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いつも通り昼に起き、インスタントラーメンを作り、お昼の番組を眺めながらお昼ご飯を食べる。
本屋に行くかゲームをするか、はたまた…と悩んだ結果
書き始めたシリーズもの「あべこべな相棒とのミステリー」のために
ネタ探し…というわけではないが、外に散歩に出掛けることにした。
普段は家で籠ってゲームをしているか、書き進められない小説を書くためにタブレットと睨めっこしているか
本屋さんに行って小説を漁って、おもしろそうなものがあったら買うかだが
今回は本当に何の目的もなく散歩することにした。星縁陣(せえじ)が住んでいる街、杉並区。
杉並区とは東京都23区の中の1区で、住みたい街ランキング、治安がいい街ランキング
イケてるぅ〜と思う街ランキング、住みやすい街ランキング
老後に住みたい街ランキングなどのランキングで上位に入るほど素晴らしい街なのである。
街の発展、そして自然の豊かさが調和している街。
さらに杉並区という街は個性ある街の集合した区。ある街は夢を追う若者が集う個性的な街
ある街は活気ある昔ながらの商店街がある街、ある街は穏やかな高級住宅街。
そしてアクセスも素晴らしい。井の蛙(いのかわず)線と京央(けいおう)線に
JL中王(ちゅうおう)線・鉱武(こうぶ)線、西武真新宿線など様々な路線があり
真新宿に行くのも、甘谷に行くのも大吉祥寺に行くのも、はたまた鷹尾山に行くも
はたまた千葉に行くも、はたまた東京駅に行くのも1本で行ける。
星縁陣が住んでいる街もちょうど井の蛙線と京央線の真ん中に位置している。
なので真新宿の話を書こうと思えば1本。大吉祥寺、甘谷の話を書こうと思っても1本。
千葉に取材に行こうと思っても2本程度で済むし、遠くの県に行こうと思っても
東京駅に行き、東京駅から1本で行けるので、3本程度乗り継ぎをすれば大概行ける。
そこに住み始めたのは星縁陣が大学に合格し、東京で一人暮らしが決定したとき。
東京の不動産屋さんと星縁陣の母と3人で話して、物件を巡り
母の心配もあり、実家からの仕送りと星縁陣がバイトするということで
少し家賃は高いがセキュリティーがしっかりしたマンションの一室に住むことにした。
そのマンションが現在住む街にあった。アクセスも人も治安もいい。
少し足を伸ばせば自然豊かな公園もある。大通り沿いの歩道には街路樹が生えており
その木々は、当たり前だが季節によって顔、そして着る服を変える。
春。新緑の香りを纏い、少し涼しい風が新学期の始まりを告げる。
夏、蝉という名の音漏れ甚だしいワイヤレスイヤホンをつけ始めたら、陽炎という現象が訪れる季節。
最近こそ春、秋などというものはなくなったように感じるが
秋。服は黄色く派手なものを羽織り始め
銀杏という少し癖の強い香水を振り撒き始めると、1年の終わりを見据え始める。
秋と冬の間。初冬ほどになると秋に黄色く色付いた服を地面に脱ぎ捨て
人々がその落ち葉を踏み締める音が響くと1年のすぐそこに年跨ぎのゴールテープが見える。
そして冬。気温とは裏腹に一糸も纏わぬ姿となると
空から白い小さな妖精が降ってきて、白い羽衣を纏わせる。
「もう1年も終わりかぁ〜。あっという間だった」
なんて会話がそこら中で聞こえる季節。そして新たに1年が始まり
お正月が過ぎればまたすぐそこに春が待ち構えている。
そんな四季が移り変わるのを街路樹で感じることができる。
まだ春。少し夏が近づいてきたような、湿気が強くなってきた空気に
青葉の匂いを乗せた風を浴びながら歩く星縁陣。杉並区のこの街に住んでもう14年目。
すっかり日常となり、見渡すこともなかった街を見回してみる。
住み始めた頃はアスファルトの色は灰色だった気がするなぁ〜
と黒いアスファルトを見ながら思ったり、肌にあたる風に
住み始めた頃は、もう少し暖かかった気がする。というか「春」はもっと「春」って感じがしたんだよなぁ〜
