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なべとチョコ@.
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突如繋がった通信装置。
そこから聞こえてきた声は、紛れもなく誘拐されていた一ノ瀬のものだった。
脱出の経緯を簡単に説明した彼は、すこぶる元気な様子。
『ツーことで俺は平気だ!』
「良かった…」
『(この声…!)鳴海?』
「うん!元気そうで安心した」
『ありがと。心配かけてごめんな。今、遊摺部を捜してる最中だから!』
一ノ瀬曰く…
自分がいる正確な位置は分からないが、何やらホテルのような場所におり、その中のどこかに遊摺部もいるというのだ。
それから彼はスマホを繋いだ状態で同期がいると思われる場所へ向かう。
そこで、衝撃の事実を目の当たりにするとも知らずに…
桃から教えられた部屋のドアを勢いよく開けた一ノ瀬は、そこに捜していた同期の姿を発見する。
何とか話をしようと声をかけ続けるが遊摺部は聞く耳を持たず、ひたすら妹である文乃のことを気にかけていた。
普通に考えれば、部屋で兄妹水入らずの時間を過ごしていたところを邪魔されたからだと思うだろう。
だが一ノ瀬は言うのだ…部屋には自分と遊摺部しかいない。遊摺部はずっと1人で喋っているのだと。
そこへ不意に花魁坂から連絡が入る。
『こちら花魁坂。とんでもないことがわかった…回収した桃の隊員の死体を解剖したら…脳に桃が使う細菌がビッシリ付着してたんだ』
『考えられる可能性があるとすれば…”洗脳”…か』
『洗脳って…じゃあ遊摺部は洗脳されて幻覚見てんのか…?』
『ちょい失礼。じゃあ鳴海のこと襲って来た、あの様子のおかしい桃の隊員も洗脳かな? 隊員全員洗脳できる力量があるってことは幹部クラスだけど、銀も国領も洗脳の能力じゃない…
ってことは、右京の能力は身体強化じゃなくて”洗脳”だったってことになるくない?』
朽森の発言で右京の能力の全容が見えてきた。
となると次に気にかかるのは、彼の力が遊摺部の現状にどう関わっているかだ。
答えは偵察部隊の頼れる副隊長・並木度が持っていた。
遊摺部には確かに妹がいる。だが母が亡くなったのと同じ頃、彼女も行方をくらませたと言うのだ。
そしてその妹の名が、先程会話の中で出た”文乃”であると告げて、並木度は報告を終える。
この時点で大人組は察していた。考え得る限り、一番最悪な状況になっていると…
『おい…死ぬほど胸糞ワリィ考えが浮かんだぞ…!』
『多分…合ってるぜ』
『生きてんなら、わざわざ洗脳して幻覚見せる必要ねぇもんなぁ』
『待てよ…”生きてるなら”って…どうゆう…』
『わかりやすく言ってやるよ。遊摺部は…妹がもう死んでることを知らずに…いいように使われてたってことだろ』
ピンと来ていなかった子供組に、淀川は冷静に事実を伝える。
全てを犠牲にして妹のために動いていた遊摺部。その最愛の少女はもうどこにもいないのだ。
同期たちと担任は、卑劣な右京に対して怒りを露わにする。
溢れる感情をぶつけるように建物を破壊した無陀野だったが、ふと横にいる鳴海が座り込んでいるのに気づくと、静かに膝をついて視線を合わせた。
「鳴海、大丈夫か?」
「平気…ううん。嘘だ。平気じゃないよ。どこまで行っても意地汚い奴らしかいないんだねこの世界は…亡くなった人を使うなんてさ」
俯いたまま震える声でそう言葉を発する鳴海は、普段はしまっているはずの角が額に現れていた。。
他人の死に敏感なこともあり、他の同期とは逆に怒りよりも悲しみの感情が前に出る。
遊摺部が負った心の傷のことを思うと、目からは涙が溢れるのだった。
そんな彼の手を取ると、無陀野は静かに声をかける。
「角出てるぞ。仕舞え。でないと暴走するぞ」
「あっ」
「お前の暴走化は最後の最後に使うものだろう?今は使い時じゃない。」
「無人…」
「今日は泣いてばかりだな。瞳が溶けるぞ…でもこの涙は似合わない」
「!」
「全員が遊摺部のために動いてる。俺も傍にいる。…もう少し頑張れるか?」
「もちろん!俺も、自分にできることを全力でやる!」
そう言った鳴海の目に、もう涙は浮かんでいなかった。
元の強く真っ直ぐな視線を向けてくる鳴海の姿に、無陀野は少し口元を緩めるのだった。
同じ頃、一ノ瀬が捕まっていたホテルでも動きがあった。
彼が提案した高円寺からの撤退を条件に解放された旋律と練馬の隊員たち。
