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こちらの茨さん🖌️
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こいつとは絶対仲良くしない
硝煙の匂いが、肺に張り付く。
視界は悪い。
崩れた建物、舞い上がる粉塵、散発的な爆発。
「右、三人来ます」
冷静な声。
「分かった」
即答。
春翔は迷いなく地面を蹴った。
(速ぇな)
内心で舌打ちする。
——突っ込むのが早すぎる。
「待てって言ってんだろ……!」
小さく吐き捨てながらも、茜は動く。
指示を出す前に動くなら、せめて“その動きが通るように”整えるしかない。
「左の遮蔽物、三秒持たせます」
「助かる」
(だから返事だけは素直なんだよなこいつ……!)
茜は銃を構え、躊躇なく引き金を引く。
乾いた音。
敵の進行が一瞬止まる。
その隙を、春翔が踏み込む。
「——っ!」
近距離。
迷いなしの一撃。
一人。
二人。
「後ろ!」
「分かってる」
振り向きざまに蹴り飛ばす。
(判断が早い)
——いや、違う。
(…こいつ考えてねぇ)
なのに。
(なんで成立してんだよ……)
ありえない。
普通なら破綻する。
作戦も、連携も、全部無視した動き。
なのに。
「上、来ます」
「任せる」
「……は?」
一瞬、思考が止まる。
(任せるってなんだよ)
でも体は動く。
屋上の敵を撃ち抜く。
その瞬間、
春翔は一切迷いなく前へ出た。
「……っ!」
(……は??)
理解する。
(今のタイミングで前出るのかよ)
普通は躊躇する。
上の敵を処理するまで待つ。
でもこいつは違う。
——“来る前提”で動いてる。
(俺が撃つって分かってた?)
ありえない。
指示もしてない。
合図もない。
なのに。
「ナイス」
短く、声だけ飛んでくる。
(……なんだよそれ)
腹が立つ。
全部見透かされてるみたいで、気に食わない。
でも同時に、
(……動きやすい)
一瞬でもそう思ってしまった自分に、さらに苛立つ。
⸻
爆発音。
最後の敵が吹き飛ぶ。
静寂。
煙の中、立っているのは二人だけ。
「……終わりか」
春翔が呟く。
「……一応」
周囲を警戒しながら答える。
(被害、最小限……)
奇跡に近い。
この状況、この相方で。
(……ありえねぇ)
「なぁ」
振り返ると、春翔がこっちを見ていた。
煙の向こう、炎の揺れる中で。
「……なんですか」
「茜といると」
一歩、距離が縮まる
「……?」
「ドキドキするのはなんでだと思う?」
「は?」
思考が止まる。
(……は???)
「……なんて?」
「だから」
変わらない声音。
「茜といるとドキドキする」
煙と焦げた匂いが、まだ鼻に残っている。
背後では、さっきまで生きていたものが燃えている音がしていた。
その中を、二人で歩く。
沈黙。
(……なんなんだ、さっきの)
頭の中で、同じ言葉が何度も繰り返される。
『茜といるとドキドキする』
(いや意味わかんねぇだろ)
ちら、と横を見る。
春翔はいつも通りの顔で、前を見て歩いている。
息も乱れていない。
(いや、顔の問題じゃねぇんだよ)
「茜」
「……っ、」
不意に名前を呼ばれて、肩が跳ねた。
「大丈夫か」
「……は?」
「さっきから、変だ」
(誰のせいだと思ってんだこいつ)
「別に」
「そうか?」
じ、と見られる。
(見るな)
「……問題ありません。任務も完了しましたし」
思わず、外面の声が出る。
丁寧で、無難で、何も波立たせない声。
「……」
一瞬、間が空いた。
「茜」
「……はい」
「それ、誰に向けてる」
(は?)
思考が止まる。
「誰って」
「今、俺しかいないだろ」
「…………」
「なんで敬語なんだ」
(……っ、)
心臓が、変な跳ね方をする。
(なんでそこ突っ込んでくんだよ)
「……癖です」
「嘘だな」
即答だった。
「お前、最初に会った時はずっとそれだったけど」
淡々とした声。
「今は違う」
「…………」
「どっちが本当だ」
(……は?)
何を言ってる。
(どっちってなんだよ)
「どっちでもいいでしょ」
「よくない」
間髪入れずに返ってくる。
「俺は、さっきの方がいいと思った」
「は?」
足が止まりそうになる。
「動きやすい」
「……はぁ?」
「無駄がない」
「……戦闘の話?」
「それもある」
(それ“も”???)
