テラーノベル
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空気に冬の匂いを感じるようになってきた。クリスマスまではあとひと月ほどだ。街には光の点滅が増えてきている。
クリスマスを一人で過ごすことが当たり前となって早数年。彼女がいた時もあったけれど、それもだいぶ前のことだ。
しかし、今年のクリスマスは一人じゃない。一緒に過ごす人がいる。
その人は、ずっと昔のある時期に片思いをしていた相手で、この春の終わり頃、十数年ぶりに再会した。
そんな奇跡って本当にあるんだなとしみじみ思い、そしてまた、やっぱり彼女は俺にとって特別な人だったことを、改めて知ったのだった。
さて、付き合い始めて何度目かのデートの今日、ソファに座る彼女の隣で俺はぼそりとつぶやいた。
「クリスマスはどうしようかな……」
それを耳にして、彼女は雑誌をめくっていた手を止めた。
「何も特別なことをする必要はないと思うけど」
彼女が言うのも、まぁ、分かる。しかし俺としては、愛する彼女と俺自身のために、クリスマスらしいことを何かしたい。
初めてのクリスマスデートということで、これはやはり、ちゃんとしたレストランでのディナーがいいだろうか。けれど、今から予約するのは難しそうだ。
それならばどちらかの部屋で、ケーキや料理などを用意して、二人だけのクリスマスを過ごすというのはどうだろう。食事の後は映画でも見ながらのんびりと寛ぐ。その流れで、いつもよりももっと、いちゃいちゃできたらいいんだけど、などと想像が膨らみ始め、はっとする。
今の俺の頭の中を彼女には知られたくないなと思いながら、俺はちらりと目線を右隣に向けた。
彼女は再び雑誌をぱらぱらとめくり始めていた。何か興味のある記事を見つけたのか、開いたページを真剣な顔で見ている。
ふと彼女の耳たぶに目が行った。今日はそこにサファイアブルーのピアスがあった。
「そのピアス、どうしたの?」
「これ?この前ちょっと実家に帰ったんだけど、その時、母からサファイヤのイヤリングをもらってね。それをピアスにリメイクしてもらったの」
「へぇ、そうなんだ。可愛いね」
俺は腕を伸ばして彼女の耳にそっと触れ、すりすりと撫でた。
「きゃっ!」
彼女は驚いた声を上げて肩をすくめた。
「ちょ、ちょっと、迅君……」
恥ずかしがる顔が、また可愛い。俺はくすくす笑いながら彼女に訊ねる。
「クリスマスプレゼント、欲しいものはあるの?」
「ほしいもの?そうねぇ」
彼女は少し考え込む様子を見せていたが、にっこりと笑って首を横に振る。
「特にないかな」
無欲なのか、それとも俺に気を使っているのか、いずれにしても、何もないと言われるのはちょっと寂しい。そう思った時、彼女が恥ずかしそうに付け加えた。
「迅君と一緒に過ごせるだけで十分だと思うから」
「っ……」
そんな可愛いことを言う彼女を、今すぐ抱きしめ押し倒したくなった。けれど俺は自分の欲求をなんとか抑え込んで礼の言葉を口にする。
「ありがとう」
「ちなみに迅君は?クリスマスプレゼントに何がほしい?」
訊ねられてうっかり口走りそうになった。
美祈ちゃんの心だけじゃなく、全部――。
しかしその台詞をごくりと飲み込んだ。手を繋いだり、キスをしたりの俺とのスキンシップに、だいぶ慣れてきたようだが、その先の触れ合いを彼女が解禁してくれるのは、多分もう少し、いや、まだ先だろう。
「俺はもうプレゼントをもらってるから、ひとまずはいらないかな」
「え?何かあげたっけ?」
不思議そうに訊き返す彼女に俺は頷く。
「うん。もらった。美祈ちゃんっていう恋人をね」
あっという間に真っ赤になった彼女は愛おしすぎて、俺の頭も心もどうにかなりそうだった。
(了)
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