テラーノベル
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#ざまあ
そらとんでるきのこ
お茶会という名のノアの両親との顔合わせも無事終わり、平穏な日々が戻ってきたかと思えば、レーナの元にメイが遊びに来るようになったのだ。
「メイ、どうしちゃったの?」
「言ったでしょう、私、レーナが羨ましかったの。意地悪なこと言った事実は変わらないし、昔のことを許してもらおうとは思っていないわ。でも、仲良くなりたかったのは本当よ。だからね、これからはどうぞよろしくお願いします」
などと言って、レーナと新しい関係性を築こうとしているようだった。
レーナは内心複雑ではあったが、こうしてわざわざレーナに会いに来るメイを放って置けなかったのだ。
そんなおひとよしのレーナに呆れるのは、ノアとレインだった。
「ねえレーナ、無理しなくてもいいのよ」
「そうだよ。あんた、メイからよく揶揄われていただろう? 大丈夫なのかい?」
心配してくれるひとがいることがどれだけ幸福なことか分かっているレーナは、ふたりを安心させるようににっこりと微笑み「大丈夫だよ」と言った。
「メイからはきちんと謝ってもらったし、誤解は解けたから同じ魔女同士仲良くなれると思うの」
レーナののん気な言葉にノアとレインは再び呆れたが、そんなところがまた彼女らしいと苦笑した。
「……レーナは本当におひとよしなんだから」
「本当にねえ。そういうところはレイズに似たのかもしれないね」
「お母さんに? 嬉しい!」
あまり聞かない母の話にレーナは飛びついた。一緒に写った写真や思い出こそないが、祖母レインがこうしてたまに話を聞かせてくれるのが嬉しくて、母の話をせがんだこともあったなと思い出す。
「そうさ、誰よりも世話焼きで、心を閉ざしていたキースと仲良くなったんだ。懐かしいねえ」
「レイズも今のレーナを見たら喜ぶでしょうね」
「そうだろうね、あれだけレーナに会うことを楽しみにしていたんだから」
身体が弱くて妊娠出産が難しいとされていたレイズだが、キースと起こした奇跡によってレーナを授かることができたのだ。
「お父さんとお母さんに恥ずかしく思われない娘でありたいな」
「レーナは日々努力しているでしょう、何も恥ずかしく思うことなんてないわ」
「ノアの言う通りさ、おまえは私の自慢の孫だよ」
「そんなに言われたら照れちゃうよ」
「レーナは自己肯定感が低すぎるのよ、アタシとレインくらい自信を持ちなさい」
「そうだよ、おまえはまだ未熟だけど、魔女として立派にやってるよ。私が認めるんだ、自分に自信を持ちなさい」
レーナの自己肯定感が低いのは、メイや一部の村の娘から言われた『ポンコツ魔女レーナちゃん』からきている。そんな異名をつけたメイを完全に許したわけではないが、誠心誠意謝ってくれたことが分かるレーナは、前を向くことにしたのだ。
「ノア、おばあちゃん……。ありがとう、私、頑張るね」
ローラから話があると言われたので、休みの日にローラの家に向かった。
オリオンと親御さんに挨拶してローラの部屋に行くと、そこにはご機嫌斜めなリリスとそれを宥めるローラとどこ吹く風のメイの三人がいた。
「よかった、レーナのこと待ってたのよ!」
仲間を見つけたといわんばかりの表情でレーナの肩をがっしりと掴んだ。
そして、小さい声で耳打ちした。
「メイってば最近私達に絡んでくるじゃない? それが気にいらないリリスは不機嫌なの。メイは言葉足らずだから弁解もしなくて、さっきからこうなの」
ローラから聞かされた内容になるほどと納得したレーナは、険悪な雰囲気の二人に声をかけた。
「リリス、メイは昔のことを謝ってくれたよ。最近はよく遊びにくるし、私もそこまで嫌じゃないから受け入れているわけだしね。でも、ありがとうね。リリスの気持ちは嬉しい。それと、メイはもう少し言葉にした方がいいよ。私の時はちゃんと言葉にしてくれたじゃない。それをみんなにもしようよ」
むすっとした顔で聞いていたリリスだが、「レーナがそこまで言うのなら……」とメイに向き合う覚悟を決めたようだ。
メイも自身が言葉足らずなことは理解しているのか、こちらも「分かったわよ」と言った。
「はい、仲直りの握手して! これからはメイも一緒ね」
レーナの言葉を受けて、リリスとメイは素直に握手した。
「もう、私の話もちゃんと聞いてよね」
レーナが来るまでふたりの仲をどうにかしようと健闘していたローラは、苦笑しながらそう言った。
「……ごめんなさい。その、レーナのことを考えると複雑になっちゃって……」
「私もレーナのことは深く反省しているわ、本当は仲良しのあなた達が羨ましかったの」
「だったら最初から仲間に入れてとか言えばよかったのに」