「あと」
少しだけ、間を置いて。
「そっちの方が、茜らしい」
「――――っ、」
言葉が詰まる。
(なんだよそれ)
「……別に、あんたに“らしさ”決められる筋合いねぇんだけど」
気づけば、声が低くなっていた。
外面が、剥がれていく。
「あぁ」
あっさりと、春翔は頷いた。
「だから、俺の勝手な感想だ」
(……なんなんだこいつ)
否定も、訂正もしない。
ただ、そのまま受け取ってくる。
(ホントなんなんだよこいつ💢)
アジトの扉が閉まる。
「おかえりー……ってうわ、派手だな」
「報告、します」
茜は前に出る。
声は、いつも通りの外面。
「対象一名、確認後交戦。春翔と連携し、排除――」
「おうおう、さすが相方サマだなぁ」
横から茶化す声。
やじ。いつものやつ。
「で?被害は?」
「軽微です。周囲への影響も最小限に――」
言葉は滑らかに出ている。
(問題ない)
(いつも通り)
(……なのに)
胸の奥が、ずっとざわついている。
止まらない。
(なんだよこれ)
「おう、さすがだな」
「いい連携だったらしいじゃん?」
やじが飛ぶ。
「……以上です」
言い切る。
(よし)
(終わり――)
「やっぱり気になる」
「――――」
横から、声。
「さっきの答え、聞いてない」
(は?)
ゆっくりと、振り向く。
春翔はいつも通りの顔で立っている。
「なんでドキドキするのか」
静かな声。
本気で、分からない顔。
「……っ、」
(……は?)
(なんでここで、それを言う)
周りの空気が、一瞬だけ変わる。
「……は?なにそれ」
「春翔それ今言う!?」
「空気読め!!」
「報告終わった直後に惚気はいいって!!」
やじが飛ぶ。
でも、春翔は気にしない。
「気になる」
ただそれだけで、言っている。
(……っ、)
その瞬間、
全部、繋がった。
『茜といるとドキドキする』
『そっちの方が、茜らしい』
名前を呼ぶ声。
何度も、何度も。
『茜』
(……あぁ)
(こいつは)
(こいつは最初から――)
⸻
――はじめまして。
にこり、と笑う。
「茜です。よろしくお願いします」
外面の顔。
完璧な笑顔。
その正面で、
「……」
春翔は、つまらなさそうにこっちを見た。
「小さいな、お前ほんとに戦えんのか?」
(は???)
「名前も女みてぇ」
(は??????)
「ほんとに男か?」
この会話で、こいつとは絶対に仲良くしないと誓った。
——二度と、関わりたくないと思った。
⸻
(……っ、)
(……あぁ、そうだ)
(こいつは、こういうやつだ)
(人のことなんて何も考えてなくて)
(思ったこと全部そのまま口に出して)
(デリカシーなんて欠片もなくて)
(――――)
(……そんなやつが)
(俺に)
(ドキドキ、するとか)
⸻
「――ふざけんな」
頭の中で何かが弾ける
気づいたら、口から出ていた。
「…?」
次の瞬間、
拳が、春翔の顔にめり込む。
「っ、」
鈍い音。
空気が固まる。
「おい!?!?」
「は!?茜!?!?」
やじが一斉に飛ぶ。
でも止まらない。
「なに考えてんだよお前!!!!」
もう一発、振り抜く。
「なにをどうしたらそうなんだよ!!!!」
「茜」
呼ばれる。
「触んな!!!!」
払いのける。
(意味わかんねぇ)
(意味わかんねぇだろ!!!!)
「……報告は、以上です」
何事もなかったように、声を作る。
「任務は問題なく完了しました」
「お、おう……?」
空気がぐちゃぐちゃのまま、
それでも、言い切る。
(ちゃんとやれ)
(ここは、ちゃんと)
(――じゃねぇと)
「……失礼します」
踵を返す。
「茜?」
また、呼ばれる。
(呼ぶな)
「待て、茜」
(来んな)
「さっきの――」
振り返って、
もう一発、殴った。
「聞くな!!!!」
そのまま、走り出す。
廊下を、一直線に。
後ろで、
「うわ、夫婦喧嘩???」
「旦那がやらかしたなー」
「違ぇだろあれ奥さんブチギレだろ」
好き勝手な声が飛ぶ。
(うるせぇ!!!!)
(全部うるせぇ!!!!)
