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“俺、囲まれてる”
鳴海からの実質的なSOSが届いた瞬間、無陀野は自分の周りが無音になるのを感じた。
今彼の耳に入ってくるのは、不安と恐怖、あと興奮で震えている鳴海の声と息遣いだけだ。
「(救護所までは紫苑や部下が一緒だったはず。そこから別の場所へ移動する場合、鳴海なら必ず連絡を入れる。それがないということは…)」
『無人くん…ごめん…えと、俺…』
「大丈夫だ、鳴海。すぐに行く。血は使わずに大人しくしていろ」
安心させるようにそう告げると、無陀野はすぐさま救護所に向かって走り出す。
その姿はあっという間に見えなくなっていた。
鳴海との通話を切ることなく、無陀野は走りながら声をかけ続けた。
普段口数の少ない彼にしては珍しいことで、額に少し光る汗を見ても、その必死さが伝わって来る。
「鳴海、今声は出せる状況か?」
『…うん、大丈夫』
「簡単にでいい。状況を教えてくれ」
旦那からの指示に鳴海は小声で、だが簡潔明瞭にこれまでの経緯を話し始める。
敵は複数…その全員が様子のおかしい桃太郎であり、太刀打ちしたところで救護所が木っ端微塵。
今は仮眠室として使っている部屋に身を隠していると伝え、彼は報告を終えた。
「分かった、ありがとう。今救護所の前に着いたから、もう少し頑張れ」
『うん…!無人も、気をつけ…あっ!』
「鳴海?…鳴海!」
短い悲鳴を最後に、彼との連絡が途絶えた。
ちょうど入口の前に立っていた無陀野は、桃の気を逸らすためにわざと派手に扉を破壊する。
思惑通り集まって来た桃を片っ端から倒していくが、それでも尚鳴海との連絡はつかないまま。
そうして辿り着いた部屋に桃太郎の死体が転がっていた。
1人立つ鳴海の腕には、首だけの桃太郎が…
「…鳴海」
「!」
「殺ったのか」
「中々落ちないな」
「…無人、くん」
鳴海の服に付いた血を洗い流していると、鳴海か細い声で無陀野を名前を呼んだ。
細かい擦り傷はあるがそれ以外の怪我は無いようだが、その表情は暗かった。
「遅くなってすまない」
「俺、助け呼んじゃった…戦闘部隊なのに…ごめんね」
「お前は何も間違ったことはしていない。ケガ人や他の鬼たちを先に避難させ、残った奴がいないか最後まで確認した。俺のいいつけ通りに助けを求めることもできた。しっかり出来てるから大丈夫だ 」
「でも…本当なら自分で、どうにかしなきゃいけなかったのに…隠し通路とか場所とか、知ってたのに…能力のとかあいつらが自爆したらここら辺が火の海になるかもって…頭が真っ白になっちゃって…」
「不測の事態は当然起こる。その時に自分の身と鳴海のことを護れるように俺たちは鍛えてるんだ。だからいくらでも頼っていい」
「無人…」
「いいか鳴海。お前は戦闘部隊である前に、俺の嫁で妻だ。それを忘れるな」
「…うん」
「怖かっただろ。俺しかいないから、我慢しなくていい」
「じゃあ…ちょっとだけ抱きついてもいい?」
「! 当たり前だ。そんな許可取る必要ない」
その場に座り両腕を広げた無陀野は、そう言って穏やかな表情を見せる。
今にも零れ落ちそうな涙を堪えたまま、彼の背中に腕を回す鳴海。
“無事で良かった” と頭を撫でられると、鳴海の目から大粒の雫が流れた。
無陀野に背中をトン…トン…と叩いてもらうことで、鳴海はようやく落ち着きを取り戻す。
袖で涙を拭きながら顔を上げれば、視線に気づいた無陀野が彼の少し乱れた前髪を直した。
その自然で優しい手つきにドキドキした鳴海は、再びギュッと抱きついた。
「どうした?」
「んーん!何でもない!……無人くん、体熱いね」
「悪い、冷たい方が良かったか?」
「俺のために走ってきてくれたんでしょ?」
「妻から助けを求められて、歩いてくるわけないだろ。お前を2度も失いたくないからな」
「俺って愛されてる!!」
「…笑顔が戻ったな」
「!」
「好きな表情だ」
#ご本人様とは一切関係ありません
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あまりにサラッと告げられ聞き逃すところだったが、目の前のイケメンはまた相当なことを言ったのではないか。
誰もが口にしたことのある”好き”というワードが、あの無陀野の口から出るとこうも刺激的なものになるとは…
「鳴海は…」
「ん?」
「前線から離れようとは思わないのか?」
「へっ?」
「もちろんお前の意思は尊重する。だが旦那として前線から離れて欲しいとも思っている」
そう言って鳴海の頬に手を添える無陀野。
今までは鳴海の意思を尊重し好きなようにやらせ自分ができる限りのサポートもした。