むくれながらリリスはメイに言った。
「……そうね、私は意地っ張りだし素直になれないから、色んな人を傷つけたことは理解しているわ。本当にごめんなさい」
メイは三人に向かって頭を下げた。あのプライドの高いメイが、である。
三人とも驚き、メイが本気で謝罪しているのだと分かり、新たな仲間として迎え入れることにしたのだ。
「それで、ローラの話ってなに?」
「そうよ、ローラの話を聞くために集まったんだわ」
すると、ローラは「あのね」と照れながら話し始めた。
「私とオリオン結婚することになったの」
「ついに結婚!? おめでとう、ローラ!」
「ありがとう」
「だから今日のオリオンはいつも以上によそよそしかったのね」
「結婚式はいつ挙げるの?」
「一か月後よ」
「それはまた急だね」
村の娘達は小さい頃から刺繍や裁縫を母親から習い、自分の花嫁衣裳を仕上げて式を挙げるのが娘達の夢でもあった。
レーナは母親がいなかったので、祖母のレインから教わったのだ。
結婚なんて遠い未来のことだと考えていたレーナは、自身が花嫁衣裳に何も手を付けていないことを思い出した。
「ローラは花嫁衣裳できたの?」
「とっくに完成しているわ。私、オリオンのことが本当に好きなの。赤ちゃんだって産みたいし、お店も継ぎたい。それが早くなっただけよ」
赤ちゃんという言葉にレーナとリリス、メイはひょっとしてと顔を見合わせる。
「ローラ、妊娠しているの?」
「違うわ、ものの例えよ。でも、いずれはそうなる予定だから、今から楽しみね」
盛り上がっている三人をよそに、レーナは固まったままだった。
「さっきから静かだけれど、どうしたの、レーナ?」
そう言葉を投げかけたのは、周りをよく見ているローラだった。
「……私、花嫁衣裳にまだ手をつけてない」
「ええ!?」
ローラとリリス、メイは驚きの声を上げた。
「レーナ、お裁縫が全くだめなわけじゃなかったわよね?」
「結婚なんてまだ先だと思ってたし、そもそも魔女として未熟だから修行の方がメインだったというか……」
「ノアさんがいるのに忘れてたの?」
「……うん」
「レーナ、『お手つき』にされたことを忘れていたの?」
若干嫌味を飛ばすのはメイだったが、まったくもってその通りだったので何も言い返せない。
そもそも自由な時間は夜しかなく、だいたいノアとイチャイチャしているため、そんな時間がなたったとも言える。
「レーナ達はまだ結婚しないのでしょう? 今の間に仕上げればいいのよ!」
そうフォローしてくれたのはローラで、リリスとメイも「そうよ、今ならまだ間に合うわ」といって落ち込むレーナをなぐさめた。
「ローラは制作時間どれくらいかかったの?」
「そうね、半年くらいかしら」
「それならまだ間に合うかな?」
「諦めるのはレーナらしくないわよ、ここぞという時に力を発揮するのがレーナでしょう?」
メイが発破をかけてくれたことが意外に思うレーナだが、友達になったのだからこうして励ましの声をかけてくれたのだと思うとなんだか面映ゆい。
「そうよ、レーナは魔道具作るのが得意なんでしょう? それって手先が器用じゃないと難しいんじゃないの? レーナは器用なんだから今からでも遅くないわよ!」
頑張って! と三人に言われればやる気になるのがちょろいレーナのいいところでもある。
「私、今日から頑張って花嫁衣裳作るよ」
「その意気よ」
「そうそう、あなた達には直接招待状渡したかったから、今日うちに来てもらったのよ。みんな来てくれる?」
「もちろん参加するに決まってるじゃない!」
「ありがとう、嬉しいわ」
「こちらこそ招待ありがとう」
それからローラの家でお昼をごちそうになり、おなかいっぱいで帰宅したレーナは今日の出来事をノアとレインに報告した。
「そうだ、ノアとおばあちゃんの分の招待状ももらってきたから、一緒に参加しようね」
「それにしても、レーナが花嫁衣裳にまだ手を付けていないとは思わなかったよ」
レーナとて結婚に夢を持つ娘のひとりだ。
しかし、レーナはレインのような立派な魔女になることが目標だったので、疎かになってしまったわけねある。
「だって、私は魔女になりたくて頑張ってきたわけだし……。ノアと村で結婚式を挙げる時はその衣裳を身に纏うから楽しみにしててね、ノア」
「そんないじらしいこと言われたら、アタシも待つことしかできないじゃない」
村で挙げる挙式はレーナお手製の花嫁衣裳であることは決定しているわけだから、ノアがあれこれと口を出すわけにはいかない。
「ノア、あんたが魔界で式を挙げる時は盛大なものになるんだろう? レーナをめかし込みたいのなら、魔界でやっておくれよ」
「そうね、魔界での挙式は華やかかつ厳かに執り行われえるから、派手過ぎず質素すぎないオーダーメイドのドレスを作らせましょう。レーナ、こういうのが着たいとか希望があったら遠慮なく言うのよ」
