テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#このキャラでログインしたい
298
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「白川く~ん? オーイ、白川 努君~。君のデスクにもモニタリング映像送るから、見てみなよ。妹さん、本気で凄いよ?」
「ハハッ、どうも。でも俺は街中の監視カメラの映像限定って事で、サポートを許されてるんで」
「見るだけですよー、そっちを見ながら助言は禁止でーす。妹さんからも、戦闘中は煩いって怒られたんでしょ? なら静かに、こっそり見なさいな」
近くの席の上司が、笑いながらそんな事を言ってPCを操作。
するとこっちのモニターに、ゲーム内の監視カメラとは比べ物にならない程の情報量が詰め込まれた、現在の戦闘映像が。
夢月が戦ってる三人のプレイヤー、どうやら一人はβテストのプレイヤーみたいだ。
残る二人を彼が引率する形でゲームを始めた感じか……。
ちなみに、先程夢月が倒したのはガチの初心者。
チュートリアルを終えたばかりで、それこそ初期装備のまま此方に勝負を吹っ掛けて来たらしい。
一つしか無い武器を妹に奪われた事により、かなり慌てているみたいだが……どうにかその人物を落ち着けて、回復を促しているのが経験者という形。
そして残っているもう一人の新規プレイヤーはと言えば。
どうやら、他のゲームでガンアクションには慣れている雰囲気はあるけど……この状況で、一人で突っ込んでしまったではないか。
思わず、ククッと小さな笑い声が漏れてしまった。
それはちょっと愚策、というか無謀。
とにかく周囲を警戒して、敵が襲撃してきた場合に仲間を守る為の牽制役を務めれば良かったものを。
あろう事か、経験者の警告を無視して単独行動を取ってしまったではないか。
他のゲームと違って、ガンサバイブオンラインには分かりやすいステータスの恩恵や、所謂“バリア”みたいな物は存在しない。
どんなにやり込んだプレイヤーだろうと、後ろからズドン。
たったそれだけで、簡単に負けてしまうのだ。
その結末を回避する為に、一番必要なのは経験と普段からの警戒心。
そして防御の為の“装備”になって来る訳だが……あまり派手な武装にすれば、簡単にプレイヤーだとバレてしまうという、諸刃の剣。
こういったバランスを調整しながら、更には状況に合わせて装備を変更する事が前提のゲーム。
しかもそれだけではなく……今相手しているのがウチの妹というのが、彼等にとって一番の不幸だった。
本人には脅しのつもりで、お前はズルいステータスなんだぞって散々言っておいたが。
実の所、βテストプレイヤーだってやり込んだ人物は多い。
ソレを正式な方法でコンバートしているか、こっちの管理の下コンバートしたかの差程度のモノ。
数字だけ見るなら、アイツが学校に行っている間もプレイを続けていた人物とそう変わりはないのだ。
そして武装の方も、チュートリアルをスキップしたプレイヤーには初期装備として妹と同じハンドガンが送られて来る。
つまり実際のところ、本当に他のプレイヤーと数字的な違いは殆ど無いという事。
だがしかし夢月最大の武器は、そこじゃない。
「ハハッ、流石。ウチの妹は、マジでフルダイブにおいての“天才”だ」
敵が踏み込んで来た瞬間、相手のつま先に銃弾を叩き込んだ夢月。
向こうが反応を示すのを待つ事もしないで、そのまま飛び込み腹に二発。
軽いノックバックの様なダメージ判定が出ると同時に、今度の相手の武器も奪い取った。
そしてマガジンを確認したと同時に、迷うことなく今使っていた方の銃を捨てて新しい物に持ち替える。
そう、それで良い。
戦場に立っている状態で、呑気にマガジンに弾込めをしている暇なんぞ無い。
ましてや銃が違うのなら、マガジンだって互換性が無い。
だからこそ弾薬が多い方の銃に持ち替え、それを使い終わったら自分の武装を改めて使う。
あまりにもゴチャゴチャと武器を持ったところで、はっきり言って“邪魔”なのだ。
相手からしたら自分の武器を雑に扱われる訳だから、かなり嫌なプレイスタイルだろうが……実際、夢月はこのスタイルでテストプレイのステージを全てクリアした。
普通なら数多くの武器を使い、状況に合わせて大型の武装だって必要だろうと想定された場面でさえ。
たった一丁、ハンドガンだけを手にした“縛りプレイ”の様な状態で。
普通の人間なら、当然自分本来の身体の感覚を覚えている。
だからこそフルダイブした状態で、自らの身体以上の何かを求めれば……感覚がズレ、上手く操作出来ない事の方が多い。
これ等に引っ張られながらも、何とか強キャラを演じるプレイヤーだって多い中。
俺の妹は、何処までものめり込んで“キャラクターそのもの”の感覚を掴み取る。
現実の自分なんて忘れてしまったかのように、彼女の精神がそのまま画面の中のキャラクターになってしまったのではないかと錯覚する程に。
つまり、ステータスを上げれば上げる程。
夢月は“ズレる”事無く、キャラクターが強化された分だけ……文字通り、強くなっていくのだ。
その結果が、コレ。
画面に映るスーツの渋いおっさんは、傍から見れば凄腕の殺し屋か何か。
無駄な動きを一切せず、表情のリンクを遮断した事により顔をピクリとも動かさず。
淡々と、目の前の敵を狩り取っていく。
初期のハンドガン一丁で、三対一で、更には俺の出した“殺さず”の条件も達成したまま。
「さてさて、お次はどうする? さっきの一人は孤立して回復中、残る相手は二人。しかも一人はβテスト経験者だぞ? 片方はお前に奪い取られて武器が無いみたいだが……」
ククッと口元を吊り上げながらも、妹の動きを観察していると。
意外にも、真正面から飛び込んだ。
おや、夢月にしては珍しい。正面から撃ち合うつもりか?