だがこうも我が身を省みずに突き進み怪我やらなんならしてくる鳴海を見て前線から退いて欲しいと最近から思うようになったのだ。
何と答えようか頭を悩ませている鳴海に対し、無陀野はさらに追い打ちをかける。
「俺のエゴでしかないがお前は前線を退いてもやることは多くある。だから…「無人くん 」
「…離れる気はないのか」
「うん。まだ目標を達成してないから、俺は前線から離れないよ」
「…そうか」
鳴海が前線から退かないことをはっきりと示した上で無陀野は諦めたような顔をした。
通常運転に戻った鳴海を伴い、無陀野は再び鬼の救助と右京捜索を再開する。
行く先々で桃を討伐し鬼を解放していくボスと、解放された鬼を治療していく鳴海。
自慢の素晴らしいコンビネーションで、2人はビルの間を飛び回っていた。
と、そこへ久しぶりに見る顔が現れる。
「やっと再戦できそうで嬉しいぜ…」
「…」「あれは…!」
「前回みてぇな決着はねぇ。最後までやろうぜ!決着はどっちかが死ぬまでだ!」
「どっちかが死ぬまでか…いいだろう。手短に済まそう」
「無人くん…」
「相変わらずクールだな。熱くいこうぜ!」
「鳴海、このビル内と周辺にも鬼がいる。彼らの治療と避難誘導を頼めるか。あと必要に応じて能力も使え」
「OK。死んだら怒るからね」
「お前を悲しませるようなことはしない。約束する」
「じゃ、後でね!」
無陀野の言葉に、鳴海は満開の笑顔を見せる。
軽やかにビルを飛び降りる彼を見送った後、無陀野は練馬コンビの方へと向き直った。
ビルの周囲には、建物内から逃げてきた者や別場所からの避難者たちが大勢いた。
元気な人たちには安全な避難経路を伝え、ケガをした人にはその場で治療を行う。
屋上からの大きな音に不安を募らせながらも、鳴海はいつも通り冷静に事に当たっていた。
「…よしっ、これでOK!痛くなかった?」
「平気!お兄ちゃんすげぇや!」
「まぁね~!」
「本当にありがとうございました…!助かりました」
「とんでもない!引き続きお気をつけて」
「はい。ほら、あんたもお礼言いなさい!」
「ありがと!…ん?」
「どうかした?」
「何か木が飛んでる!」
「えっ?」
治療していた子供が指差す方へ目を向ければ、そこには確かに大木のようなものが浮かんでいた。
禍々しいその姿形から、間違いなく良いものではないことが分かる。
会話をしていた親子に避難を促し、鳴海自身も少し距離を取って大木の行方を見守った。
そして鳴海が移動して上を見上げた瞬間、大木は無陀野がいると思われるビルに落下し轟音を響かせた。
「無人くん…!」
大丈夫だと信じつつも、鳴海は急いで破壊されたビルの下へと向かう。
鳴海が到着した時、ビル周辺は大爆発が起きた後のような状態になっていた。
窓ガラスは1つ残らず割れ、柱という柱が折れ曲がり、道路も穴や亀裂だらけだ。
その中心に1人の人物が立っていた。
「無人!!」
「鳴海。そっちは終わったか?」
「うん。全員避難と治療も終わったよ」
「よくやった」
「…ケガ大丈夫?」
「あぁ、大したこと…いや、あとで治療を頼めるか?」
「もちろん。無事で良かった…」
「ありがとう」
ホッと息を吐く鳴海の頭を優しく撫でてから、無陀野はその場を後にしようと歩き出す。
だがそんな彼の動きを止めようとする声が聞こえてくる。
「待てよ…帰るには早すぎだろ…まだ…序盤だぜ?」
「(桜介くんも月詠くんも、ボロボロ…)」
「寝てればいいものを」
「そうゆうわけにはいかないのさ…」
「任務のためか」
「可愛い後輩のためさ…たいした話じゃないけど…立ち上がる理由には十分さ…」
「そうか…立ち塞がる覚悟があるなら…その華いのち摘ませてもらおうか。…鳴海、下がっていろ」
「うん…あ、あの…無人「鳴海!」
「!」
「心配すんな!俺らは大丈夫だ!」
「その表情だけで十分だよ」
彼ら2人には、いくつか借りがある。
本人たちが言うように、戦うことは好きなのだろう。
だが鬼を無差別に殺す他の桃太郎とは違う…接する時間や機会は少ないが、鳴海はそう確信していた。
だからこそ、許されるなら生きていて欲しいと思ってしまう。
そんな複雑な思いで3人の男たちを見つめていた鳴海。
彼女の耳に待ち望んだ声が聞こえてきたのは、無陀野の攻撃が火を噴く寸前のことだった。
コメント
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ああ、もう…今回もドキドキが止まらなかったよ。無陀野が鳴海のSOSで無音の世界に入る感じ、すごく好きな表現だなと思った。それに「前線から離れてほしい」って本音をこぼす無陀野と、それでも「目標があるから」って退かない鳴海、二人の関係が本当に深まってる回だった。鳴海の優しさが桜介たちにも向いてるところも泣ける。続きが気になる…!