「うん」
「そういう話はふたりの時にしておくれ」
それぞれ入浴を済ませ、例の如く仲睦まじく談笑する。
「ねえレーナ、さっきの話の続きだけれど、レーナはどんなドレスが着たいの?」
ノアにどんなドレスを着たいかと問われたレーナは、うーんと考えて魔界で見た美しい赤い花の存在を思い出した。
「私ね、魔界で見たノアと全く同じ色の花が好きなんだ」
「……レーナってば、本当にアタシのことが好きなのね」
「うん、大好きだよ」
「ありがとう。あの花はね、アタシと同じ名前で『ノア』という花なの。アタシの名前の由来はノアの花からきてるのよ」
あの美しい花は『ノア』というらしい。美しく凛としているノアにぴったりの名前だとレーナは思った。それに、ワインレッドの赤い瞳とノアの花は全く同じ色をしていたのだ。
「そうなんだ、ロマンチックだね」
「花言葉は『永遠の恋』。 ──本当にアタシ達にぴったりだと思わない?」
「思う! すごく素敵!」
花言葉が永遠の恋だなんて、なんてロマンチックなのだろう。この先もレーナとノアは、互いを愛しながら恋をするのだ。
「でしょう? ノアの花が好きと言ってくれて嬉しいわ、レーナ」
「うん。あの花と同じ色のドレスが着たいけれど、赤すぎるし無理だよね」
「ドレスにノアの花の刺繍を入れればいいのよ。白い糸と宝石を散りばめたドレスはきっとレーナに似合うと思うわ」
「そうかな?」
「ええ、似合うわよ。今度魔界の服飾店で採寸と図案の話をしましょうね」
「分かった。なんだかドキドキするね」
「そう? アタシは楽しみだわ。今の恋人状態もいいけれど、夫婦になったらレーナのことを妻と言えるのよ? こんなに嬉しいことはそうそうないわ」
「それなら、ノアは私の旦那さんって言えるね」
レーナが旦那さんと言うと、ノアは顔を手で覆いながら「最高だわ」と呟いた。
こうする時のノアは嬉しい時か恥ずかしい時のどちらかなので、レーナは前者なのかなと勝手に予測した。どうやらそれは間違いではなかったらしい。
「レーナの口からそう言われるとクるものがあるわね」
「何が来るの?」
「こう、ぐっとクるものがあるのよ」
「……よく分からないけれど、ノアが楽しそうだからいっか」
二日後、レインから休みをもらったレーナは村で一大きな生地屋服飾店に行き、花嫁衣裳の基となる生地を選ぶ。
つるりとした絹の手触りが心地いい。レーナは絹とレースを購入し、その後にドレス専門店の店に寄り、ローラとオリオンの結婚式に着るドレスを選ぶ。
レーナの髪は明るい金髪で青い瞳が美しくレーナ自身も大変気に入っている。
主役であるローラの邪魔をしないように、それでいて地味になり過ぎないドレスを吟味する。
すると、淡い青色の肩の部分がレース生地になっているドレスが目に入った。刺繍がドレスと同じ色で縫われており、花々がそこかしこに散ってとても素敵だった。
絹でだいぶお金を使ってしまったが、倹約家のレインと同じくレーナも無駄遣いしないので、お金は十分残っていた。
レンタルでもいいのだろうが、せっかく見つけたこの刺繍が美しいドレスを着たいと思ったレーナは迷わず購入した。
いい買い物ができてよかったと、ルンルン気分で帰路につく。
花嫁衣裳のデザインの本は母が持っていたようで、そちらを拝借して図案を決める。
レーナは胸が大きいのでどのタイプにするか悩んだが、ビスチェタイプなら上品に着こなせると書いてあったので、上半身はビスチェにしてそこからレースがふわりと広がるAラインドレスに決めた。
その日からレーナの花嫁衣裳制作は始まったのである。
ノアと過ごす時間と花嫁衣裳を作る時間を設けること約一か月。レーナとノア、レインはローラとオリオンの結婚式に参列した。
神父であるセイは教会に悪魔がいることを嫌がっているようだが、さすがにひとの目があるところでは何も言ってこなかった。
周りからすれば、恋敵をに睨む若人に見えたことだろう。セイの片思いはレーナ本人だけが気づかないという哀れなものだったことは有名だからだ。
厳かな雰囲気で結婚式は始まった。
神父セイに誓いの言葉を言われそれぞれ神に誓う。
そして、誓いのキスをした。
ブーケトスの時間になり、意気込んでいるリリスが無事ブーケをゲットしたのだった。
レーナは花嫁衣裳を着てオリオンと腕を組みみんなに挨拶する姿を見て、羨ましく思ったのだ。
どうやらそれはノアも同じだったようで、柔らかく微笑むノアのレーナの心臓は高鳴る。
レーナは近い未来、このひと(悪魔)と結婚するのだと──。
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