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瑠璃🍫✨💭ྀི
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――翌日
驚きで気持ちが昂って大して眠れなかった。
「おはよう」
後ろから声をかけられ、橘さんが追い抜いていく。
「おはようございます」
慌てて挨拶を返すと、橘さんは振り向き笑って手を挙げた。
ぼーっと背中を見送り、ハッとする。なんか、あれだ……。私だけ意識しちゃってる感じだ。
恥ずかしさで、遅れて顔が熱くなるのがわかった。
「橘さんって、余裕があって、しごできで、かっこよくないですか」
ふと誰かの声が聞こえてきた。
ふっ、そうでしょう。そうなんだよね。
つい私がドヤってしまった。橘さんはかっこいい。昔からずっと。
さぁ、切り替えなきゃ。それで、考えなきゃ。私も会社のフロアの前でぎゅっと目を閉じ気持ち切り替えた。考えるのは今すぐじゃなくていい。
――――……
「考えたんだけどな、東谷」
「う、わぁあ」
「……そんな驚くか? 」
会社の廊下、橘さんに話しかけられて油断していた私は慌てて周りを見回した。
「誰もいないって。いても別にいいだろう」
橘さんが苦笑いする。そうだ、別に会社で橘さんと私が話していてもなんら不自然ではない。
「すみません」
「意識しすぎじゃなーい? 仕事の話かもしんねーじゃん? 」
からかってくる橘さんを睨みつけるが、橘さんはおかしそうに笑うばかり。
「ちょっと気になって。彼氏、婚活してても何も言わないの」
「……そういう条件でつき合っているので。えと、私が結婚したい相手に出会えるまで」
「えぐいな、それ」
言葉にするとほんとうにその通りで気まずい。
「まあ、俺にとったらラッキーだな。他の男と会ってもいい許可貰ってるって聞いたので。もちろん、行かせていただきますよ」
「何を言ってるんですか。婚活限定ですって……ば」
橘さんがすっと顔を寄せてきて怯む。
「結婚したいよ、俺は。付き合うなら結婚前提」
そう言ってにこり微笑んだ。
橘さんがすっと一歩引いたことでやっと息が吐けた。
「その条件、東谷が解除しないうちはチャンスがあるってことだもんな」
そっか、広睦くんとの未来を考えるならそこは考えなおさないといけない。普通の恋愛ってそうだ。
つい、考え込んでいたらしい。私が落ち込んでいると思ったのか橘さんが私の顔をのぞきこむ。
「一度きりの人生だからな、東谷が好きにしたらいい。好きにしたらいいんだからな。結婚するのは東谷なんだ」
「ふふ、橘さん、ほんと良い人ですね」
「ちっ」
橘さんはばつが悪そうに舌打ちして髪をかき上げた。
「ありがとうございます」
「ん。ゆっくり考えたらいい。同じ会社ってのはいいな。約束なく会えるし、ちょっとばかし有利だな。ただでさえ俺年上でバツイチのハンデあるのに」
「年上……ハンデじゃないですよ、むしろ加算点」
「まじ? そう? 」
「はい。あと……彼もバツイチなんです」
橘さんの切れ長の目が大きく見開かれた。
「若気の至り……か、何でだよ。あー……なかなかだな」
「ええ、なかなか」
「バツイチってどうなんだろう」
「あんな良い人があの年で何で独身なの? あ、バツイチか。納得……みたいな。ある程度の年ならプラスかも? 事故物件扱いもありますけど」
「ははははは! きついな。そっか、まあ一度きりの人生、だもんな。みんなそれぞれ色々あるさ」
「そう……ですね」
「好きにしたらいい。悩んだって、決めたって」
「はい。そうですね」
「言っておくけど」
橘さんはそう言ってビシッと私を指さした。
「俺も一度きりの人生。好きにさせてもらうよ」
そう言って不敵に笑うとわずかに香る、橘さんの香りを残して足早に私を追い抜いて行った。
指先が震えている。一度きりの人生だ。それは、誰にとっても。
――橘さんの気持ち、ちょっとわかるな。
仕事が忙しいと、他の事後回しにしちゃう。最優先で時間との戦いだって言ってる婚活でさえ一旦考えられなくなってしまうもの……。結婚してたら余計に生活を後回しにしてたんじゃひずみが生まれちゃうよね。けどさ、家族って意識せずに一番甘えが出てしまう相手だと思う。一番大事にしなきゃならないの人なのに。
や、でもな。元奥さん、さすがに別れて1年経ってないのに再婚は早すぎない?どうやってお相手と出会ったんだろう。仕事が忙しい時期に?子供は望まないってこと?それなら尚更時間かけられるはずだから、やっぱり子供が欲しいのかな。
想像の範疇を出ないもやもやに気持ちがぐるぐるしていた。
橘さんも『俺も人の事言えないから』言ってたけ……ど。あ、それ、もしかして私のこと言ってた?離婚してそんなに経ってないのに私と結婚したいと思ってくれたってこと?
今になって言葉の意味がわかり、私は一人赤面する。
ああ、もう。
私は色々鈍くて困る。タイミングを逃した過去が多すぎて後悔したはずなのに。未来が今の私の選択で全く別のものになる。
自分の人生に責任重大だよ。頭と心と、意見が合ってくれたらいいのに。
会社を出てしばらくすると遠目に私を待つ広睦くんの姿が見えわずかに緊張する。絵になるなぁと見とれてしまう。気だるそうに一点を見つめる瞳が私を認識するとパッと表情が変わった。
この近い距離を瞬発的に駆け寄る姿に胸がぎゅっと掴まれたようになる。
「春美さん、お疲れ様」
私の手から荷物を取ると空いた手を取って歩き出した。
かわいいなぁ。愛おしいってこのことだろうか。うっかりじんわり来てしまった。
罪悪感、背徳感。制限のある関係。この感情を作るのは何だろう……。
コメント
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ああ、もう、このもやもやした感じ……すごく伝わってきました。橘さんの「一度きりの人生」って言葉、軽く言ってるようで重いですよね。同じ会社って距離感が逆に切なくなるし、広睦くんの登場でまた心が揺れる主人公の心情がリアルでした。婚活と恋愛の境界線、バツイチ同士の複雑さ……「頭と心の意見が合ってくれれば」って、ほんとそれだなって思いました。