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「ちゅーわけで、あいつらは遊びに行ったわ」
離れの玄関で、トントンがそう言った。
雪乃はそれをポカンとしながら聞く。
「あぁ…そうなんですね」
部活の合宿ってそんな緩い感じなのか、と勘違いする。
「ま、好都合じゃねぇか。あいつらがいない間にバーベキューの準備しとこうぜ」
雪乃の背後からやってきた春翔がそう口を開く。
どうやら今晩の夕食はバーベキューのようだ。
「どうや、離れの居心地は」
「あぁ、悪くねぇよ。2人だとちょっと広すぎるくらいだ」
「誰か1人いるか?」
「いらねぇ」
そんな会話をしていると、トントンの背後から男の人が近付いてきた。
「あ、こんにちは。ここの管理人の者です。食材とか色々補充しに来たんだけど…」
眼鏡をかけた無害そうな大人の男性。
歳は二十歳後半くらいだろうか。
「あぁ、ありがとうございます。4日間お世話になります」
「いえいえ、存分に寛いでいってください」
トントンが頭を下げ、雪乃と春翔も続いて会釈する。
「トントンお前も遊びに行ってこいよ。俺らが管理人さんに聞いて準備しとくから」
「ええよ、俺も手伝う…」
「いいからいいから、お前らの合宿だろって。俺らマネージャーみたいなもんなんだから。ほら、浮き輪」
何処からともなく持ってきた浮き輪をトントンに押し付け、背中を押す。
「ええんか…?」
「おう。気にせず遊んでこい」
春翔がそう言うと、渋々といった風にトントンは海の方へと向かっていった。
溺れんなよー、と声を掛け、管理人に話を聞く。
食材を沢山持ってきてくれたみたいで、離れから母屋の方に移動しとりあえず全部冷蔵庫にぶち込んだ。
「キミたちはマネージャーなの?」
管理人に聞かれる。
「いえ、この合宿の間だけです」
近くにいた雪乃が答える。
「そうなんだ」と優しく微笑む管理人。
「僕はグルッペン君の知り合いでね。たまにここのコテージを彼らに貸してるんだ」
グルッペン…。
どこかで聞いたような…。
「我々だの長だよ」
思い出そうとしていると、横から春翔が捕捉してくる。
「そう。ゲーム実況グループ“我々だ”を作った張本人」
管理人が微笑む。
…“我々だ”を、作った人。
思い出した、確か鬱先生の護衛を依頼してきたのはその人だった。
「僕はゲームを作る仕事に携わっていてね。たまに彼らに協力してるんだ」
「なるほど…。私ゲームは全然分からなくて」
ほぼやった事もなく、触る機会もなかった。
この学園に入ってからたまに生徒たちがやっているのを見たことがあるくらい。
兄たちもゲームはしないので、家にもゲーム機はなかった。
「そうなんだね。とっても楽しいよ。奥が深くて」
「そう、なんですね…」
「はは。今は分からないかもしれないけど、きっと彼らを見てたら分かるよ、いつか」
にこりと微笑む管理人。
本当だろうか。
あの人たちがゲームしてるところ、まだ一度も見たことがない。
「バーベキューの用具の説明をするから、中庭に行こうか」
そう言って先導する管理人の後を、2人はついて行った。