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──部屋の中へ入ると、
「そこへ、座ってください」
私にソファーを勧め、彼自らも横へ腰を下ろした。
そうして顔の前で指を組み合わせ、こちらをじっと見つめたまま、いつまでも押し黙っている様子に、
「……話って、何ですか?」
思い余って切り出すと、
「……。……こないだは、あなたに泣きつくような真似をして……」
彼はそう口にして、ふっと目を伏せた。
「いいえ…もう、お気になさらずに……」
ふいに、あの時の儚げな姿が浮かんで、目の前の人と重なった。
「……泣き顔を誰かに見せるつもりはなかったはずが、あなたに見られてしまうなど……」
そう呟いて、うつむく様に、
「私は、別に誰にも話したりはしないので…」
労わるような思いが湧き上がる。
「……あの後、母には咎め立てられました……。葬儀の場を離れるなどと……」
彼は、心情を吐き出すためらいを紛らわすかのように、組んだ指をしきりに組み替えながら話した。
「……母は訪れた医療関係者に顔合わせが出来なかったことを、くどくどと責めるだけで……、私が、なぜあの場所にいたのか、どうして葬儀を離れずにいられなかったのかなどは……、何も聞こうとはしなかった……」
そう言うと彼は、組んだ手を額に強く押し当てて、ハァーと深いため息をこぼした──。