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長い長い廊下を抜けると広い食堂に出た。ここだけで僕らの暮らしていた家3つ分はありそうだ。しかし未だに僕ら以外に人の気配は見えない。彼女はここで1人で暮らしているのだろうか。この広い食堂で彼女はいつも1人で食事していたのだろうか。考えると胸が痛くなる。
「さ、召し上がってください」
そういい彼女が指すテーブルの上には漫画やアニメでしか見ることの無いような豪華な料理の数々が並んでいた。それにまだ温かそうだ。
僕らが来る時間なんて分からないはずなのにどうしてこんな準備が出来たのだろう。冷たい空気が背筋を撫でる。
まだ謎な部分は多いがこれからの話でなにかヒントが掴めるのだろうか。何も知らないのに憶測で考えるのは僕の悪い癖だ。
「すごく美味しそうですね、頂きます。」
そう丁寧に声をかけたのは凛だった。彼は僕と少し似ている。ただ臆病な僕とは違い肝が座っていていざという時いつも先陣を切ってくれる。
この館に入る前僕を含めた3人は躊躇して動けずにいたのに先陣を切って声を掛けたのも彼だ。
美味しそうに料理を頬張る大和と優を横目に僕も料理に手をつける。
味付けがしっかりとしていてとても美味しい。しかし執事として雇われたのであれば明日からは僕らが料理を作ることになるのだろう。口に合うものを作れるの良いのだが。そんなことを考えながら僕も夢中で料理を頬張る。
あっという間に食卓の料理が消えていった。一息ついたところでようやく口を開く。
「夢中で食べてしまってすみません、、美味しくて、、」
「お口にあったならよかったです♪」
彼女が優しく微笑むとなんだかこそばゆくて目を逸らしてしまう。
そんな僕を無視して皆が自己紹介を始める。
僕らの名前や趣味を軽く伝え、中学からの友人であること、現在はバンド活動をしていること、家が改装中になった事などこれまでの経緯をそれとなく話した。
「私のことはマグと呼んでください」
「マグ?珍しい名前」
「あだ名のようなものですよ、気にしないでください、ふふ」
彼女と優がそんなやり取りをする。どこかの国のハーフなのだろうか?それとも単純に名前の頭文字等から取っているのだろうか。
また勝手な憶測が僕の頭の中で飛び交う。
やはり彼女は事情がありここに一人暮らしのようだ。その事情とやらは上手く説明出来ないらしいが他人の僕らがわざわざ踏み込むような事ではないだろう。
そこから簡単に僕らの業務の説明をされた。が、広い館の掃除をしてくれればいい、という単純な内容だった。
「そんだけやのに求人を?」
大和が疑問を投げる。すると彼女は執事なんて出したけど本当は寂しいから誰かにいて欲しかったというのだ。しかし、何もしないでお金だけ貰う僕達の気持ちも汲み、館の掃除という仕事を出したらしい。広い館とはいえ、4人もいれば掃除なんて簡単に終わるだろう。 ここまでもてなしてもらってそれだけというのもなんだか申し訳ない。
ふと皆と目が合う。恐らく同じ気持ちなのだろうか。後で4人になった時何か出来ることはないか話してみよう。
「食事も済んだことですし今日は遅いのでゆっくり休んでください、お部屋とお風呂を案内しますね」
そう言われまた彼女に連れられ食堂を後にする。片付けくらいやると言い出た方が良かっただろうか。しかしあれこれ彼女に説明させるのも彼女にとって負担をかけてしまうかもしれない。今はお言葉に甘えて明日また聞いてみるのがよさそうだ。
そんなことを考えている間に廊下を抜け階段に出た。僕らの部屋は2階らしい。
階段を登った先にすぐ部屋と思われるドアの前に着いた。
「こちらのお部屋です。一人一部屋の方がよろしいかと思って準備したのですが皆様元々一緒に住んでらしたそうなので広めのお部屋にさせて頂きました。ご不満等ありましたでしょうか、?」
「いえ全然大丈夫です!十分すぎます!」
「ありがとうございます!」
持ち前の明るさで優と大和が返事をする。
僕と凛もにこりと笑って頷く。
「それならよかったです、お風呂はこの部屋から見て右奥の突き当たりです。私の部屋はこの部屋の向かい側なので何かあれば声をかけてください、ではおやすみなさい。」
彼女は丁寧にお辞儀をし僕らの部屋から離れていった。
と、同時に緊張していたのか、はたまたここまで歩いた疲れなのか、一気に気が緩む。
みんなも同じようだ。今日はサッと汗を流して寝るのが良いだろう。 今までは作曲等の事で夜更かしばかりしていた僕らだが、今日はすぐに寝てしまいそうだ。
そこから僕らは簡単にお風呂を済ませて部屋に戻り明日から出来ることを少し話し合うことにした。
そこでまずは明日の朝食を用意しようという話になった。
「あの人に合う食事なんて作れっかなー」
「料理上手やったもんなぁ、」
「まぁやるだけやるしかないよ、気持ちが大事!」
珍しく弱気な優と大和を励ます凛を見て、なんだかいつもと立場が変わったようで笑みをこぼす。
「理人もやるんやで?笑っとる場合ちゃうかんな?」
大和が僕に釘を刺す。不安は残るがここに来てからみんな元に戻ったように明るくなってなんだか日常が戻ったみたいで嬉しい。
ともかく明日は頑張らなくちゃ!そう思いながら僕らは布団に潜った。
コトコト コトコト