と思ったりした。いつも通る道の入ったことのない細い路地に入ってみて
行き止まりだったり、小さな公園を見つけたり。
その公園でバイクや自転車のように跨って、スプリング、バネで前後左右の揺れる遊具に乗ってみたり。
揺れていると幼少期のことを思い出す。といっても星縁陣は青森県出身。
ほとんどを青森県で育ってきたので、青森県生まれ青森県育ちといってもいい。
なので幼少期を思い出すといっても青森県での幼少期ということになる。
青森県。星縁陣が小学生ほどの頃。青森県の春は冬であった。
「なにを言ってんの?」
と思われる方もいると思うが、実際そうだった。東京、世間が春の訪れを感じ始めている頃
青森県や秋田、岩手、北海道といった東北3県と北海道は寒さが別格。まだまだ冬。
畑や道路のサイドには雪がまだまだ大きな顔をして居座っている。
しかし青森県民からしたら春の訪れを少しは感じている。真冬は災害並みの吹雪、豪雪が降っていたものの
それが徐々に減り、まだ雪は降るものの吹雪や豪雪ではなく優しいもの。
冬、子どもたちは外で遊ぶことなく、というか遊びたくても遊べなかったので
集まれるときは誰かの家に集まって遊ぶ。大概泊まり。それが春になると外で遊べるようになる。
しかし転んだり、まだ雪やアイスバーン、凍った道路や歩道で
事故や怪我に繋がりかねないので、家の庭、両親や祖父母、保護者の目の届く範囲で遊ぶ。
そこでやんちゃな子どもが思いつく遊びというのが、電柱に登ったり、木に登ったり、屋根に登ったり
とにかくある程度高いところに登って、雪かきで積み上げられた雪に飛び込む遊び。
もちろん雪の硬さを確認してから。しかしいくら雪の硬さを確認して大丈夫だからといって
電柱や木、屋根に登って落ちたら危ない。命の危険だってある。
父などもその遊びをやったようで「やるなよ」と注意されたし
おそらく雪国の子は一度はその遊びをやるのだろう。
学校で注意喚起されたらしく、母からも「ダメよ」と注意された。それでもやった。
電柱や木、屋根から雪に飛び込むと落ちるときに感じる冷たい風が消え
その代わり冷たく溶ける布団のように徐々に落下速度を緩めるように
雪が優しく受け止めてくれる。そしてそこから這い上がる。
友達数人がやると雪の山にまるで海外のアニメ、カートゥーンの
勢いを殺しきれなかった猫のキャラクターがドアにぶち当たり
そのまま抜けていって猫の形で型抜きされたような描写のような穴がそこら中に開くことになる。
するといくら落ちる瞬間親が見ていなかったとしてもその穴が見つかれば必然的にバレる。
その場は友達がいたから軽く「危ないからダメって言われたでしょ!」とかで済むが
友達が帰った後、なぜか個別でお説教が始まる。やれ危ないでしょ、やれ学校で言われたでしょ
やれこの間も○○くんん家(ち)でもやって、○○ママにも怒られたでしょやら。
正直このお説教を何度もされて、何度も同じことを繰り返した。
ただ今なら母、父の「やっちゃダメ」というのがわかる。今考えると恐ろしいことをしていた。
いくら上の方は柔らかい雪でも、少し下の雪は固まっているかもしれない。
固まった雪はコンクリート、氷と同然である。
実際お説教のときに「ママの子どもの頃にも大怪我した子がいた」とか
最悪のケースというのも聞かされていた。子どもの頃は「自分には関係ない」とかなんとも思っていなかった。
もしかしたら母が言っていた「ママの子どもの頃にも大怪我した子がいた」というのは
嘘だったのかもしれない。しかしおそらく母の世代じゃなかったとしても
大怪我を負った子、もしかしたら最悪のケースとなった子もいたかもしれない。
それを考えるとゾッっとする。そんなことを東京の電柱を見ながら思い出す。
スプリングの遊具から降り、杉並区の街を練り歩く。13年住んだが、知らないことだらけ。
こんなところにパン屋さんがあったんだ。こんなところに居酒屋さん
…なんて読むんだ?天(てん)神(かみ)鳥(とり)?の羽?
