた。
「なんだか思ったより雰囲気のある館だね、、」
そう言葉を漏らすのはルームメイトの沢村 理人だった。
彼とは他3人の中でも1番交流が深い存在だと思っている。 彼は少し臆病な一面があり、それでいて几帳面だ。このような得体の知れない館を不審がるのも納得だ。
「そうか?俺はちょっと楽しみだけどな」
「お嬢様?って書いとったやんな、美人さんならええなー」
「それでいてスタイルも良ければ俺らにもわんちゃんが、、」
「こんな時にもそれか!!優は相変わらず脳内お花畑やなー」
理人に続けて言葉を漏らしたこの2人も同じルームメイトの金田 大和と
中野 優だ。
2人は僕ら4人の中でも明るくお調子者な反面、大人びていて頼りになれる存在だ。
僕と理人が暗闇を凛と照らす月なら、彼らは轟々と燃え盛る太陽のような感じだ。
そもそも僕らがなぜこんな館の前にいるのか。
僕らはもともと同じ中学出身で共通の話題から意気投合し、現在進行形で生涯を共にしている。
その共通の話題というのが「音楽」だ。
最初はみんながみんな同じテイストの音楽が好きな訳では無かった。だから「音楽好き仲間」と言うだけでなんとなくつるんできたのだが、段々話しているうち、内面的な性格も合い、お互いの好きな曲を共有しているうちに更に仲が深まった。
そこから皆同じ高校に入学し、「軽音部」という存在に出会った。はじめは4人みんなで入ろうと話していたのだが、どうも既存のメンバーのやる気を感じられず、入部するのはやめて4人で1からバンドを始めようという話に流れて行った。
それから卒業が近くなる頃には各々が楽器を思うように弾ける所まで成長し、それぞれ独自の音楽スキルを獲得した。
そんなこんなで卒業する頃には規模は小さいがライブハウス等に出演できるようにもなった。
活動規模が広がると共に卒業が迫ってきたことにより僕らはこれからもバンド活動を続けていきたいと言う思いと、もっと効率的に活動したいと思ったことから小さなアパートでルームシェアを始めた。
そこからは思い通り作曲などの効率も格段に上がり、僕ら個人個人としても毎日楽しい日々を過ごしていた。
そんな平穏な日常が僕は大好きでかけがえのない存在だった。
しかしある日災は訪れた。隣のマンションで大規模な火災が発生したのだ。
幸い僕らの住むアパートの部屋までは流れ火は来なかったのだが、マンション横の部屋などは少し焼けて焦げてしまったらしい。
もともと古かったのもあり、大家さんの意向から僕らの住むアパートは改装工事が行われる事となった。
改装には1年ほどかかるらしく、それまでほかの所にすぐ引っ越せるほどの財力は僕達には持ち合わせていなかった。
平穏な「日常」にはいつか終わりが来るのだ。それがすぐに来た。ただそれだけ。
そんなことはわかっているのだがかけがえのない日々がなくなったこと、今後の不安で僕たちはしばらくパニック状態になっていた。
毎日花が咲いていたリビングはその日を境に深い洞窟に突き落とされたように、暗く沈んでいた。
そんな地獄に変わり果てた日常に突然優が声をあげた。
「これ、よくない?やってみねぇ?」
そう言い優が見せつけてきたのは輝度がMAXのスマホの画面だった。
そこには
【広い館に住む1人住むお嬢様の執事募集!定員4名 衣食住付き☆】
というなんとも胡散臭い求人募集サイトだった。
「こ、これ、ほんとに大丈夫なの?」
「怪しいけどやらなきゃ変わんねぇだろ」
不安を嘆いている理人と自信満々で捲し立てる優を横目に僕と大和はサイトにかじりつく。
深い森の奥の館に住むお嬢様の身の回りの手伝いをすれば良いらしい。お嬢様というのもあり報酬はかなりの高額だ。住み込みで働く形になるが実質家のない僕らにとって寧ろ好条件だろう。
「ちょっと怪しいけど、、やってみるしかないかもな」
「女1人ならそう危ない事はできんやろ」
僕と大和が投げかける。流石に3:1の状況と流石の好条件に意を決したのか理人も小さく頷いていた。
そんなこんなで当日を迎え、深い森を抜けて今僕たちは館の前に佇んでいるのだ。
あたりはもう時期完全に日が落ちて真っ暗闇になりそうだ。そうなる前に辿り着けて良かった。しかし館を実際目の前にすると想像よりも大きく、物音1つしないそれに少々不気味さを感じる。
こんな時でもおちゃらけている大和と優は流石だなと思う。
だがしかし彼らも不安は大きいのだろう。恐らく僕らみんなの士気をあげる為に明るく話している様子だが先程から1歩も進もうとしない。
しかしそうぐずぐずとしている暇はない。もしこの館がハズレだった場合、何か罠もあるかもしれない。そうなれば少しでも明るいうちに今度はこの館から遠ざからなければならないのだ。
僕は深く息を吸い込み1歩前に踏み出す
コンコン
「誰かいらっしゃいますか?僕たち求人を見て来たものなのですが」
僕の声と共に準備していたかのように扉が開く。すると中から僕達と同世代、あるいは1つ下くらいに見える女の子が出てきた。
「お待ちしていました、ここまで遠かったでしょう?さ、中に入って。お夕食を食べながら詳しいお話はしますね。」
そう彼女がいうと皆も安心したのか顔が和らいでいく。今の所怪しいところは無さそうだ。
しかし想像よりも均一な顔立ちとスタイル、そして豊満な、、、、
いや、予想外の容姿に驚いた。
しかしこの時からもう物語は既に始まっていた。
もう二度と後戻りできない日常に僕らは足を踏み入れたのだ。