灰色の腕が引っ込み、代わりに人影が、舞台の上に落ちてきた。
「……人?」
ボロ切れのような外套。革の鎧。腰には刃こぼれした剣。 観光客の誰かが、安堵したように息を吐いた。
「なんだよ、コスプレか……」
その言葉は、最後まで言い切れなかった。
落ちてきた男が顔を上げた瞬間、俺は見てしまった。 目が、完全に虚ろだった。
焦点が合っていない。 まるで、誰かに操られているかのように。
「……排除、命令」
男の口が、ぎこちなく動く。
次の瞬間、剣が振り下ろされた。
悲鳴。血。混乱。
「逃げろおおお!」
教師が叫ぶ。だが逃げ場は狭く、観光客同士がぶつかり合う。 その間にも、裂け目から次々と人影が落ちてくる。 老若男女。 だが全員、同じ虚ろな目をしていた。
「……異世界人?」
スマホが震える。
《先遣侵攻部隊:展開》
《魔王軍 第三斥候群》
《構成:魔族 0/使役異世界人 12》
「魔族、ゼロ……?」
そのとき、裂け目の奥から、別の気配が流れ込んできた。 人ではない。 だが、意思はある。
黒い霧が形を取り、鎧をまとった存在が姿を現す。 顔は兜に覆われ、赤い光だけが兜の隙間から揺れていた。
「抵抗反応、確認。 この世界―侵攻価値あり」
それだけ言うと、黒い鎧の騎士は裂け目の向こうへと退いた。
残されたのは、倒れた人々と、操られている異世界人たち。 そして、見定められたという事実。
俺のスマホに更に表示が浮かぶ。
《評価結果:合格》
《次段階侵攻まで:72時間》






