「……私が、どれだけ……父を亡くしたことが、どれほどこたえたのか……」
額に手を当てたまま、彼は固く目を閉じて、
「母は、聞いてさえくれず……まして、気にかけてくれることすらもなく……」
そう、細くかすれた声で話すと、
「……父を失った悲しみの、私にはやり場もなくて……」
溢れ出す本音を隠そうともせず、
「また業務に戻れば、忘れていけると思っていたのに……。喪失感は、より強まるばかりで……」
独りポツポツと語ると、ふーっとため息をこぼした。
さっきデスクに頬づえをついて、どこかぼんやりと遠くを見つめていた彼の姿が思い浮かぶ。
「……どうして、父は、あんなに急に、私の元からいなくなってしまったのか……どうして……」
──お父様の死因は脳溢血で、家で倒れていたことに気づかれた際には、もう助からない状態だったと聞いていた。
「……せめていっしょに悲しんでほしかったのに……。母はただ政宗の家の名に恥じぬよう、葬儀を盛大に執り行うようにと……」
だから人気のない場所を選んで、この人はあんな風に泣いていたんだ──と、あの時の状況を悟った。
コメント
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父を思う気持ちが痛いほど伝わって来る。 慰めの言葉がみつからないけれど、話を聞いてもらえる人がいるのが良かったと思う。 そっと側に寄り添ってあげて。