変わった名前の居酒屋さんがあったり。当たり前のことだが、駅から遠ざかれば遠ざかるほど
飲食店などのお店は少なくなっていき、どんどん住宅街になる。
しかしまた飲食店などのお店がちらほらと出てきて隣駅が近づいているのがわかる。
あ。もう隣駅か
と思う星縁陣。星縁陣が住んでいる街は区と区の境付近。
なので一駅分ほど足を伸ばせば杉並区を出ることになる。別に区を跨ぐのに国境のような検査などはない。
しかし星縁陣は杉並区を舞台に小説を書こうと思っていた。
自分の命があと1年、いや、もう1年を切っているからこそ
お世話になって大好きになった杉並区に主人公が住み、杉並区を主な舞台とし
素行調査、もとい浮気調査をしにいった先での事件などを入れながら書き
生まれた地、青森県も舞台に入れながら書き進め、そして杉並区で物語を書き終えようと考えていた。
かといって、いくら杉並区民が杉並区が好きだからといって
杉並区を跨ぎ隣の区に行くことを忌み嫌うかといったら、もちろんそんなことはない。
隣の駅に飲みにも行くし、散歩で隣駅に行っても引き返したりはしない。
なので星縁陣も隣駅周辺も散歩して回ってみることにした。
星縁陣が大学生のとき。もちろん大学2年生で成人した後の話だが
星縁陣は大学生のとき、飲み会などがあり、星縁陣もちょこちょこ参加していた。
家賃、光熱費、生活費を抱えているため、たまにしか飲みなんて行けなかったが
先輩の奢りだったり、参加費が安い場合には
日頃バイトと大学を頑張っている自分へのご褒美として参加していた。
しかし就職せずに「小説家になる」という夢を追う選択をし
すぐに当時の家(セキュリティーのしっかりしたマンション)から現在の家に引越しをし
バイトのお金をなんとかやりくりしなければ生活できなくなってからは
飲みになど行っていない。そもそももう飲みに行く知り合いがいない。
いや、そもそもよく考えたら、大学を卒業してからというもの
自宅、バイト先のコンビニ、たまに行く本屋さん
正月付近の青森への帰省以外どこにも行っていない気がする。
これも余命宣告されたからってか?
心の中で笑う。あまりにも皮肉である。
もう1年を切っている命のお陰で、自分の住んでいる街付近の知らない道などに入ってみて
自分の住んでいる街付近の新しい一面を知ることができた。
それが今書いている小説の役に立つかはわからない。しかし自分のこの心境は使えるかもしれないと思い
その気持ちを忘れないために、近くの公園に寄って、ベンチに座ってスマホのメモアプリにメモする。
スマホから顔を上げる。すぐ隣の駅付近。来たことあるはずだけど、行こうとしなかった道。
その道に入って来たこともなかった公園のベンチに座った。
その公園の木々と遊具と知らない街並み。鼻から息を吸い込む。
視覚に映るのは知らないものだったが、鼻から吸い込んだ匂いは馴染みのある匂いだった。
夏が近づいてきた湿気が強くなってきた空気に、新緑の香り
公園の土、そして人が住まう家や生活する匂い、それらが混ざった匂い。
「どこの街も同じ匂いなのかな…」
と呟く。
「実家も…」
同じ匂いかな?とも思ったが、青森県はよく考えたら雪が残っているし空気も全然冷たい。
なので
「違うか」
と思った。しかしそれを確かめようにも確かめようもない。
「来年には…」
と思うと胸がキュッっとなった。その後も星縁陣が知らない杉並区の街を歩いて見て回った。
区と区の境を回るように、杉並区の外周を歩いていた星縁陣。
まだ空はオレンジ色ではないものの、昼の匂いに夜の匂いが微かに混ざり始めた。
陽の香り、住宅街の香り、そして夜が近づくと各家庭
早い家ではもう夕方が近づくとお風呂の用意をしているご家庭もある。
すると外部に水蒸気やお風呂の匂いが漏れ出る。その匂いがしてくると夕方、そして夜を感じ始める。
「ヤバ。大丈夫…かぁ〜?」
スマホを出して地図アプリで現在地から自宅までの所要時間を確認する。
「迷わなきゃ…だよな」
地図アプリは「もし迷ったら時間」を計算はしてはくれない。
「順序通り、そして赤信号に捕まることなくスムーズに進めば時間」を出してくれる。
