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萩原なちち
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目の前で背伸びをして、一生懸命に目線を合わせようとしてくる。なんなんだ、この可愛さは。……俺に、キスしてほしいのか?
「いくつあるんですか? 身長」
「170センチで止まっちゃいました。せめてあと3センチ欲しかったんですけど」
「……俺は、ちょうど抱きしめやすくていいと思います」
「あっ、いつきさん……っ」
気がつけば、ゆうたさんの腰に腕を回して、ぎゅうっと自分の方へ引き寄せていた。
だめだ。もう俺、自分を止められないかもしれない。
「……ほら、ちょうどいい。俺の腕の中にぴったりだ」
「……僕、荷物いっぱい運んだから、汗臭くて……恥ずかしいです」
「俺の方こそ、一日中外回ってたからヤバいと思います」
あー、ヤバい。違う意味で、本当にヤバい。
ゆうたさんの首筋に顔を埋める。汗の匂いと、ふんわり香る柔軟剤が混ざり合って、鼻の奥を強烈に刺激する。ずっと嗅ぎ続けていたら、理性が粉々に砕け散ってしまいそうだ。
「……昨日の返事、冗談でしょ?」
「え、いや……本当です。さ、最近、気になる人もできて」
「……それ、俺のことでしょ?」
「……違います。僕は女性が好きで、いつか、本当に好きになった人と幸せな家庭を作るのが夢で……」
「俺だって、同じです。女性しか好きになったことはないし、幸せな家庭も作りたい」
「……冗談だったんですか? 僕を好きって言ってくれたの」
俺の腕から逃れて、ゆうたさんが涙目で俺を見つめてくる。
あぁ、面倒くさい。この、拒絶しているようで縋り付いているような瞳が……たまらない。
「……俺は、初めて男の人を好きになって、正直戸惑ってます。今の今でも、どうしていいか分かってない。でも、相手が男だろうが女だろうが、先のことがどうなるかなんて誰にも分からない。ただ、好きになった人に気持ちを伝えたいし、一緒にいたいし、触れていたい。……ゆうたさんのことが本当に好き。それだけじゃ、ダメですか?」
あ、思い出した。
俺、前の彼女にこんな感じで持論をぶちまけてプロポーズして、速攻で振られたんだった。こわ。デジャヴすぎて、今さら手が震えてきたんだけど。
「……ごめんなさい。本当に、いつきさんの気持ちには……」
なんだよ! さっきまであんなに好きそうな顔してたくせに!
もう、どうしてほしいんだよ!!
「じゃあ、いいです。付き合ってくれなくても。……俺の好きなようにさせてもらうから」
「だめ、いつきさん……っ!」
勢いに任せて、ゆうたさんの唇を奪った。
驚きに固まる彼を構わず、貪欲にその温度を確かめる。
……けれど、やりすぎてしまった。
微かに血の味がして、俺は真っ青になって引き下がった。
我に返って、慌てて顔を離す。
けれど、そこには拒絶の表情なんてなかった。
ゆうたさんは、蕩けたような瞳で俺を見上げ、呟いた。
「……だめって言ったのに……全部あんたのせいだから」
えぇ~……なんかゆうたさん、急にキャラ変わった!?
「……あんた、現実見た方がいいよ。どうせ本当の俺を知ったら、ガッカリするんだろ?」
「そんなこと――」
自らボタンを外し、シャツの隙間から白い肌がのぞく。
思わずゴクリと喉が鳴った。……本当に綺麗だ。
想像していた通り、いや、それ以上に。
けれど、彼がそれ以上を拒むように肩を震わせた瞬間、小さく鼻を啜る音が聞こえた。
待って。泣いてる……?
「いいです。それ以上は。……言いたいこと、分かったから」
「……分かってないから、こんなことになってんだろ。俺がどんだけ――」
「いいって! 分かったから!」
ダメだ。ずっと感情が昂っていて、上手くコントロールができない。
俺の身勝手な行動で、いつも優しいゆうたさんを怒らせて、傷つけてしまった。
……もう、俺、生きてる価値ねぇわ。
「ごめんなさい。……本当に、ごめんなさい。友達でいるって約束、守らなくてごめんなさい」
もう、なんて言っていいのかも分からない。
力なく床に座り込んでしまったゆうたさんの涙を、指先でそっと拭う。
ハンカチは上着の中だ。取りに行くのも違う。
咄嗟に、涙の跡をなぞるように触れた。
これじゃ、何の役にも立たないかもしれない。
でも、やっぱり――。
されるがままになっているゆうたさんは、驚くほど脆くて、愛おしい。
「……ねぇ。俺の気持ちって、いつからバレてたの?」
「……初めて目が合った時。もう俺のこと好き、って目をしてました」
「こわ。エスパーかよ」
子供っぽく悪態をつくゆうたさんに、今度は優しく、触れるだけのキスをする。
「……いつものゆうたさんも、今の口が悪いゆうたさんも。俺は本気で大好きです」
「……絶対嘘だ。こんな俺、好きなはずない。こんな可愛くない俺なんて……」
「じゃあ、信じてもらえるまで言い続けます。俺はどんなゆうたさんも好き。性別なんて関係ない。ゆうたさんという人が、好きなんです」
さっきまでのトゲが嘘のように、少しずつ俺の胸元に顔を埋めてくる。
なんだ。……素直になれない子猫みたいで、死ぬほど愛おしい。
「……僕、ずっと、自分の気持ちを隠すのが当たり前の世界にいたんです。諦めることに慣れすぎて、いつの間にか、好きな人の幸せを遠くから願うことしか、できなくなってた……」
今にも甘えた声を出しそうなほど、俺の体にすがりついてくる。
ごめん、ゆうたさん。可愛すぎて、今の話の内容が半分も頭に入ってこねぇわ。
「……いつきさんに、他に好きな人ができるまで。僕のこと、一番近くに置いてくれますか?」
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