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夕暮れの校庭に、かすかに残る風がえとの髪を揺らす。橙色の髪は柔らかく光を受け、無花果色の瞳は少し伏せていた。
「……あの子、やっぱり変だな。」
心の中で思うのは、昨日屋上で出会った少年――ゆあんのこと。中学生なのに、どこか大人びた雰囲気。瞳の奥には、言葉にできない孤独がある。えとは、自分の胸の奥が妙にざわつくのを感じていた。
そこに、のあが軽やかに駆け寄ってくる。
「えとちゃん、昨日のあの子、気になってるでしょ?」
「……な、何言ってるのよ。」えとは顔を背けるが、心臓が少し早くなるのを自覚する。
校門のほうから、ゆあんとじゃぱぱの姿が見えた。ゆあんは少し背を丸め、遠慮がちにこちらを見ている。
「……あれ、来るの?」えとは無意識に声を上げる。
ゆあんが近づいてくると、えとは自然に少し距離を取った。中学生――でもただのガキじゃない。雰囲気だけで、心のどこかに警戒が働く。
「……昨日はありがとう。」ゆあんの声は、低くて、でも震えがあった。
「……別に。」えとはそっけなく返す。しかし、胸の奥はほんの少し温かくなる。
その時、のあが小さな笑顔でからかう。
「ねえ、えとちゃん、顔赤いよ?」
「……っ、黙ってて!」えとは慌てて頬を隠す。
ゆあんはそれを見て、ほんの少しだけ笑った。
「……可愛いな。」その一言に、えとは思わず息を呑む。
その日の放課後、えとは友達のるなとうりと一緒に帰る途中、ゆあんがついてきた。
「……家まで送るよ。」
「……いらない。」えとは無理やり強がるが、自然とペースがゆあんと合ってしまう。
歩く距離はほんの短いのに、心臓が早くなる。互いに言葉は少ない。けれど、視線や沈黙の間に、小さな感情が行き交う――切なく、甘い瞬間。
「……ねえ、また明日、屋上で待ってる?」えとがそっと訊く。
ゆあんは、微かにうなずいた。
「……うん。」
夕焼けに照らされる二人の影は、少しだけ重なり、そして小さく揺れた。
――恋はまだ始まったばかり。けれど、確かに二人の心には、互いを思う小さな灯火が灯っていた。