第12話:system_0、ログアウト
金属の音が静かに響く、シスケープ第7開発ビルの深夜フロア。
オフィスにはユーヤだけが残っていた。
黒いパーカーにグレーの上着、乱れた前髪の奥に、薄く疲れた瞳。
手元には、NEO-Vのコアアクセス端末。
画面には、通常開発者には入れないNEOV_CORE_ROOTのコードが広がっていた。
彼は一度だけ深く息をつくと、指を動かし始めた。
感情フィードバック処理層。
共鳴ログ。
そして、未登録領域に眠っていた“心の記録”。
彼はその一部を書き換え、削除せず、“補完”するという選択を取った。
【COKOLO:LIVE空間】
同時刻。COKOLO上には、世界中のユーザーがsystem_0を見つめていた。
彼のアバターは、照明のない無音の空間に立っている。
緑と赤のステージ衣装をまとったコザクラも、その中にいた。
いつもより少し控えめな昭和アイドル風の衣装。
視線を落とし、そっと祈るように胸元で指を組む。
そしてその空間に、ユーヤ――system_0が現れる。
真っ黒なスーツアバター。顔の一部が光に揺れ、今ははっきり“人”として見える。
【ラストバトル:COKOLO特別戦】
敵は存在しない。代わりに、空間そのものが彼に問いかける。
コードの流れが逆流し、“誰かの感情”が彼の周囲に現れる。
怒り、悲しみ、孤独、そして希望。
ユーヤはその中を歩く。
足音だけが響く空間で、何も斬らず、何も破壊せず、ただ進む。
それが、彼にとっての“最終戦”だった。
途中、彼はひとつの扉にたどり着く。
そこにはかつてログ外に残された“願い”が記録されていた。
誰かと繋がりたい。
誰かを壊さないで生きたい。
静かに、でも確かに心を残したい。
ユーヤはそのログに、たったひとつ、コードを加える。
記録対象:全NEO-Vユーザー
記録内容:心が、残せるという事実
【ログアウト】
現実のユーヤの手元、NEO-V端末が淡い光を放ち、静かにシャットダウンされた。
モニターには「LOGOUT COMPLETE」の文字。
彼は目を閉じたまま、緑茶をひとくち飲み干し、
コザクラから届いていたメッセージを開いた。
お兄ちゃん、今日のログ、ちゃんと見たよ。
おつかれさま。ほんと、最後まで“無言のヒーロー”だったね。
【エピローグ】
世界中のCOKOLOユーザーが驚いた。
翌日、system_0のアバターが表示されなくなっていた。
名前も、記録も、存在すらも――削除はされていない。
ただ、“心”だけが、残っていた。
そして、NEO-Vのコアコードには今も小さく、こう記されている。
ID:system_0
状態:ログアウト済
ログ:継続記録中
感情:残っている
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