「今日ハオ肉ノ気分ナノ」
来店したマル様は席に着くなりそう言った。
「でしたらミートパイはどうでしょう?」
「イイワネ、ソレ!」
「お決まりでしたらメニュー名と数をお願いします」
「ジャア、ミートパイヲ、一ツ」
「かしこまりました」
「ぼくにもミートパイを一つ!」
そう叫んだのは意外にもアスール様だった。
「かしこまりました」
マスターがキッチンの方へ消えた後、慌てて彼に確認を取る。
「アスール様よろしいのですか?当店にはフィッシュパイもありますが」
「いいの。ぼくもお肉の気分ってやつだから」
「そうですか。わかりました」
本人がそう言うならと、僕は引き下がった。
「お待たせしました」
焼きあがったミートパイを二人の前に置くと、二人は同時に手を合わせた。
「「いただきます!」」
マル様は頬に手を当てながら幸せそうにミートパイを食べ進めていく。どうやらゾンビである彼女は熱さもほとんど感じないらしい。
一方アスール様は息で冷ましながらミートパイを口に入れた。猫は熱いものが苦手だと以前千弦先生が言っていたのを思い出す。
そういえば、今日は珍しく千弦先生の来店がまだだ。
いつも早々に来るはずの人が全然来ないと、なんだか調子が狂ってしまう。
「千弦さんまだ来ないね」
不意に、アスール様がフォークを動かしていた手を止めて言った。
「ソウネ、マダ来テナイ」
マル様もフォークをお皿の上に置きながら口にする。けれども二人の興味は一瞬で目の前のミートパイに移動してしまった。
「ところでこれ、何のお肉使ってるの?」
「特別なお肉ですよ」
アスール様の疑問にマスターが答える。
「特別ナ、オ肉……人間トカ?」
人間。その言葉で真っ先に浮かぶのは千弦先生だ。それはアスール様も同じだったらしく、彼はマル様の呟きに震えながら叫ぶ。
「こ、コレ、まさか千弦さん!?」
「だとしたら大問題ですが!?」
「イヤ冗談――」
「マスター!千弦先生は食材じゃないです!!」
「そうだよ!ぼくらの千弦さん返して!!」
「理解不能なのですが」
「いつにもまして騒がしいね。何かあったのかい?」
その言葉に僕達は一斉に入り口を見る。そこには何故か濡れている千弦先生が立っていた。
「千弦さん!」
「良カッタ、来タ」
「どうして濡れているんですか!?」
「いやぁ、途中で雨に降られてね。ここを見つけるのが遅くなってしまったよ」
「とりあえず布を持ってきます!」
急いで布を取りに向かう。
この時の僕は、きっとこれまでで一番安堵していただろう。
コメント
3件
食べてる肉が千弦さんだと思ってしまうアスールくんとマルさん可愛い私
一瞬ホラー展開行ってしまうのか!?って思ったら良かった、平和だにゃんwww