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夜だけの世界に戻って、数日。
最初は落ち込みのほうが大きかった。
せっかく戻り始めていたのに。
朝も、夕焼けも、雨も。
全部また消えてしまった。
でも。
不思議なことに。
時間が経つほど、二人の中には別の感覚が生まれていった。
「……なんか落ち着くな」
悠真がぽつりと言ったのは、コンビニ帰りだった。
蒼は袋を持ったまま振り返る。
「何が」
「夜」
街灯が静かに道路を照らしている。
空には星。
誰もいない交差点。
風の音。
全部、三年前と同じ景色。
悠真は空を見上げた。
「戻ってきた感ある」
蒼は少し笑う。
「ホーム感?」
「それ」
二人とも、その言葉に少し笑ってしまった。
世界が変わり続けていた時。
朝が来たり、夕方になったり、雨が降ったり。
嬉しかった。
でも同時に、どこか落ち着かなかった。
世界が動くたび、“終わり”が近づいている気もしていたから。
帰れるかもしれない。
その期待は、希望であり、不安でもあった。
でも夜は違う。
静かで。
変わらなくて。
三年間ずっと二人を包んでいた景色だった。
その夜。
二人は久しぶりに、最初の頃よく行っていた屋上へ行った。
冷たい風。
フェンス。
静かな街。
星空。
悠真はフェンスにもたれて息を吐く。
「懐かし」
蒼も隣に立つ。
「三年前もここいたな」
「いた」
最初に出会った頃。
雪の日。
不安で眠れなかった夜。
動画を投稿した日。
全部、この夜の中にあった。
「なあ」
悠真が小さく言う。
「俺さ」
「うん」
「たぶん、この世界好きになってたんだな」
蒼は黙って聞く。
悠真は空を見たまま続けた。
「もちろん普通の世界戻りたい気持ちもあるけど」
風が吹く。
フェンスが小さく鳴る。
「ここ、静かでさ」
「……うん」
「なんか、生きるの下手でも許される感じする」
その言葉に、蒼は少し目を細めた。
わかる気がした。
普通の世界には、人がいた。
学校。
将来。
周りの目。
進まなきゃいけない時間。
でもこの世界には、それがない。
二人だけで。
ただ今日を生きていればよかった。
蒼は夜景を見る。
誰もいない街。
でも、不思議と寂しさだけじゃない。
三年間の思い出が、この景色に染み込んでいる。
「……家みたいだな」
蒼が静かに言う。
悠真は少し笑った。
「わかる」
マンションの部屋。
無人のコンビニ。
夜の水族館。
雪の公園。
全部、自分たちの居場所になっていた。
スマホが震える。
コメント通知。
『また夜に戻ったけど、なんか安心した』
『この世界の夜好き』
『最初から見てるから帰ってきた感じする』
『二人の夜の空気感落ち着く』
悠真は画面を見ながら笑う。
「向こうの人も同じこと思ってる」
蒼も少し笑った。
「不思議だな」
そのまま二人は屋上へ座り込む。
缶コーヒーを開ける。
遠くの街灯が瞬いている。
「なあ蒼」
「ん?」
「もしさ」
「うん」
「帰れる日が来ても」
悠真は少し考える。
「この夜、忘れたくないな」
蒼は空を見る。
深い夜空。
静かな星。
三年間、ずっと見上げてきた景色。
「……忘れないだろ」
そう答えると、悠真は小さく笑った。
風が吹く。
夜は静かだった。
でもその静けさは、もう怖くなかった。
むしろ。
二人にとっては、少しだけ安心できる場所になっていた。
明日の夜空