「よし。最悪走ろ」
と思い、歩きスマホはダメなので交差点などに差し掛かるまでスマホは見ずに歩く。
たまに交差点手前の細い道に入るルートでルートが変わってしまって焦ったりしたが
無事自宅に帰ることができた。別に持っていく荷物はないのだが
一応忙しい雰囲気を出すための荷物を持ちアルバイト先のコンビニへと向かう。
18時前、夕方6時前。先程よりも夜の匂いが濃くなる時間。
陽の匂いは薄くなり、お風呂の用意をするご家庭が増え、お風呂の匂いが濃くなる。
そして居酒屋さんが準備し始める時間帯でもある。微かな炭の香り、焦がしてはいないだろうが焦げの香り
アスファルトやコンクリートも日中陽にあたっていたが
陽が落ちると今度は夜風にあたり、街も昼とは香水を変え大人びる。
しかしそんな香りもコンビニに入れば関係ない。白い床と白い棚、白い壁の無機質な匂いに
ポテイト・チップスやその他お菓子、冷蔵食品やスイーツなどのプラスチックの匂い
そこにホットスナックの油やスパイスの香り。The コンビニの匂い。
春夏秋冬、朝夕晩、変わらぬ匂い。たまに季節もののホットスナックや冬になればおでん。
そんな微々たる違いはあるものの基本的には変わらぬ匂い。
そこで働く。毎日。変わらぬ日々。変わらぬ匂い。しかし今日はほんの少しだけ変えてみた。
知らない道へ行ったり、知らない公園で休んだり。そんなことでコンビニの匂いは変わらない。
なんなら知らない道でも知らない公園でも知ってる匂いがした。
ただ知らない場所にも知ってる匂いがあるんだという発見で心のなにかが少しだけ変わった。そんな気がした。
「お。なんか良いことでもあったんすかぁ〜?」
と同じシフトのギャルの子に言われる。星縁陣は
顔に出てた?
と思わず顔を触る。
「え、あ、なんで、ですか?」
星縁陣は基本的に歳下にでも敬語。むしろギャルという人種ならなおさら。
「えぇ〜?…なんとなく?彼女でもできたんすか?」
考えてもみなかった。
小説を書き続け、いつか陽の目を見て、駆け出しだが売り出し中の小説家になって
バイトをせず印税で生活できて、次の案に悩んで、担当さんと話し合って…。
彼女を作る、作りたいなどと考えてもいなかった。
「あ、いや。残念ながら」
「なぁ〜んだぁ〜」
母さんに孫の顔…
と思ったが
ま、姉ちゃんが孫の顔は見せてるしいいか。…それに…
自分は1年後に…。なので今から彼女を作って、結婚して、お腹に子どもを授かっても
自分はその子の顔を見ることも叶わず、自分と結婚してくれたその子にもなにもしてあげられることがない。
育児も手伝えない、稼いであげることもできない。むしろ負担をかける。悲しませることになる。
1年後に…。なら大事だと思う人は1人でも少ないほうがいい。
悲しませる人は少ないほうがいい。と考えていた。
「おっとー。あ、品出ししてきまーす」
と言ってギャルはレジカウンターから出ていった。
「了解っ…す」
いろいろ考えていたら返事が少し遅れた。自分がいなくなる前に実家にも顔を出しておきたい。
じいちゃんばあちゃん、母さんや父さん、姉ちゃん、弟にも会っておきたい。
でも年に一度しか会っていない息子が正月以外に帰ってきたら、何事だ!?と思い、心配させるかもしれないし
いろんなことを話し、親子仲が深まったところで自分がいなくなったらみんなをより悲しませることになる。
ならいっそのこと会わないほうが…。とさらにいろいろ考えていた。
「悩み事ですか?」
という天の声が聞こえた。と思ったらうちのコンビニによく来る人だった。
タトゥーが首まで入っているが優しいイケメン。
バンドのボーカルをやっているようで声がめちゃくちゃ綺麗。
今品出ししているギャルと仲が良い。そんな綺麗な声だから天の声と間違えた。
「あぁ…まあ…そうですね」
目の前には「Warning Energy(ワーニング エナジー)というエナジードリンクと
「Reed Blue(リード ブルー)」というエナジードリンク、そしてポテイトチップスのうすしお味とコンソメ味
小さいシュークリームの詰め合わせがレジカウンターに置かれていた。
