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第15話:指先に魔法は残る
春、空気がほんの少しやわらかくなる季節。
丘の上にある旧校舎跡地に、人が静かに集まりはじめていた。
ここは、都市再開発で取り壊しが決まっていた、かつての「市立第五学園」の跡地。
現在は使われていないが、**「記念展示会:リングとわたしたち」**のために一日だけ開放されている。
主催は市の魔法記録課。
展示テーマは、“魔法リングが残した記憶”。
そしてその場に、かつての登場人物たちが、それぞれの理由で足を運んでいた。
●ジュン(18)
銀髪のショート、パーカーに工具入りポーチを下げた姿。
左手の中指には、自作の赤とグレーの複合魔法リング。
彼はナナとともに「リング再利用ブース」に作品を出展している。
「この火のリング、子ども向けに再調整してみた。炎が“音”で出るんだ」
●ユウ(13)
控えめなシャツ姿。髪は整えられ、目には少し自信が宿っている。
指には、無属性カスタムリング。
今日のために描いたイラストは、展示室の奥でやさしく照らされていた。
●メイ(17)
ロングスカートにラベンダー色のカーディガン。指には、リングがなかった。
だがノートを手に、言葉を綴っていた。
「リングを持たないことで、見えてくるものがある。
それを、私はまだ書いている。」
近くにいたハルキが、彼女に微笑みかける。
彼の指には、音属性の共鳴リングが光っていた。
●ナツキ(41)
スーツの上に羽織ったジャケットの袖から、業務用リングが覗く。
だが今日はそのリングを記録モードではなく、展示案内モードに切り替えていた。
「今日は、嘘じゃなくていい。心で案内する」
●ヨシエ(82)
杖をつきながら、ゆっくりと歩く。指には、あの日の紅玉のリング。
展示の端に並ぶ“ペアリンク”のガラスケースの前で、彼女は小さくつぶやいた。
「……あなたの魔法、まだちゃんと灯ってるわよ」
会場の中央では、小さな子どもたちがリング刻印体験をしていた。
その刻印機の横に立っていたのは――
●サクジ(72)
かつての職人。
作業着に、使い込まれた手袋。そして指には、何もつけていなかった。
彼は静かに子どもたちに言う。
「模様は、いまの君の“気持ち”でいい。かっこよくなくていい。
魔法ってのは、“心の形”だからな」
展示会の最後、ステージでは**“空のリング式典”**が行われた。
これは、新たにリングを持つ人が、まだ刻印されていない空白のリングを選ぶ儀式。
呼ばれたのは、小学生のカズマ。
緊張した顔で壇上に上がる。
彼は風の模様を描いた小さなリングを選び、こう言った。
「ぼくの風は、知らない道でも、進める力になります!」
会場から自然と拍手が起こる。
拍手のなか、誰の指にも光があったり、なかったりする。
でも、そこに境界はなかった。
魔法リングは、持っていても、持っていなくてもいい。
大事なのは、**「誰かと向き合いたい」「自分を知りたい」**という気持ち。
指先にあるのは、その想いの形なのだ。
そしてその魔法は、消えてもなお――
人の心の中に、きっと残っていく。
《マジカルリング・デイズ》──完。