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今年が終わる。
毎年毎年思うが、
1年というのは早いものだ。
そもそも1日があっという間すぎる。
正直24時間じゃ足りない。
…そうだ。
そんなことを言っている場合ではなかった。
君のところへ行く準備をしないと。
俺には
桃くんという名の親友がいる。
桃色の髪に
深い青色の目。
スラッとしつつも少しガタイの良い体。
猫が好き。
俺と同い年で、
2月で24歳。
…たぶん。
高校からの付き合いだから
周りから見たら浅い関係に見えるかもしれないけど
全くそんなことはない。
それは断言できる。
高校時代の桃くんは
いわゆる“陰キャ”だった。
ずっと暗くて
笑顔もない。
教室の隅っこで
ぼーっと窓の外を眺めているような子だった。
メガネとマスクは外さないし
お昼は教室ではないどこかで食べる。
顔も見たことのなかった彼と
仲良くなったきっかけは
高2の学校祭だった。
うちのクラスのステージ発表は
“シンデレラ”。
俺も桃くんも裏方で
俺たち二人は
かぼちゃの馬車を作ることになった。
今までは話したこともなければ
そもそも存在に気づいていなかったくらい
距離が遠かった俺たちだけど、
二人で作るとなれば話すしかない。
もちろん桃くんから話しかけてくれるわけないから、
俺から話しかけた。
紫 『名前…聞いてもいい?』
桃 『…桃』
紫 『ごめん、もう一回いい?』
桃 『桃…です、』
紫 『声…かっこいいね』
自分を名乗るよりも先に出たその言葉。
初めて聞いた桃くんの声は、
ものすごくかっこよく感じた。
というかかっこよかった。
桃 『…いえ、』
紫 『……あぁ、ごめん』
紫 『俺は紫』
紫 『紫ーくんって呼ばれてるよ』
桃 『紫ーくん…、』
紫 『うん』
紫 『……桃くんって呼んでもいい、?』
桃 『コク…』
紫 『ありがとうニコ』
初めて話した時は
それ以上何かコミュニケーションを取ることはしなかったけど、
毎日二人で過ごすうちに、
段々と彼のことが見えてきて、
彼も心を開いてくれているのがわかった。
ある時、
一緒にお昼を食べないかと誘ってみた。
でも、「ごめん、」と断られて、
どうしてなのか尋ねてみたけど、
答えてくれることはなく、
足早に教室から出て行ってしまった。
追いかけてみると、
屋上に辿り着いた。
誰もいない静かな空間。
グラウンドで遊ぶみんなと
遠くを見つめると
駅周辺の高層ビルの数々が見える。
桃くんは柵のギリギリに立って、
その様子を眺めているようだった。
紫 『…桃くん、?』
桃 『、!』
紫 『ごめん、ついてきちゃった、笑』
桃 『…………、』
紫 『…あれ、お弁当は、?』
てっきり屋上で食べているものだと思っていたのに、
桃くんの手にはお弁当箱らしきものは見当たらなかった。
桃 『っ…、』
紫 『ごめん、嫌なこと聞いた…?』
俺がそう聞いても答えることなく、
ずっと地面とにらめっこしている桃くん。
桃 『……準備のとき、話す、』
紫 『…!』
紫 『わかった、!』
勇気を持ってそう言ってくれたことを、
俺は知っていた。
だからこそ、ものすごく嬉しかったんだ。
結局、お昼は俺の分をわけあって食べた。
桃くんは卵焼きがお気に入りなんだって。
紫 『そろそろ完成するね〜』
桃 『ん、』
そろそろ完成する、と言いつつも、
俺は不器用だから、
器用な桃くんにほとんど任せっぱなし。
本当はもっとやりたいんだけど、
下手に動いて失敗した過去が俺の動きを止める。
紫 『…….今日のお昼の話、聞かせてくれる、?』
とても言いにくかったけど、
早く桃くんのことを知りたかったので
聞くことにした。
桃 『…コク、』
小さくうなづいて、
桃くんはゆっくりと話し始めた。
桃 『俺は…家族仲が悪くて、』
桃 『父親は借金まみれ』
桃 『母親はギャンブルに依存してる、』
桃 『俺のことなんて誰も見てなくて、』
桃 『誰かに見てほしい思いだけで勉強して』
桃 『努力して』
桃 『この高校に入ったけど』
桃 『やっぱり俺のことなんて誰も見てないし』
桃 『俺が努力したことも知らない』
桃 『みんな努力してるんだから当たり前なんだけどね、』
桃 『……家にも帰りたくないし』
桃 『お金もないから』
桃 『毎日バイト漬け』
桃 『……稼いでも稼いでも』
桃 『俺の手元に残るお金なんてない、』
桃 『そんなんだから、弁当もない』
桃 『……それだけ、』
紫 『っ…、』
紫 『それだけなんかじゃないよ、』
紫 『頑張ってきたんだね』
桃 『っ…、』
桃 『誰にも注目されないなら』
桃 『誰とも関わらずに死にたいって思ってた、』
桃 『だから…紫ーくんとも本当は距離を置きたかった』
桃 『でも…自然と近づいてしまった、』
桃 『友だちになれるかもしれないって』
桃 『初めて思えた、』
桃 『紫ーくんのおかげだよ、』
紫 『…!』
紫 『ありがとうニコ』
正直、ここまで自分のことを
話してくれるとは思ってもいなかった。
その日以降、
俺が親に頼んで
弁当を二つ作ってもらうようになった。
