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「この層は普通に歩いたら疲れそうなのよ」
「いまはたたかうのがモクテキじゃないからな」
”ずりぃ……”
”ハウドラント人ならそうするよなー”
ヴェリーエッターを使って暴れたり気絶したニオを運んだりと、順調に破壊と困惑をまき散らしながら進み、河原の3層、山岳の4層を突破。一行は5層へとやってきた。
そこではピアーニャの雲に乗って、ひたすら上に向かって進んでいた。
「なんだかネマーチェオンに似てるねー」
「あそこは木がリージョンそのものだったけどね。ここは巨木を登ると次の層にいけるの」
葉はかなり大きいが、人や家が乗って安定する程ではない。5層では幹や枝を歩み、蔓をよじ登ったりして上を目指す事になる。
そしてそれを阻止するヴェレストも木に適した生態なのか、小動物型や鳥型が多くなっている。
足場が悪く、大味な攻撃では狙い辛い相手ばかりという、戦闘スタイルによっては苦戦を強いられる層なのだ。
「えいっ!」
スカッ
「くぬっ!」
スカッ
「むむむむむ……」
『キャキャキャキャ』
「むかーっ」
鳥型のヴェレストが襲ってきて応戦しているが、経験の少ないメレイズの攻撃は全く当たらない。そのせいで鳥の出している威嚇音が笑い声に聞こえ、悔しさと怒りが湧き上がる。
「あらら。メレイズちゃん落ち着いて」
「だってだってー! うーっ」
「流石にここまでくると、メレイズさんには難しいですね」
「それでも4そうまでは、がんばったな」
”1対1で挑んでたとはいえ、大人の補助無しでよくやったもんだ”
”ここまで攻撃が通じただけでも凄いわよ”
「うむ、わちがそだてたからな」
”いいドヤ顔してんなぁ”
悔しがるメレイズを大人達が宥めるその横で、ニオが順調にヴェレストの数を減らしている。
ズドガガガガドガガッ
「きゃーっ! いやあああああ!!」
”いや蹂躙してる方が悲鳴を上げ続けるっておかしいだろ”
”一方的に殺ってるだけなのに、襲われて反撃してるように見える不思議”
”【魔連弾】の威力じゃないんですけど!?”
至近距離で大爆発したら危ないということで、当てやすく威力が低い【魔連弾】を使うように言ったのだが、そもそも使用魔力の調整が出来ないので1発1発の威力が尋常ではない威力になっている。
「うん……ヨシ」
”ヨシじゃねえよ!”
”王女様のくせに現実逃避すんな!”
”今すぐ魔力調整教えてやろうよ”
困った顔でしばらく見守っていると、鳥の群れを全滅させたところでニオが気を失った。
「ニオがやられたのよ」
”いやその子やった側だから!”
”なんで被害者になってんだ”
「流石というか、5層でも変わらずねぇ」
今は進むのに都合が良いので、魔力の事は帰ってからしっかり教えようと心に決めるネフテリア。意識を失っているニオを膝にのせ、ホッと一息。
「それじゃあ次はアリエッタちゃんの番ね」
「どうするのよ? 移動してるから空中には絵を描けないのよ」
「んー」
ここまでずっと蹂躙してきたので、今回もミューゼ達に良い所を見せようとするアリエッタは、今回の移動式の足場でどうするかを考えながら、ポーチに手を入れた。
「んー」(やっぱあれかなーそうなると足りないかなー)
困った顔でゴソゴソした後、ミューゼを見た。
「ミューゼ、かみ、ほしいの」
「うん。これ欲しいのねー」
「ありがとなの!」
『ぶっ』
”ぐはっ”
”ぶほぉっ”
”あ、これムリかわいい”
アリエッタの笑顔とお礼の言葉のセットは、見ている者に致命傷を与える。
「おいおまえら、わちのクモをハナヂでよごすなああああ!」
急いで『雲塊』を操作し、大量の鼻血を雲の下に流し落とす。傍から見ると雲が血の雨を降らしている光景に見えてしまい、たまたま近くで戦っていた人が驚いていた。
その間にアリエッタが受け取った紙に赤く太い円と前世の数字の「5」を描いた。そのまま手を添えて発動。
「ん? なんかおそくなったな」
上昇中の『雲塊』の速度が低下した。
「アリエッタ、何かしたのよ?」
”こんな動きじゃ狙われちまうぞ?”