「あ、すいません」
とバーコードを読み込んでいく。
「ま、あんま踏み込んじゃいけないかもですけど
他人になら話していいかなってなら自分でよければ全然聞きますよ」
と微笑みながら綺麗な声で言うタトゥーのお兄さん。
他人にだから言えること。
今の自分の悩みに当てはまりすぎて惚れかける。顔もカッコいいし可愛いし。
「…実家に帰って親とかに会ったほうがいいのか
それとも会わずに…いたほうがいいのかっていう…いや、すいません。やっぱなんでもないです」
悩みを口に出したが、やはり他人(ひと)に言ってどうにかなることではないし
自分の悩みというのがまとまっていないことに気づいて引っ込めようとした。
「会えるときに」
お兄さんの声がして顔を上げる。
「会えるときに会っといたほうがいいと自分は思います」
お兄さんは微笑んでいたが、その微笑みはどこか寂しそうにも見えた。
「自分はもう実家とは絶縁状態なんで。ま、会えないわけじゃないんですけど、良好な関係とは言えないんで。
仲良いというか悪くないなら、会えるときに会って
話せるときに話したいこと話しといたほうが、自分は、いいと思います。
ま、会わなくても伝えたいことは伝え、聞きたいことは聞く、とか。
月並みな言葉ですけど、後悔先に立たずって言葉もありますし」
たしかに月並みな言葉だが、星縁陣には刺さった。
というか家族と絶縁状態のタトゥーのお兄さんの言葉だから刺さったのかもしれない。
「そう、ですよね。自分がいなくなる前に会っといたほうが」
「?ま、これも月並みな言葉ですけどやらずに後悔よりもやって後悔みたいな言葉もありますし。
ま、その言葉のせいでこんななっちゃったってのもありますけどね」
とタトゥーのお兄さんは自分の腕をまじまじと見る。
「やらずに後悔よりもやって後悔って言っといてなんですけど
将来子どもとかできたら一緒にプールとか温泉行けなくて「やったこと」を後悔するかもしれませんけどね」
と冗談混じりに笑うタトゥーのお兄さん。なんて言っていいか変わらず「あ、へ」と頷く星縁陣。
お会計をお願いして、タトゥーのお兄さんがスマホで支払いを終える。
星縁陣がレジ袋に商品を詰める。タトゥーのお兄さんに持ち手を差し出す。
「ありがとうございます。ただ」
タトゥーのお兄さんが持ち手を握り
「市野さん、いなくはならないでくださいね」
と言った。
「え?」
「紗夜(さや)ちゃん…あ、猿移木(さるすき)さん。あのギャル子ちゃん」
とタトゥーのお兄さんが品出ししているギャルの子を見る。
「と市野さんがいるこのコンビニに来ると、なんか落ち着くっていうか。
ま、自分本位で申し訳ないんですけど、市野さんがいるコンビニが自分の日常になってるんで」
と微笑む。
ほ、ほ、…惚れてまうやろぉ〜
と思った星縁陣。
「紗夜ちゃんまたねぇ〜」
「あ!漆慕さん!おかえりですか」
「うん」
「これからバンド練ですか?」
「ん?いや違うけどなんで?」
「それ」
ギャルの子がタトゥーのお兄さんのレジ袋を指指す。
「あぁ。バンドメンバーと朝まで歌の方向性決めるからさ」
「おぉ〜。バンドっぽい」
「今度ライブあるときおいで?」
「行きます!」
「市野さんもよかったら」
「あ、え。あ、はい」
「んじゃね」
「はーい!またー」
ギャルの子が手を振り、タトゥーのお兄さんが振り返す。
そして星縁陣を見て軽く会釈をしてコンビニを出ていった。
残り香がいい匂い過ぎた。まるで女性。イケメンは残り香までイケメンだった。
ギャルと共に0時、24時まで働いてコンビニを後にした。
コンビニで賞味期限切れ寸前のお弁当を割引価格で買うという選択と
近くのホン・キオーテに寄って激安のお弁当があればそれを買うという選択がある。
その日はホン・キオーテに寄ることにした。しかしホン・キオーテの激安のお弁当は一部の人に刺さるような
偏ったお弁当などを販売しているし、なにより安い。なので言わずもがな人気。
その日も残念ながらお弁当は売り切れ。星縁陣はカップ麺を買って帰ることにした。
そしていつものように朝まで自分の小説「あべこべな相棒とミステリー」の続き、第3話を書くのだった。