紫 『桃くん、進路は決めてるの?』
高3の春。
ふとそんな質問を投げかけた。
桃 『いや、決まってない』
俺とであれば
普通に会話ができるようになった桃くんは
そう答えた。
紫 『そっか、』
紫 『行きたい大学とかないの?』
桃 『う〜ん、』
桃 『お金ないし。親も払ってくれないし、』
桃 『それに…』
紫 『それに、?』
桃 『俺、25までの自分しか想像できないんだよね』
当たり前かのようにそう言い放つ桃くん。
紫 『え…なんで、?』
桃 『わかんない、笑』
桃 『小学生からずっと。』
桃 『……将来の夢を描いてくださいとか言われてもね、』
桃 『ああいうのが一番嫌い、笑』
桃 『夢を持てるのが当たり前って思うなよな、笑』
紫 『っ…..、』
確かにそうだ。
言われた通り、
何も考えずに
俺は今まで生きてきた。
夢を持つのも当たり前だと思っていた。
でも、
それは俺が幸せだからなのだと
今更気づいた。
桃 『…あ、でも』
桃 『夢を持つ人は嫌いじゃないよ』
桃 『かっこいいと思うし、憧れる』
桃 『俺がひねくれてるだけだよ、笑』
紫 『そんなことない、』
紫 『…….ずっと苦しい想いをしてきたなら』
紫 『ずっと孤独だったのなら』
紫 『当たり前のことだと思う』
紫 『何にもわからない俺が言うのもあれだけど、』
桃 『……笑』
桃 『紫ーくんは優しいね、ニコ』
そう言って微笑む桃くんは、
とても儚く、美しかった。
紫 『バイトだけで大丈夫かなぁ…、』
卒業式。
つい心配になってそう言ってしまう。
桃 『ま、すぐ死ぬし問題ないだろ、笑』
この先、
桃くんは今まで通りバイトをして過ごすと言う。
俺も大学に行くつもりはなかったけど、
親に言われて結局進学。
生活が変わったら
桃くんと会える時間は確実に減る。
それが嫌で仕方なくて、
就職してほしいと頼んだけど、
両親との関係と
桃くんの気持ちが変わらないこともあり、
他人の人生に口を出す自分が惨めに思えて、
それ以上桃くんの未来に対して何か言うのはやめた。
紫 『また会おうね』
桃 『ん、』
紫 『やっほ〜』
桃 『うい〜』
紫 『おじゃましま〜す』
高3だった俺たちも、
今や24の年。
桃くんのあの気持ちがまだ変わっていないのだとしたら
彼にはあと一年しかない。
年越しは桃くんとしたいな、なんて考えて
今日は彼の家に来てみた。
相変わらず綺麗にしていて
変わってないんだな、と思う。
紫 『今日が大晦日なの早すぎない?』
桃 『ん〜まぁ?笑』
紫 『え、早くないの?』
桃 『何するでもなくただ生きてるだけだからね』
紫 『……..っ、』
紫 『やっぱり…気持ち、変わってないの、?』
桃 『今のところはね』
紫 『そう…』
出会って7年。
それだけ年月が経てば、変わるのではないか。
生きたいと思ってくれているのではないか。
そんな甘い期待をした俺が
物凄く醜く感じた。
紫 『…もしさ、』
桃 『…?』
紫 『もし、俺がわがままを言っても良いんだったら、』
紫 『俺は…生きていてほしい、』
紫 『ずっと親友でいたい、』
紫 『桃くんにとって俺は親友じゃないかもしれないけど…』
紫 『置いて行かないでほしい、』
紫 『……..初めて出来た親友だったから、』
桃 『え…?』
桃 『たくさん友達いたじゃん、』
紫 『…確かにいたよ、』
紫 『でも…』
桃 『でも…?』
紫 『あれは…本当の友達じゃない、』
桃 『は…?』
話すしかない。
俺の過去を。
紫 『俺は…桃くんとは真逆の人生を歩んできた』
紫 『親に守られて』
紫 『親の言いなりになって』
紫 『親が心配しないように生きてきた、』
紫 『……俺の親は普通を望む人たちだから』
紫 『何か特別なものを持ってはいけなかった、』
紫 『普通に学校に行って』
紫 『普通に勉強ができて』
紫 『普通に運動ができて』
紫 『普通に友達がいる』
紫 『そこから外れちゃいけなかった、』
紫 『だから、』
紫 『無理にでも友達を作らなきゃいけなかった、』
紫 『自分を殺さなきゃいけなかった、』
紫 『…….最初はそんな生活が嫌だって思ってたはずなのに』
紫 『気づいたら考えることもやめてた、』
紫 『だから、言われた通りの高校に行って』
紫 『言われた通り大学に進学した』
紫 『……そんな操られた人生の中で』
紫 『唯一、自分の意志を持って友達になりたいと思えたのが桃くんだった』
紫 『生きてきた24年間の中で、親よりも大切な人なんだ、』
紫 『だから…』
紫 『置いていかないで、』
紫 『俺をひとりにしないで…、』
桃 『っ………、』
桃 『………考えておく、』
桃 『…….きっとね、ニコ』
君の描く未来のその先に、
君が生きていますように。
今年も一年ありがとう。
episode1.
『君が生きていますように。』
【読者の皆様へ】
今年もたくさんの応援をありがとうございました✨
皆様のおかげで、10月には活動1周年も迎えることができました。
1年間ありがとうございました!
2024年もよろしくお願いします✨
それでは皆様、良いお年をお迎えください✨👋🏻
Saya