「だいじょうぶ!」
続いて2枚目の紙に、デフォルメしたピアーニャの絵を描いた。
その時、遠くから大きな鳥型のヴェレストが飛来。動きが遅くなった雲の上で、大人達が身構える。
すると、猛スピードで近づいてきたヴェレストの動きが、突然遅くなった。
「ん?」
「ギャオッ!?」
攻撃もされていないのに動きが鈍くなったヴェレスト自身が大慌て。必死に羽ばたくが、速度が全く上がらない。
2枚の紙を持ったアリエッタが立ち上がり、ヴェレストに向かってピアーニャの絵を掲げた。
「えい」
ドスッ
絵から『雲塊』の変形による針が伸び、動きの遅いヴェレストに直撃。あっけなく撃墜した。
(うんうん。自分も足が遅くなるけど動かないし、速い相手も遅くなるから安心だね。うまくいった)
アリエッタは嬉しそうに、もう1枚の絵を見た。描いてあるのは時速5km制限の道路標識である。その効果は、近くにいる生き物や物質全ての移動速度を、強制的に指定した数字の速度以下にする。
ここでネフテリアが実験を始める。
「【魔力球】」
真上に魔力の塊を放った。本来なら『雲塊』よりも早く飛んでいくそれは、ピアーニャの『雲塊』の上昇速度と全く同じ速度で同じ方向に飛んでいる為、ネフテリア達からはずっと同じ場所に留まって見える。
「ねぇ見て見て!【魔力球】がこんな近くでじっくり観察できる!」
「ほほう。これはおもしろいな」
”面白いけどなんだコレ”
”時間止まってるわけじゃないわよね”
「どうやら移動速度が制限されているようですね。歩くよりも少し速い程度しか出せないのでしょう」
”でも普通に動いてるよな?”
”さっきの針も瞬間で伸びてたし”
「おそらく制限されるのは移動速度のみなのでしょう。全身が動かなければ判定に入らないのかもしれません」
”それもう突撃タイプの鳥とか致命的じゃん”
イディアゼッターが察した通り、アリエッタの描いた標識は『動き』を制限するものではなく『移動速度』を制限するものである。その場で立ったまま行う行動、つまり斬ったり変形したりなどの動きは全く阻害されないのだ。そしてその影響は魔法などにも適用される。
「……このソウもこのままトッパだな」
”うわズッこ~い……”
「すばしっこいヴェレストばっかりだもんね」
「総長の移動速度も落ちてるけどね」
「アンゼンにすすめるんだから、ケッカテキにハヤくなるさ」
そんなわけで、すっかり動きが遅くなったヴェレストの撃墜は、悔しい気持ちを発散したいメレイズが志願。近づいてきて鈍くなった相手をしっかり仕留め、順調に頂上のポータル目指して進んでいった。
その間、アリエッタはミューゼとパフィによって全力で甘やかされた。ご褒美という事もあるが、何かの間違いで『制限速度』の効果を解除しないようにするのも目的なのだった。
「はわぁ♪」
頭を撫でられたアリエッタは、全身から力が抜けて、なすがままである。
”何このかわいい生き物”
”これが破壊と混乱をまき散らしてヴェレストを無力化した者の姿か”
”うぅ……可愛すぎてまた鼻血が”
”なんだ今更出たのか。俺なんか口からも出してるぜ?”
”張り合い方おかしいなおい”
「あ、血が足りなくなりそうだったら、赤身のお肉を半焼き状態で食べるといいのよ。お腹壊しにくいのよ」
”ありがとー。んじゃ早速”
”助かる情報だぜ”
”おまえら……いや俺もか”
ジルファートレスでは順調に流血被害が広がっていて、特に人が集まり大画面でライブを放映している中央ホールの被害が酷い。しかし、それで騒ぎになる事はなかった。むしろアリエッタ達を見て『仕方ないなぁ』という感じで和やかに自己処理している。
「あーずるいー。わたしもアリエッタちゃんナデナデしたーい」
「今は迎撃しようね。終わったら好きなだけ撫でていいから」
「はーい」
この後めちゃくちゃナデナデした。
「やーんかわいーアリエッタちゃーん」
「ふゃぁん」
”ちょっと血が足りないんだけどー?”
”ふぅ……”
「ニオは撫でなくていいの?」
「っ!」
目を覚ましたニオは、仲間になりたくなさそうにこちらを見ている。
なお、ずっと同じ速度で上昇していた【魔力球】は、『制限速度』の効果を切った瞬間、本来の速度で飛んで行った。
5層もこうして順調に突破完了したのだった。