などと思っていれば、相手が居る部屋に入った瞬間物陰にスライディングで飛び込み。
そこからすぐに飛び出すフリをして、スーツのジャケットを投げた。
これに対して相手が発砲した瞬間、少しだけ身を乗り出した妹は銃を構え……一瞬迷ってから相手の腹部へと数回発砲。
ヒットエフェクトが発生したと同時に飛び込んで、相手の武器を蹴り飛ばし、残った無手の一人に対して銃を構えた。
プッ……アイツ、さっき無意識にヘッドショットを狙ったな?
これくらいの距離なら、未だ射撃に慣れていない妹でも撃ち抜ける距離だった筈。
だからこそ、若干のタイムラグが出た。
もしも今この場で“キルして良い”と言っておけば、そもそもこんな時間すら必要とせず全員を片付けた訳だ。
いやはや、我が妹ながら恐ろしい才能だよ。
たった数週間やり込んだだけで、もうこんなにもこのゲームに馴染んでしまっているのだから。
その後、倒れている相手と武器を持っていないもう一人も両手を上げた。
これにより戦闘は終了。
一応相手の武器のマガジンと、チェンバー内からも弾を抜いて、銃を遠くに放り投げた妹は……無表情のまま、その場去っていく。
やっばい、これは凄い。
今日サービスが開始されたばかりだというのに、本番一発目でコレか。
しかも夢月は、普段PVPをやらないのだ。
それでもこれだけ強く、更には見ている人間達を“魅了する”戦闘を繰り広げた。
近くの席で、会社の仲間達も妹の戦闘を見ていた様だが。
そっちからは「おぉぉ~!」という歓喜の声と、このままPVに使えないかという声まで聞えて来る程。
でもその気持ちが分かるくらいに、今の戦闘はスマートだった。
まさに社会の裏側に生きる、日常に身を潜めるキラーそのもの。
無駄のない動きで、複数の敵をあっと言う間に制圧する。
まるで何かの映画を見ている様な気分になって来ると言うものだ。
そんな訳で、未だククッと歪んだ笑い声が漏れてしまうが。
『お兄ちゃん、聞こえる?』
妹の方から、随分と渋い声で通信が入った。
相変らず、おっさんの声で“お兄ちゃん”って呼ばれるの……慣れねぇけど……。
「おう、聞こえるぞ。ちゃんと生き残ったか」
こっちでも運営のズルを使って見ていたぞ、とは言う訳にもいかず。
知らないフリをしながら声を返してみると。
『とりあえず、勝ったよ。誰もキルしてない……筈。それで、さ……一つ相談というか、聞きたいんだけど……』
何やら自信無さそうな声を上げる妹に首を傾げてみると、画面に映る渋いおっさんは路地裏でスーツのジャケットを広げてからため息を零し。
『スーツ……穴開いちゃった。これ、どうすれば直るの? 新しいのを、どこかで買わないと駄目?』
その声に、思わず吹き出してしまった。
というか、会社の仲間達なんか爆笑していた。
あれだけの戦闘を繰り広げて、あんなにも格好良く戦場を立ち去ったのに。
真っ先に心配する事が、スーツかよ。
『わ、笑いごとじゃないよ! 民間人に紛れるのに、弾痕残ってたらすぐバレちゃうって! それに、これ格好良かったから結構気に入ってたのに……』
「ぶはははっ! そりゃ残念だったな。まぁ良いや、それじゃ一旦ホテルに向かうか。そこで一度ログアウトしてくれ、これからのプレイスタイルもこっちで会議してからになるが……初期装備のスーツくらい、新しいのを支給してやるよ。多分問題無く許可が下りる、なんたって“運営特権”だからな」
『ホント!? 良かったぁ……でも私、ホテルの場所知らない……』
「案内するから、そのまま進め。向かってる間に、またPVP吹っ掛けられるなよ?」
『PVP、意外と楽しかった……』
「そうかい、なら良かった」
表情が緩んでしまう様な会話を繰り広げている訳だが、画面の向こうで喋っているのは渋いおっさん。
そして聞えて来る声も、おっさん。
なんだろう、色々と感覚がバグりそうだ。
そんな事を思いつつも、その後は妹をナビしながらも初日の様子見は終了。
プレイ時間自体はとても短かった訳だが……しかし、かなりの収穫があったと言って良いだろう。
夢月の本番での戦闘を、映像記録に残せたのだ。
コレを上に提出し、本格的に妹を“運営側”にねじ込む事が出来れば……これまで以上に、面白い事が出来そうだ。
プレイヤーに紛れたレイドボス的な存在として、このゲームに存在するNPCとは全く違うキラーとして。
分かりやすくステータス爆盛のエネミーではなく、プレイスキルのみに依存した強敵のキャラクター。
プレイヤーでも到達できる場所に立ち、他のプレイヤーでは足元にも及ばない“上位存在”。
こういう正々堂々って感じの、運営からプレイヤーに向けての挑戦状。
荒れるぞぉ……良い意味で。
抑止力的な効果はもちろんの事、こういうプレイヤーを中心にイベントを開催すれば、それこそ普段とは違う形で盛り上がる事だろう。
こういう刺激は、ゲーマーの闘争心に火をつける。
燃え上がれば燃え上がる程、運営陣は潤っていくという訳だ。
などと考えつつも、妹がログアウトするのを見届けてから、こちらもヘッドセットを外した。
さぁて、残りの仕事を片付けたら今日はさっさと帰ろう。
サービス初日ではあるけど、夢月の事もあるから定時退社が許されているし。
帰りに御褒美のデザートでも買っていってやるかぁ~。
良く出来ましたって、ちゃんと褒めてやらないとな。