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いつものように仕事場に入ると、廊下の先にジェシーの姿を見た。
壁に手をつき、足をするようにしてゆっくり歩いている。
調子が良くないんだ。俺は直感的に思った。
「ジェシー! おはよう」
駆け寄ってさりげなく背中に手を添える。
「ああ、樹。おはよ」
声にもあんまり張りがないし、へら、と笑ったその表情も暗い。
ジェシーは、少し前に「若年性パーキンソン病」と診断された。ダンスのときにつまづくのが多くなり、心配した俺らが病院に行かせると判明した病名。
彼は持ち前の明るさで「何とかなるよ!」と世間には隠し通そうとしたけど、俺らで公表を勧めた。
だって、ジェシーに辛い思いをこれ以上してほしくなかったから。抱え込んでほしくないから。
「今日できそう?」
念のため確認すれば、大丈夫、と小さい声がある。「みんなもいるし」
やがて楽屋に着くと、もうすでにメンバー4人は揃っていた。挨拶を交わし、俺は高地に歩み寄る。小声でささやいた。
「ちょっとジェシー症状出てそうだから、ステージでよろしく」
高地は表情を変えた。「わかった」
今日は、数か月前から企画していた音楽生配信の本番。
ジェシーだけでなく、みんなも気合が入っている。
だけどその気合がプレッシャーになって、彼を潰そうとしてるんじゃないかって思えて心配になる。
今まで何回も打ち合わせして、リハもしてきたはずなのに。自分のことじゃないのに。
心配で、泣き出しそうだった。
「ほら樹、行くぞ? 最終リハだよ」
気づけば北斗に顔をのぞきこまれていた。
「あ、うん」
ジェシーの歩くペースに合わせ、少しゆっくり並んで向かう。心なしか、慎太郎の肩を持つその手に力が入っている。歩きにくくなったのか。
つまり、病状が悪化してるのか……。
「ごめ…みんな、ちょっと」
つぶやいてジェシーは立ち止まってしまった。よく見ると、両手が小刻みに震えている。振戦だ。
「大丈夫だよ。大丈夫」
きょもが手を取り、優しくなでる。そうしていると、だんだん落ち着いてきた。
「ありがと。もうオッケー」
表情に乏しいのも、パーキンソン病の特徴だ。でも、ジェシーは努めて笑顔をつくった。
慎太郎がジェシーの背中に手を添え、「行こう」とそっと押す。
辛いことを抱えてほしくなかったから、病気を公表して活動を続けることを俺らで勧めた。
だけどそれは間違いだったんじゃないか。
今のほうがずっと我慢させてるし、無理を強いらせている。
俺は、俺らは、ジェシーのために何ができるのだろう。
あの太陽の光を、雲で遮らないように。
続く