隊員たちの一部はすぐに自身の隊長・副隊長の元へと向かい、残りはホテルに残っているという状態だった。
と、居残り組の隊員たちが不意に大きな音を耳にする。
慌てて駆けつけてみれば、そこにはボロボロになった旋律の姿が…
義理堅い彼は、一ノ瀬と遊摺部を逃がすため1人右京に立ち向かったのだ。
「旋律さん!」
「おい、これヤベェぞ…このままじゃ死んじまうよ!」
「んなこと分かってるよ!でも治療班なんかいねぇし…」
「…なぁ。あの生け捕り命令出てた鬼に頼めねぇかな」
それはもちろん鳴海のことである。
治癒の力を持つ彼を月詠や桜介が迎え入れたいと言っているのを、隊員の誰もが必ず一度は聞かされていた。
この状況で頼りたくなるのも無理はない。
「でもどこにいるか分かんねぇだろ?」
「隊長たち何か知らねぇかな…」
「外出てる奴に連絡取ってみる!」
遊摺部に関する情報共有がひと段落し、無陀野は再び目の前にいる桃太郎へと向き合う。
痛む体に鞭を打ち、月詠と桜介もまた戦闘態勢に入ろうとしていた。
その時、ビルの屋上から彼らの部下が大きな声で呼びかけてきた。
「月詠さぁぁん!桜介さぁぁん!」
「あ?」
「練馬部隊、全員解放されました!」
「あいつら…」
「一ノ瀬に助けられましたぁ!撤退してください!」
「は…?」
隊員たちは尊敬する隊長・副隊長、そして旋律を見習って筋を通す。
黙っていれば済むことを、しっかりと伝えたのだ。
そしてもう1つ。彼らにはやらなければならないミッションがある。
「あと…斑鳩鳴海ー!」
「どぅえ、俺!?」
「お前の力を貸してくれ!」
屋上にいる隊員の1人がそう叫ぶのと同時に、鳴海と無陀野の傍に1台のバイクが止まる。
反射的に鳴海を庇い鋭い視線を向けてくる無陀野にビビりながら、バイクを降りた隊員は彼へ話しかけた。
「治療して欲しい人間がいる。俺と一緒に来てくれ!」
「えっ…」
「何故鳴海がお前らに力を貸す必要がある」
「…大事な人が死にかけてる。でも治療班がいない。だから…」
「鳴海に助けて欲しいと?生け捕り命令を出していたくせに、随分都合がいいんだな」
「それは…」
「おい!その死にかけてる奴って誰だ?」
「旋律さんです…!」
桜介からの問いかけに、隊員はそう言葉を返す。
同期の一大事に目を見開く練馬コンビ。そして驚きを見せた人物はもう1人いた。
「旋律ちゃん!?」
「知ってるのか?」
「華厳の滝で俺の怪我の手当してくれた」
「そういえばそんなことを言っていたな」
「でも、何で旋律ちゃんが…」
「一ノ瀬が逃げる時間を作るために、右京に立ち向かって…それで…」
「! 四季たちのため……無人くん!」
何かを決意したように、無陀野を真っ直ぐ見つめる鳴海。
その目には、援護部隊としての強い想いが宿っていた。
何も言わず彼の頭に手を置いた無陀野は、改めてバイクの隊員を睨みつける。
「こいつに少しでも手を出したら…どうなるか分かってるな?」
「ひっ…!」
「そんなことは絶対にさせない。隊長である僕の首をかけるよ」
「月詠さん…」
「旋律は俺らの同期なんだ。だから助けてやって欲しい…!」
「なるほどねー。いいよ任せて」
本職モードになった鳴海は、自信と慈愛に満ちた笑顔を2人に向ける。
彼の頼もしい姿に、月詠と桜介は一時現状を忘れ見惚れた。
そんなことには微塵も気づかず、鳴海はバイクの後部座席へ跨った。
「じゃあ無人くん、行ってきます!」
「あぁ。何かあればすぐに行くからな」
「逞しい〜♡」
「…いつでも傍にいることを忘れるなよ」
そう言いながら、無陀野は鳴海の耳に装着されている通信装置をトントンと優しく叩いた。
これで助けを呼んだ時、言葉の通りすぐに来てくれたことを思い出す。
どれだけ離れていても、彼にとってその距離はないに等しい。
大切にしている妻が相手なら尚更である。
無陀野・月詠・桜介…自分のことを憎からず思っている男たちに見送られ、鳴海は助けを待っている人の元へと向かった。
コメント
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いやー、第94話も熱かった…!遊摺部の妹がもういないって真相、胸糞悪すぎるし、それを知った鳴海の涙と無陀野の「角出てるぞ」のフォローがめちゃくちゃ沁みたわ。右京の洗脳能力、ずるすぎるけど敵としての魅力はガチ。旋律のために鳴海が動く展開もアツいし、無陀野の「いつでも傍にいる」で終わらせるところ痺れるね。白米さん、今回も最高でした🔥