走りながら、
頭の中がぐちゃぐちゃになる。
(だってあいつは、)
(……っ、違う)
(あいつが俺に恋なんてするはずない)
(あんなやつが)
(あんな、)
「――っ、」
足を止めそうになる。
でも止めない。
(……するはずないだろ)
(絶対に)
(だから)
(だからこれは)
「――なんなんだよ!!!!」
誰もいない廊下に、声が響いた。
そのまま、
答えは出ないまま、
夜になる
二度と関わりたくないと思った。
「決まりだな」
「……は?」
「お前ら、組め」
「は???」
「相性いい。以上」
——最悪だと思った。
静まり返った部屋に、荒い呼吸だけが残っていた。
「……はぁ、はぁ……」
——ほんと、最悪だ。
こんなやつと組まされて。
こんなやつの言葉、思い出して。
——なんで、こんなに残ってんだよ。
「……は???」
枕に顔を埋める。
「なんでだよ!!!!」
——さっきの硝煙の匂いが、まだ残っている気がした。
ぐしゃっと枕に顔を押し付ける。
視界の奥に、あの日の光景が滲む。
声がくぐもる。
「社長も社長だ!!!!」
「相性いいってなんだよ!!!!」
「あいつだぞ!!!!?」
ぐっと目を閉じる。
意識が、沈む。
——気づけば、また“あの日”に戻っていた。
⸻
「なぁ」
「……なんですか」
初任務。まだ、組んで間もない頃。
隣にいる男は、いつも通り距離が近い。
「お前ほんと動きやすいな」
「体が小さいからか?」
「……💢💢💢💢💢」
反射的に顔が引きつる。
「はは、そーかもしれませんね」
——こいつはいつまで人を馬鹿にすれば済むんだ。
内心は大炎上。それでも笑顔は崩さない。
「なぁ、これどうすればいい?」
「今考えてるんでちょっと黙っててもらっていいですか?」
「そうか。じゃあ俺は先に突っ込むな」
「待てって言ってんだろ💢💢💢」
——作戦?なにそれ美味しいの?な脳筋。ホントバカじゃないの。
……なのに。
(……なんで成功してんだよ意味わかんねぇ)
結果は、毎回“成功”。
それが、余計に腹立たしい。
⸻
「お前さぁ💢」
ある日、ついに限界が来た。
「初対面から失礼すぎるしクソうぜぇんだけど💢💢」
「……?」
「“?”じゃねぇよ!!」
「俺、なんか言ったか?」
「は?」
「いや怒るとこあったか?」
「……💢」
「お前、さっきからずっと機嫌悪いよな」
「……は?????」
拳を握る。
(なんだこいつ)
(馬鹿にしてんのか?)
(それとも、本気で言ってんのか?)
「……クソ野郎が💢💢💢💢」
「そうか……怒らせてたのか……」
ぽつりと落ちた言葉。
その顔は、驚くほど真剣で。
(こいつ……)
(マジでわかってなかったのかよ)
純度100%の無自覚。
それが、余計に苛立ちを煽る。
——どっちにしろ、最悪だ。
⸻
数日後。
「……なぁ」
「なんですか」
「先輩に聞いたんだが」
「嫌な予感しかしない」
「これ」
差し出されたのは、場違いすぎる——花束。
「は?」
「仲直りする時は花がいいって」
「は???????????」
(こいつバカなの!?!?!?)
任務中だぞ。銃持ってるんだぞ今。
「……すまなかった」
真顔。
あまりにも真っ直ぐな謝罪に、言葉が詰まる。
「……はぁ……」
(怒るのも疲れるんだけど……)
「……まぁいいですけど……」
(……怒るの、疲れた)
「そうか。よかった」
一歩、近づく。
「——っ」
(距離近い近い近い!!!!!!)
思わず後ずさる。
その時。
——ほんの一瞬。
あいつが、笑った気がした。
「……は?」
(今、笑った?)
胸の奥が、わずかにざわつく。
理解できない違和感。
言葉にできない何か。
——なんだよ、それ。
⸻
「小さいな……壊れそう。本当に戦えんのか?」
初対面の、最悪の一言がよぎる。
「えーそーですかー?笑」
(は????なにこいつ💢💢💢)
あの日、そう思った。
「決まりだな」
「……は?」
「お前ら、組め」
「は???」
「相性いい。以上」
——最悪だと思った。
この会話で、こいつとは絶対に仲良くしないと誓った。
——二度と、関わりたくないと思った。
⸻
「……っ」
目が覚める。
荒い呼吸が戻る。
天井が、やけに遠い。
「……最悪……」
ぽつりと呟く。
けど。
——なんでだよ。
あいつの言葉も、
あいつの顔も、
あいつの、あの一瞬の笑いも。
「……残ってんだよ……」
ぐしゃっと枕に顔を押し付ける。
静かな部屋に、くぐもった声が響く。
「……あいつが俺に恋なんてするはずないだろ……」
一拍。
沈黙。
「……っ、なんで俺があいつのこと考えなきゃいけないんだよ!!!!💢💢💢💢」
枕に拳を叩きつける。
——それでも。
消えない。
⸻
そして翌日。
「茜」
呼ばれる声。
「……なんですか」
振り返る。
そこには、いつも通りの顔。
いつも通りの距離。
そして——
「やっぱり気になる。さっきの答え、聞かせてもらってないし」
「……は?」
「お前といると——」
——ドクン、と。
(ドクン、?)
一拍遅れて理解が追いつく
——心臓が、鳴った。