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居酒屋に着くと向き合った。
「何か色々確認しておきたいから、1度ちゃんと話しましょう」
私がそう言うと目を丸くして
「真面目だなぁ。適当でいいのに」
と笑った。
「適当に扱いたくないのよ」
「そうだね。俺の方は適当に扱うつもりないよ。OK、何を決めておく? 婚活して相手が見つかるまで、だから他の男とのデートも許容範囲ってことになるね」
「じゃあ、あなたも対等じゃないと。他の女の子と……」
「いやいや。俺は違うでしょ。ほかの子とデートする目的がないし、春美さんいる間は絶対本命にはならないから向こうにも失礼。俺は、春美さんと別れてからでいいや。他は」
「でも……」
「いいって。そこにフェア求めてない。他! 」
「あまり、付き合ってることがわからないように……」
「ああ、まぁ婚活中なのに男の影感じさせてる場合じゃないか」
「あなたが、それでもいいなら」
「広睦。呼んでみ」
「……広睦……くん」
「うん。まぁ、いいんじゃないんですか」
ほのかに顔が赤い広睦くんに気づいた。そういえば、本人に呼んだこと……なかったのかも。
「お酒、そんなに強くないの? 」
「え、ああ。わかる? 普段友達とも金かかるからってあんま飲まないし、眠くなるから」
「そっか、私もあんまり強くない」
言ってから思った。この子まだ21歳何だった。お酒飲めるようになってそんなに経ってないのに強いわけないじゃない。
「俺の父親は酒強いから俺も強いと思ったんだけどな……」
「まだ慣れてないだけじゃない。お酒の強さって遺伝なの? 」
「わかんない。けど、顔赤くなるかならないかは遺伝な気がする。顔、あっつ。ほら」
私の手を取り、自分の頬に当てがった。上目遣いの目が胸に刺さるようでドッと汗が噴き出る。手から伝わる熱と肌の柔らかさ、それから、綺麗な瞳。
「ほ、ほんとだ。熱いね」
慌てて手を引っ込めようとするけど、つなぎ留められる。
「きもちー……」
容姿が優れている、というのは一種の鋭い武器だと思う。
やっと解放された手にソーダで割ったお酒のグラスがひんやり気持ちいい。
「ちょっと、酔い冷ましに歩かない? 」
そう誘われるまま、店を出ると風が心地よかった。
「昼は暑くなって来たけど、夜はちょうどいいな」
「本当だね」
途中コーヒーショップでアイスコーヒーをテイクアウトして近くの川沿いを歩く。まばらに人がいる中、前を向いたまま私の手を取る。指を少しずらし、指を絡める。振り向いて私の顔を窺う。私が振りほどかないことを確認すると、嬉しそうに笑った。
胸がぎゅっとなる。遠い昔のときめきのような、罪悪感のような。何の引っかかりもなく、心のままこのときめきを楽しめたらいいのに。
立ち止まると川沿いの柵に腕を預けしばらく川からの風を楽しんだ。
「風、きもちー」
目を閉じて風を顔に受ける横顔は無邪気でまだ酔っているのかもしれない。
「少しは酔いがさめてきた? 」
「んー、どうだろ。どう。まだ顔赤い? 」
コーヒーのカップを頬に当てて冷やしながら顔をこちらに向けて私に確認をとる。
「んふ」
思わず吹き出してしまった。
「え、何? そんな顔ヤバい? 」
「違うの、何か今の顔とかアーティストのPVのワンシーンみたいで」
「おー……」
よくわかんない、と言った顔をされたので補足する。
「顔が……えっと、とにかく、良すぎたの」
我ながら俗っぽい言い方に、自分でウケてしまった。
「ははは、何言ってるんだろう。でもさ、ほんとかっこい……」
「ふうん」
いつの間にか、コーヒーを持った彼の左手と柵とに閉じ込められていた。目を閉じる間もなく柔らかなキスをされ、されるがまま目を閉じると下唇を咥えるようにキスが続けられた。わずかなアルコールの呼気が頭をぼーっとさせる。
あ……キスがきもちいい。
唇を離すと数秒、熱を孕んだままの目で見つめられる。自分も今この子と同じ顔をしている気がする。
「止めないんだ」
「え、止める? 」
「うん。こんなとこでキスしても。怒られるかなって思ったのに」
「え、あ、ほんとだ」
「んだよ。酔ってんのそっちじゃね。だって結構ノリノ……」
「ちょっと、やめてよ! もう! 」
「ははは。まぁ、暗いし人がキスしてんのじっと見る奴いないよな。温い視線で見て見ぬふりだろ」
「確かに」
「……人前では気をつけるね」
そう言いながら私にもう一度唇を押し付け、「多分」と付け加えた。
「ちょっともう。あなた、全然気にしてないでしょ」
「しないよ、俺は。あ、そうだ。俺、敬語で喋らなきゃなんだった」
そう言っていたずらっ子みたいに笑う。こんな笑い方したらやっぱり随分と若い。
「いいけど、別に」
そう言ったけど、彼は笑っただけだった。
まだ腕に閉じ込められたままで、背中が熱い。落ち着かないんですけど、これ……。キスなんてしなくてもこの距離感は明らかにイチャイチャカップルで……。気恥ずさに口を開く。
「ねぇ、あなたの元カノ……じゃなくて元奥さんって、もしかして私に似てるたりする? 」
ずっと思ってたこと。だから私が振っても引かずに私にこだわるんじゃないかってこと。
……。
あれ?反応がない。不思議に思って振り向くと、全く考えもしなかったんだろうなっているきょとんとした表情の広睦くんの顔があった。
「全然、似てない。むしろ真逆のタイプだと思います」
「え、あ、そうなんだ」
「何でそう思ったんですか? 」
何でって……。
かぁ、と顔が熱くなった。
前の彼女の面影でもあったから私に執着するんじゃない、なんて言えるわけもなく。真逆のタイプとまで言われてはますます言いにくい。
LAST

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コメント
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「適当に扱いたくない」って言う春美さんの真面目さと、それに応える広睦くんの誠実な軽さのバランスがすごく良かったです。川辺で指を絡めて、顔が熱いって手を当てさせるシーン、ドキドキしました。キスの時の「きもちいい」って素直な感覚が凄く刺さる…。最後の「真逆」に照れる春美さん、可愛すぎました🥀